日常に溶け込む危険

 ぽふり、と。
 柔らかな感触に受け止められたかと思うと綺麗な銀糸が頬に触れた。
 目の前には、彫像のように整いすぎた美貌の男。その背後には真っ白な天井。

 ……えーっと。

 なぜこんな事になったんだったか、と頭を働かせようとしたが、保健室特有のツンとした消毒液の匂いとゆっくりと降りてきた顔に邪魔されてしまった。

「っ……ちょ、たんま! ストップストーップ!!」
「なんだ」
「ここ! 学校!!」
「そうだな」
「そっち教師! オレ生徒!!」
「それがどうかしたのか?」

 何を今更とでも言わんばかりの顔でしれっと聞いてくる男は、この学校の養護教諭で。

「お前もそれを承知で受け入れたんじゃないのか?」
「それはっ…………そ……っすけど…………ぅ……」

 ……そしてオレの恋人、だったり、する。

 保健医としてそれはどうなんだと思わせるような銀の長髪が、窓から吹く風でさらりと揺れる。外からは走り込みをする運動部の声が聞こえた。

「なら問題は無いな」
 ベッドに腰掛けた状態でとんと押されて倒れたので足は投げ出したままだ。けれど体を引っ張られて、足もベッドの上に持ち上げられてセフィロスもベッドの上に乗ってきてカーテンまで閉められた。
 ナニコレ、完全に部活でられないフラグなんですけど。

「今日はジェクトが出張だろう? 部活は自主練のはずだが?」
「人の心読むなー! 自主練でも出るっつーの! つーかどけってばセフィロス!」
「断る」

 にやにやといやらしい笑みを浮かべたままオレが騒ぐ様を楽しそうに見ているセフィロス。Sだ。絶対Sだ。オレを苛めるのがそんなに楽しいのかよ!

「部活に出るのならなぜここに来た?」
「あ……えと……」

『部活行く前に会いに来ました』

(……とか恥ずかしくて言えねーッス!! えーっと……えっと……あ!)

「く……クッキー! 家庭科でクッキー作ったから渡そうと思って……」

 六時限目の家庭科で作って鞄に入れてあるクッキーの存在をようやく思い出した。そう、もともとコレを渡す目的もあったのだ。……会いたい、という方がメインではあったけど。
 が、せっかく理由を告げたというのにこの男は。
「後でじっくりいただこうか」
 なんて言いながらやらしー手つきで唇をなぞった。
「ってだからなんでそうな「失礼しまーす」」

 思わず声を上げそうになって、寸でのところで飲み込んだ。

 ――不味い。非常に不味い。カーテンが閉まっているとはいえ今この状況は。

「セフィロス先生ー? いませんか?」
「あぁ、いるぞ」

 やばいって(目で)言ってんのにこの男はぁあぁ!!

「何かあったのか?」
「ちょっと部活中に捻っちゃって……部室の救急箱の湿布きらしてたんで貰えるかなって」
「今体調が悪いやつを見ていてな。後で包帯を巻いてやるから、自分で貼っておいてくれないか。……あぁ、あと静かにな」
「はーい」

『っ……どーいうつもりだよセフィロス!』
 本当に小さな声で、もう口パクでしかないそれで非難するが、やっぱり彼はしれっとした顔で。

「……顔色が悪いな、大丈夫か?」

 とかカーテンの向こう側にいる生徒に聞こえるように言ってくるし! 顔色悪いのはあんたのせいだろー!!

『ば、ばれたらどうなると思って……』
『案ずるな』
『へ?』

 やけに自信満々な感じなので何か理由でもあるのだろうかとじっとセフィロスの目を見た。

『ばれなければいいだけだ』

 アホかぁぁぁぁ!!

「……、っ、……」

 ばれたら教育委員会とかPTAとか学校中が騒ぎになるってのに! あぁもうそんな楽しそうな目するなよな!
「ッ…………ふ……」

 絶対に声なんか上げてはいけない。皺くちゃになるほどシーツを握り締めて、熱くてぬるつく舌の攻めが終わるのをじっと耐える。
 乱れる息すらも聞こえないように必死で押し殺した。セフィロスも一応気を使ってはいるのか、淫らな水音は聞こえなくて、ただ外から聞こえる運動部の掛け声だけが現状を思い出させる。

「……ッ……!」

 ぬる、と舌を舌でなでられて肩が跳ねた。じわりと下腹部の熱が上がったような気がして、気を散らそうとシーツを蹴った。

(――――、やば……)

 音も立てない静かな口付けなのに、ぞくぞくと背筋に甘い痺れが走る。薄い布一枚で覆われただけの場所で、すぐそこに人がいるのに。
 もう息を押し殺すのも苦しくて限界で、じわりと涙が滲んだ時に唐突に唇が離れて咳き込んだ。

「先生、大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
『はぁっ……なにがッ……げほ……問題、な……けほけほっ』

 くすりと笑うと、綺麗な手が頬を撫でた。

『そんな物欲しそうな顔をするな……続きは後でしてやろう』
『っ~~~~誰がっ!』

 げしげしと照れ隠しに蹴ってやっても全然応えてなくて、さっさと生徒の治療に行ってしまったセフィロスの背中がカーテンで遮られるまでがるるる、と睨みつけていた。
 ――ぼふりとベッドに顔を埋める。
 ひんやりとしたシーツがちょうど良いくらい、体が熱い。

 ほんの少し反応してしまっている下半身が、セフィロスが戻ってくるまでにちゃんと治まっているように祈りながらも。

(今日は自主練いいかぁ……)

 ――なんて。思ってしまっている自分は、相当この男が好きなんだなぁと思った。

――――――

あとがき。
 らぶらぶセフィティおいしいです。
 ネタの泉より、『危険なセフィティ』で書かせていただきました。佐内様、ありがとうございました!ご希望に添えられたでしょうかー!?
 危険な、というのがなかなかに思いつかなかったのですが、
 危険→危険な恋みたいな安直な考えで教師×生徒にしてみました!ばれるかばれないかの危険ぎりぎりな所での逢瀬……もえます!
 でも教師×生徒だと危険というより禁断の恋……?でもどっちもおいしいです……!
 めずらしく(当サイト比)英雄さんが余裕綽々なSタイプです。書いてて楽しいv
 絆されてるティーダとか、余裕綽々だけど実は心底ティーダにめろめろ(結局めろめろなんか)な英雄とか、自分の萌え要素が入りまくりですw
 学パロはまた書いてみたいですね~v最後まで読んで下さってありがとうございました!!

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