愛しき傷痕【R18】

「あ、ぅ……っんん!」

 耳朶を打つ、愛しい声。熱く戦慄く粘膜に包まれ、オルシュファンもまた堪えるような息を吐いた。

「は、ぁっ、あ、あ……っ」

 ぞくぞくと走る甘い痺れ。中をかき回すように腰を揺らめかせれば、まるでもっととねだるようにきゅうきゅうと締め付けてくる。

「ハル……っ」

「んぅ、」

 柔らかな唇に吸い寄せられるようにオルシュファンは己のそれを重ねる。合間に漏れる吐息すら愛しい。

 この身体は己以外を知らないのだという事実が、下らない男としての独占欲を酷く刺激する。――もしあの時、この命が尽きていたら。もしあの時、彼女への想いを捨て、完全に拒否していたら。この人は別の誰かを愛したのだろうか。そんな可能性が脳裏を掠め、腰の動きが速まる。最奥を突き、自分を刻みつけるように。

 興奮と焦燥とで、否応なしに心拍数が乱れ行く。

「ぁ、あッ、シュファ、ん……! シュファンっ……!」

「ッ!」

 ――ふと苦しげな、堪えるような呻きと共に律動が止まり、ハルドメルは涙の滲んだ瞼をゆるゆると持ち上げる。昂ぶったままの身体は変わらず甘く疼くが、自分に覆い被さる男の様子に心配げな視線を向けた。

「シュファ、ン……?」

 ハルドメルは首筋に顔を埋めるようにして苦しげな吐息を零しているオルシュファンの背を撫でた。身体を貫いた傷の痕を。

「……、……すまない……大丈夫だ」

 顔を上げ、笑って見せるオルシュファンの顔から汗が滴り落ちた。

――――――

 あの一撃を受けて奇跡的な生還を果たしたこと。目が覚めて、自分の置かれた状況を認識した時から、覚悟はしていた。

「――では、」

「……日常生活に問題がない程には、しっかり回復しておられます。ですがやはり前線に出ることは……」

 身体を貫いたあの一撃は肺までも傷付けていた。リハビリをした今もまだ、長時間、あるいは負荷の高い運動は息切れしやすく、時には痛みも伴う。運動そのものに限らず、気候や疲労度によっても調子を崩す日がないわけではない。そして――。

「もちろんオルシュファン様のこと、リハビリを続け身体を鍛えれば下級兵よりも戦えるでしょう。……後遺症がある以上、主治医としては賛成しかねますが」

 蛮神ナイツ・オブ・ラウンドの力を帯びたあの一撃には、呪いにも似た効果が宿っていた。回復魔法の阻害、それは戦いに身を置く者にとってあまりに大きなハンデだ。全く効かないわけではないが、多く見積もっても健常者の一割程度しか恩恵を受けられないその身体では魔法による応急処置は受けられず、傷一つ負うだけで前線を退かざるを得ないだろう。この傷を癒やし生還することができたのは――運と、錬金術師達が作り上げた薬品と、グリダニアの幻術皇達の力あってこそだ。

「前線にあまり出ない指揮官クラスであれば務めることもできるかもしれませんが、それは貴方の望むところではないのでしょう」

 訊ねるよりも早く答えを出され、オルシュファンは大きく息を吐いた。

 医師から話を聞いた時、覚悟していたとは言えショックであることに変わりは無かった。そして、諦めきれない心もまたあった。

 だからこそあの時、アラミゴ解放のための外征騎士団に手を上げたのだ。銃士隊を主とした後方部隊の指揮官。今までとは全く違う上、本格的に前線に出るというわけでもない部隊。

 それでも、今自分にできることをしたかった。本当は冒険をしたいはずなのに、いつだって誰かのために危険に身を投じる彼女の、少しでも力になりたかったのだ。

 けれど外征騎士団、そして一時的にではあるがキャンプ・ドラゴンヘッドを再度預かって、オルシュファン自身もわかってしまった。身をもって実感した。

 エオルゼアの人間は、多かれ少なかれエーテルを扱う。魔法だけではなく、肉体や武器を扱って戦う者であっても、瞬間的にエーテルを練り上げ力を増幅させたり、守護の力として発現させる。それを自然にできるように訓練を行う。

 オルシュファンに残された後遺症は回復魔法だけでなく、エーテルの流れそのものの阻害という、戦闘を生業とする者にとって致命的なものだった。全くできないわけではないが、急激なエーテルの増減が起こる戦闘は特に身体に負荷をかける。医師が止めるのも当然の状態だった。

 ――それだけならまだしも、焦りと嫉妬で彼女を、傷付けてしまうところだった。否、傷付けた、のだ。

「――戦うばかりが、守ることじゃないよ」

 友の言葉がなければ、今でも未練がましく騎士として戦う道を模索していたのかもしれない。

 戦闘職と違い、急激な負荷をかけない――繊細な力の流れを維持する必要のあるクラフターであれば、今のオルシュファンでも力を発揮することができる。一からの修行となるが、それでも。

