※注意書き※
この話には『0話』にあたるお話がありますが、そちらはWebで公開しないため以下説明と作中説明でなんとなくお察しください
・オルシュファンは胸に大怪我を負ったけどなんとか助かった。でも怪我のことがあるのでドラゴンヘッド指揮官は解任されている。
・紅蓮冒頭の同盟軍に平民を主として編成されたイシュガルド外征騎士団団長として参加。
・ハルさん(主人公)の交友関係の広さを見たり、いつもの抱き着き癖(本編参照)をやってるのを見て嫉妬。
・夜、部屋に呼んで抱きしめキスしたり愛していると言ったり押し倒し(未遂)したけどハルさんの性格故上手く伝わらなかった。
・ウ・ザルはハルさんの友人で嫉妬された側だがオルシュファンと対話(物理)された上で和解して一通りの事情を知っている。
・ヤ・シュトラにも相談済みだけど自分で考えなさいって言われてる。
上記以外にも、[[jumpuri:連載本編 > https://www.pixiv.net/novel/series/10383513]]の先にあるifのお話なので本編の要素が多分に含まれます。本編を読むと尚お楽しみいただけます。よろしくどうぞ!
[newpage]
「シュ、ファン……?」
ベッドの上に押し倒した彼女は、驚いた表情はしていても抵抗することも焦ることもない。ただ、どうしたのか、と疑問を浮かべている。そのことが、オルシュファンには酷くーー堪えた。
「ッ!?」
その両手を彼女の頭上でまとめて押さえつけ、その喉元に噛み付くように歯を立て、肌を味わうように舌を這わせた。そうしてようやく彼女は、戸惑いながら身を捩る。
「や……っ……、な、に……っ」
星の加護をも受けた、英雄たる彼女の力は強い。いくら男と女では筋力の差があると言っても、押さえつける腕から逃れ、オルシュファンを突き飛ばすことは容易なはずだった。なのに、それをしない。
「っ……や、やだ……っ……なん、で……?」
空いた片手で、大きく柔らかなその膨らみを揉みしだく。膝を脚の間に押し付けて、女性の快楽を生み出すその小さな突起を、押しつぶすように圧迫する。
「ーーッ!」
声にならない悲鳴と共に、小さな海から滴が溢れた。
(……最低だ)
まだ日も昇りきらぬ時間帯。ベッドの上で覚醒したオルシュファンは、つい先程まで見ていた夢の内容をぼんやりと思い返して深く、深くため息をついた。
ーーーーー
バエサルの長城を確保したエオルゼア同盟軍は、一旦その足を止めた。ギラバニアへの侵略ではない、帝国を排除するための進軍。それをギラバニアの民に理解してもらい、共に闘う意思を伝えるためだ。そしてその仲介役は、暁の血盟が担うことになっている。
「あ……」
カストルム・オリエンスから、アラミゴ解放軍の拠点であるラールガーズリーチへと旅立つ前。親友の姿を認めたハルドメルはすぐにその側へ駆け寄った。
「シュファン……」
「おはようハル! イイ朝だな!」
全くいつも通りーーのように見えるオルシュファンを見て、ハルドメルは困ったように眉を下げた。
「……胸、大丈夫?」
「フフフ……お前のイイ一撃はしかと身に刻まれたぞ! 安心しろ、少し痛んだだけだ!」
「……ごめん」
例えるなら、主人にこっぴどく叱られた子犬のようだ。ミコッテやヴィエラのような耳があればきっと、へにゃりと折れ曲がっていることだろう。酷く落ち込んだ様子の彼女に、オルシュファンは努めて明るく話しかけた。――あんな事があったのに、彼女は躊躇わず自分の傍へ駆け寄った。それが答えであると、思い知らされる。
「ラールガーズリーチへ行くのだろう? 同行できないのは残念だが……イイ報せが来るのを待っているぞ!」
「…………」
ハルドメルが何かを、言いかけて止まる。だがそれは言葉になることなく、小さな小さな吐息となって溢れた。
「……行ってくるね」
いつもの朗らかさは鳴りを潜め、眉を下げたまま笑って見せて、彼女は行ってしまった。これがーーどこまで赦されるかを試した代償かと、オルシュファンは未だ痛む胸の奥を自覚しながら、その姿を見送った。
『わからないのに謝るのって最悪よ』
ヤ・シュトラに言われた言葉を思い出し、ハルドメルはすんでのところでその言葉を飲み込んだ。
ーー本当は謝りたい。自分が至らないせいで、オルシュファンを傷つけた。けれど『どうして彼は傷ついたのか』『何が悪かったのか』、その理由がハルドメルにはまだはっきりと言語化できずにいた。自分で考えろと言われたから、あれから誰にも話さずに考え続けている。
暁のメンバーと共にラールガーズリーチへ向かう道すがら。魔物との戦いはしっかりこなしつつもどこかぼんやりとしたまま。
ヤ・シュトラは理知的で何事も誤魔化さない、はっきりした物言いをする人だ。その言い分も知識もいつも正しくて、何度も助けられている。だからこそ、その言葉を無視してはいけないのだ。
しかしいつまでも、個人的なことで悩んでいるわけにもいかない。アラミゴ解放軍のいるラールガーズリーチまでには気を引き締めなければと思いながら、それでも胸の内にある苦しさがどうしようもなくハルドメルを苛んで、気付かれないように小さくため息を吐いた。
ーーーーー
ラールガーズリーチが襲撃され、暁の血盟、そして光の戦士が帝国の軍団長ゼノス・イェー・ガルヴァスに敗れた。その一報は受けた被害以上に同盟軍に動揺をもたらした。ましてや光の戦士――ハルドメル・バルドバルウィンの友であり、人一倍その身を案じているオルシュファンは気が気ではなかった。最も騎士団を任されている手前、そんな様子を表に出すことはなかったのだが。
しかしながら続々と運ばれてくる負傷者達、その中にまさか彼女がいるのではと見るたびに胸が掻き毟られるような気分だった。負傷者の一団にその姿がないことに安堵しながら、また問題解決のために無茶をしているのではと心配になる。残念なことに当然それは杞憂に終わらない。
「ハルはリセ達と東方に行った。あっちの反乱軍と協力……できるかは分からないけど、それを目指しつつ帝国の戦力を分散させるって魂胆だ」
ラールガーズリーチからの撤退支援から戻って来たウ・ザルは、暁の一員として、そして騎士団の副団長としてオルシュファンにそれを告げる。オルシュファンも団長としてそれを受けたが、その胸中は穏やかではない。
誰にでも抱擁をする姿に嫉妬して、事もあろうか部屋に連れ込んで、抱きしめて口付けて、押し倒すことまでして。どこまで赦されるかだなんて愚行を働いて――そうだ、まだ謝ってすらいない。イイ朝だなんて気にしていない風を装った。全部彼女に押し付けたようなものだった。その上、もう一度顔を見ることも叶わず彼女は遥か東の地へ旅立ってしまった。
いつだってハルドメルの旅は過酷だ。時には超常の力を持つ神にさえ挑む。それができるだけの力が彼女にはある。どんな困難に打ち勝ってみせると信じているけれど、それでも。もしその身になにかあったら――あれが最後の語らいとなってしまったら――。
「しっかりしろよオルシュファン。俺たちはできることをやるしかないんだから」
ウ・ザルの言葉にオルシュファンは思考を中断した。彼の言う通り、どんなに嘆いたところでハルドメルの道についていくことはできない。ならば、できることを全力でやるだけ。東方の旅路が終わってこちらに戻ってきた時、すぐさま動き出せるように。
無意識に額に触れる。かつてそこに受けた願いは、オルシュファン自身と、彼の周りにいる人達の幸せだ。ならばそこには、彼女も当然含まれていなければならない。例えこの想いが届かなかったからとて、ハルドメルは友であることに変わりないはずだ。そして、世界にとっても必要な存在だ。その一助に、ならなければ。
「……ありがとうウ・ザル。君は……とてもイイな!」
「そりゃどうも……」
ここに来てようやくオルシュファンは、ウ・ザルの照れ隠しが少し分かるようになっていた。
―――――
「ハル、考え事かい?」
船の後方、とうの昔に影も形も見えなくなったリムサ・ロミンサの方角を見ながら物思いに耽っていたハルドメルは、アルフィノの言葉に振り返る。
「……考えるのは得意じゃないのにね」
苦笑すると、アルフィノは微笑んで隣にやってきた。
「……君にだって人に話したくないこともあるだろうから様子を見ていたが……なかなかに難しい問題があるようだね」
「……うん」
ゼノスとの戦い。被害を受けた解放軍の救助。目まぐるしい状況の中で一時は忘れていたようだが、東方への移動という短くはない時間ができてしまい、またその悩みが頭をもたげたようだ。ここまで思い悩むハルドメルの姿を、アルフィノは竜詩戦争の時でも見たことがなかった。だからこそ少しでも力になりたいと思う。
「ハル、もし考えがまとまらないようなら……一度紙に書き出してみるというのも一つの方法だよ」
「紙に……?」
「私も幼い頃は考えをまとめるのが苦手でね……そんな時おじい様が羽ペンをプレゼントしてくださったんだ。頭で考えるだけでは駄目だと」
その羽ペンはもう使えないけれど、今でもシャーレアンの実家に大切にしまってある。
「実際書き出してみると、不思議とすっきりするものだよ。箇条書きでも、想ったことを綴るだけでも……。それを改めて読むことで俯瞰的にその出来事を見られるようになったり……今は書き出さなくても考えられるようになったけれど、気が向いたら一度試してみるといい。幸い到着までにまだ時間はあるからね」