 国のために。友のために。できることはあるのだと。大切な親友はいつも、オルシュファンを救う言葉をくれた。

――――――

「……すまない」

 痛みを抑えるように、胸に手を当てる。稀ではあったが、行為の際にも具合が悪くなることもあった。今日は一段と、痛む。

「……痛む……? 無理、しないで……」

 上気し赤くなった顔で、ハルドメルの手がオルシュファンの両頬を包むように触れた。慈しむ指先が温かく、オルシュファンは眼を細める。

「大丈夫だ……この痛みも、お前に救われたからこそ感じる……愛しいものだ」

「……」

 眉根を寄せ、海色の瞳が少し揺れる。

「お、っと……」

 よく鍛えられた、逞しく美しい腕に引き寄せられ、抱きしめられる。ハルドメルの身体を押しつぶさないように気をつけながらも、傷を撫でる手が心地よくて。

 ちゅ、ちゅ、と頬に、耳元に唇が触れていく。

「……私にとっては、シュファンに救われた証で、今、生きてる証」

 いつもその真っ直ぐな想いが、胸の奥を暖め、甘く疼かせる。代償が大きくともこの傷が、二人にとって大切で、愛しいことに変わりは無い。

「シュファン……」

「どうした?」

 ハルドメルは少し恥ずかしそうにしながらも、耳元で囁いた。

「ちょっと……一度、ぬ……抜いてくれる……?」

「あ、あぁ……」

 まだ中に収まったままだったものをゆっくりと引き抜けば、抱きしめる腕に少し力がこもった。零れるか細い声が、少し落ち着き始めていた熱をまた昂ぶらせる。はふ、と一つ息を吐いたハルドメルが、更に腕の力を強くした。

「え、」

 ハルドメルはオルシュファンの身体をがっちりホールドしたまま寝返りを打って転がり、体勢を逆転させた。驚いて目を見開くオルシュファンの視界に、馬乗りになったハルドメルが映る。

「ハ、ル?」

「き、今日は私が動くから……無理しちゃだめ……」

 いつもオルシュファンに身を委ね、ありのまま受け止めてくれるハルドメルが上になるというのは初めてだ。

 元より男女の関係にそこまで関心を抱かず、知識も乏しかった彼女がここまでしてくれるようになるなんて。男として嬉しくないわけがない。そしてこの体勢は、確かに楽でもある。

「ん、……」

 オルシュファンに跨がったハルドメルは一度身をかがめ、その傷痕に口付ける。何度も何度も、癒やすように、慈しむように。そんな優しい触れあいも、今は欲を煽るもので。

 身体を起こし、期待に震え天を向いた雄に恐る恐るといった様子で触れながら、ハルドメルは膝立ちになりそれを秘部にあてがった。だが初めてのことでぬるつくそれを上手く導けない彼女に、オルシュファンも少し身を起こして手を添える。

「ぁ、……!」

「っ……」

 先端が侵入を果たす。つい先ほどまで雄を受け入れていた場所は、さしたる抵抗もなく再びそれを飲み込んで歓喜に震える。

「あ、ぁッ……」

 一度入ってしまえば後は早い。支えがなければどこまでも奥に入ってきそうなそれに震えながら、ハルドメルは息を吐いた。

「こ……な……深……ッ」

 生理的な涙が零れ落ち、オルシュファンの腹を濡らす。経験したことのない、自ら受け入れる体勢による圧迫感に耐えるハルドメルの手を、オルシュファンが指を絡めて握る。

「大丈夫か、ハル……」

 体調を心配して自ら上になったというのに、これではどちらが無理しているかわからないな、とオルシュファンは苦笑した。

 握った手の温かさに、ハルドメルが安堵したように息を漏らす。大丈夫、と言って微笑む人が、オルシュファンにとっては何より愛おしい。

「っ……ん……!」

 ゆっくり、ゆっくりと、ハルドメルが動く。たどたどしい、という表現がしっくりくるような動きだが、オルシュファンを煽るには十分だった。

 圧迫感に耐える表情、波打つ腹筋、しっとりと汗ばむ肌、動きに合わせて揺れる、二つの柔らく大きな果実。その全てを余すことなく見ることのできる体勢。

「……絶景だ……」

「ぁッ……、……?」

 思わず口をついて出た言葉の意味は、初めての体位に翻弄される今のハルドメルに捉えることはできなかった。

「あ……っ、は、……ぁ……!」

「く……っ……ぅ、……!」

 慣れてきたのかハルドメル自身も快楽をより感じられるようになり、零れる声が甘さを増す。ハルドメル自身が動くことによって、どこがより気持ちいいのかがが分かる。締め付けられる度に声を漏らしながらも、新たな発見だとオルシュファンは内心でほくそ笑んだ。

「しゅ、ふぁ……っ……ぁ……あっ……、きもち、い……?」

「あ、ぁ……ッ……最高、に……イイ……っ!」

 強く、手を握り合う。

 不意にオルシュファンが下から突き上げるように動き、背が綺麗に仰け反った。浅い絶頂で痙攣する内壁につられそうになるのをぐっと堪え、オルシュファン自身も悪戯に動きを加えていく。

「あっ、あッ、!」

「ふ、……っ……こう、すると……もっとイイ、のではないかっ……?」

「んんッ――!!」

 握っていた手を放し、ハルドメルの腰に添えて前後させる。いやいやと言うように首を振って快楽を散らそうとする姿が堪らなくて、今度は硬く尖った胸の突起を掠めるように触れる。

「ッ――! も、う……ぅ……わたしが、うご、く、のにっ……!」

「この体勢、大分楽、だからな……っ……ハルにも気持ちよく、なってもらわねばっ」

「あ、あっあっ」

 ハルドメルもまた、快楽に翻弄されながらも負けじと動いた。ベッドの軋む音がどこか遠く、目の前の男のことしか考えられなくなる。

「しゅふぁん、っ……」

 仰向けのオルシュファンに覆い被さるように上半身を倒し、口付ける。胸を押しつけるようにきつく抱き合って、オルシュファンはより深く腰を突き上げた。

 頭が真っ白になるほどの快楽に満たされ、腹の奥に熱を感じながら、ハルドメルは何度も何度も唇を重ねた。

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