「そっかぁ……うん、ありがとうアルフィノ」
ハルドメルがようやく少し、肩の力を抜いた。
その日の夜、ハルドメルは普段から使っている手帳に向き合っていた。受けた依頼についての走り書きや買い出し用のメモなど、取り留めのないものばかりだ。その中に、あの日のことを書いてみる。
(男の部屋について行くのはよくないって言った)
その理屈は理解はできる。けれどオルシュファンは友達だ。
(抵抗するなら、胸を打てって言った)
最終的にその言葉通りになってしまったことを思い出して、まるで自分がそうされたかのように胸の奥が痛んだ。あれは、オルシュファンがその身を投げうってハルドメルを救ってくれた証だ。それを咄嗟のこととは言え攻撃してしまうなど、あってはならないことなのに。
(……抱きしめて)
キスをされた。初めて、だった。
「……」
あの感触を思い出して、思わず顔が熱くなる。あの時はただ驚くばかりで――こうして落ち着いて振り返ると急に恥ずかしくなってくる。啄むような唇の動きも、ざらつく温かな粘膜の感触も、妙に生々しく思い出されて頭を振って追い出した。
オルシュファンと抱擁を交わしたことはある。けれどそのどれとも違う、力強さと熱を感じるもの。いつもの優しく頼りになる、時には強きものに対して情熱的な瞳を見せる彼とは違う雰囲気に戸惑った。
『私以外の誰かとこうして……唇を重ねたことは?』
つらつらと文字を綴っていた手の動きが鈍る。
『副団長とは随分仲睦まじくしていたではないか。あれには妬いた』
『少なくとも私は、貴女を愛している』
こうして書き出す前から、何度もこの言葉を思い返している。言葉を重ねる程、オルシュファンは表情に陰りを見せた。その意味を考えて。
(……でも)
あの時、突然のことで困惑したハルドメルは、オルシュファンが風邪でもひいているのではないかと咄嗟に思った。そうでなければ――少ない量ではあったが――酒に酔っているのだと。それ以外に、考えが至らなかった。今でもまだ、この可能性を信じられずにいる。
(……どうして、私を)
オルシュファンという人は、とても素敵な男性だ。強く、明るく優しく、気持ちの良い人だ。友と民を愛し、女王殺しの嫌疑をかけられた自分達を温かく受け入れもしてくれた。フォルタン家に後見人となってくれるよう説得してくれた。数えきれない程に、友たる自分達を助けてくれた。――この命をも。そんな人だから、きっと同じくらい素敵な、お似合いの人がいるはずだ。彼を想う貴族の娘が少なからずいるのだと、エマネランが言っていたこともある。それなのにわざわざ――自分を選ぶとはハルドメルは思えなかった。だが、彼が嘘を吐くということもまた、考えられない。だから、とても困っている。
お世辞にも美人とは言えない。旅をして、危険なことばかりして、身体も傷だらけ。強さという意味ではオルシュファンはよく誉めてくれるし、強いもの、逞しいものが好きだと自称しているが、それとこれとは話が別だ。
(ラールガーズリーチに行く前は、普通だったし……)
あの朝に会ったオルシュファンは、いつも通りだった。だからやっぱりあの夜は、酔っていたのではないか――そう思うのに、心の靄は晴れないまま。
『……でも、付き合いは続くでしょう。だからその上に何をどう積み上げるべきか、そしてどこにたどり着きたいか……よく考えて』
動かすのが億劫な程に重く感じる手を無理やり働かせ、ヤ・シュトラに言われた言葉も綴る。
オルシュファンは親友だ。自分を助けてくれた、大切な人だ。こんなぎくしゃくした気持ちのまま、失いたくはない。ずっと一緒にいたい。近況を語り合って、時には手合わせして、笑い合っていたい。例え一番になれなかったとしても。
(……落ち着いたら、ちゃんと話さないと)
東方への旅は始まったばかり。そして無事東方との協力が取り付けられたとして、次はアラミゴに向かわねばならない。同盟軍に合流すれば顔を見るくらいはできるかもしれないが、個人的な話をしている余裕はあまりないだろう。
落ち着くのがいつになるのか見当もつかないが、それまでにもう少し、この問題に向き合わねばならない。だがそれ以上に、与えられた役割を――リセを支え、アラミゴ解放軍に再び闘志の炎を灯す、そのための方法を見つけなければいけない。個人的なことで悩んでばかりもいられないと、ハルドメルは最後の一文を書ききって手帳を閉じた。
アルフィノには改めて感謝しておこうと思いながら、灯りを消す。これでいつでも、あの時のことを振り返ることができるから――。