星に願う

 七夕という文化があるらしい。俺にはよく分からないが、昔話にちなんだ行事だそうだ。誰が言い出したかは忘れた。
 そして今日がその日だというのでささやかながらそのイベントを行うことになったのだ。

「結んだ?」
「結んだ結んだ!」
「じゃあ立てるぞー」

 (どこから持ってきたのか)笹に飾りつけをし、願いを書いた紙を吊るした。
 これくらいの事で願いが叶うとは思わないが、たまには悪くない。

「皆、ちょっと来て」
 ティナが珍しくうきうきとした表情で手招きをしている。傍にセシルもいるあたり嫌な予感しかしない。
「これ、みんなの分作ったの!折角だから……ね」

 そういって差し出されたのは、浴衣という衣服だ。……やけに女物らしき柄が多いのは気のせいだろうか。
「少し前からね、準備してたんだよ」
 戦いばかりの毎日だが、たまには息抜きも兼ねて皆とこういう事をしたい、というティナの希望があったらしい。
「だが……女物は勘弁してくれ……」
「可愛いのに……」
 少ししゅんとなる彼女には悪いと思ったが、きちんと男物も用意されているあたり覚悟はしていたようだ。
 ……まぁ、気が向いたら……。

「あーっ!俺コレ着てみたいッス」
 ティーダが楽しげに手に取ったのはどう見ても女も「うん、じゃあ着付けしようか」
「ティーダ、きっと似合うよ」
 着てもらえることが余程嬉しいのかティナがティーダの手を引き、着付けのためにセシルも部屋へと入っていった。
 妙な沈黙が降りる。

「自分から着たいなんてなぁ、っていうかティーダ分かってないだろ」
「だよなぁ。ま、俺もレディの笑顔のためなら着るけどな」
「(………女装)」
「……何か言いたそうだな……スコール」
「別に……」
 まるでお前がやればいいとでも言うような眼差しにイラっとする。お前だって内心ティーダの浴衣姿を見たいと思っているんだろう。
「………………ゴクッ」
「どうしたフリオニール。顔が赤いが」
「い、いいやっなんでもないっ!あ、俺食事の準備がっ」
 そういってキッチンの方へ行くフリオニール。確か食事もそれっぽくすると言っていたか。

 と、ティナ達が入った部屋の扉が開いた。

 おぉーというバッツやジタンの歓声と関心したようなライトの声、固まったまま動かないスコールに迎えられ、浴衣姿のティーダが出てきた。
「へへー、どうっすか?」
「や、似合ってんなー意外と」
「意外ってなんスか!」
「ティナ、レディのお望みとあらば俺も着るぜ?」
「本当!?」

 着付けのために今度はジタンとバッツが入っていく。と、ライトも呼ばれた。どうやらものまねで手伝う気らしい。
「あ、クラウド、スコール」
 ぱたぱたと少し歩きにくそうに近寄ってくるのは、履きなれない靴(下駄と言うらしい)をはいているからだろう。
「どうッスか?」

 くるりとその場で一回転してみせる。
「あぁ……似合っている」
「へへ……」
 喉元まで出掛かった「可愛い」という言葉をぎりぎり飲み込んでそう言った。
 ……実際、よく似合っていると思う。海のような青色の生地にひまわりの花が描いてある。太陽のように明るい彼に、とてもよく合っている。いやしかし……
「……それはなんだ」
 ようやく口を開いたスコールが指差したのは、ティーダの頭。
「ん?結んでもらっただけッスよ?」
 左上にちょこんと結んである髪は可愛らしさを増している。あまりそれで小首を傾げたり上目遣いをしないでもらいたいものだ。
「おーい!次スコール達だぞ!」
 そうこうしているうちに呼ばれ、部屋へと入る。ティナに期待の眼差しを向けられたが丁重に……断れたら苦労はしない。
 結局皆、ティナには甘い。……それと、ティーダにも。

――――――

「すっげー!クラウド美人さんッス!」
「………………」
「ははは、スコールも似合ってんぞー」

 ギロリと睨まれバッツがジタンの後ろに隠れた。
 結局全員女物を着ることになってしまったが、まぁいい。
「ティーダの女装も拝めたしなー?」
「うるさい」
 小声でちゃかしてくるジタンを小突くと食事が出来たらしい。フリオニールの着替えのために交代していたセシルが呼びに来て、そのまま食事、果ては飲み会へと突入するのであった。

――――――

「…………、」
「クラウド、ちょっと酔った?」
「……いや、平気だ」
「無理はするなよ、風に当たってきたらどうだ?……そういえば、七夕だというのにまだ星空をじっくり眺めてないしな」
「確かにね。もうちょっとしたら行こうか、準備はしてあるし」
 自分としては程よく酔っていると思うのでこのまま静かに酒を交わそうと思っていたのだが。
「……ティーダは?」
「え?……そういえば……」
 周りを見ると、酔ったバッツに絡まれているスコールとそれをはやし立てるジタン。
 近くではこっそりお酒に手を出そうとしてみたティナとオニオンがライトに諌められている。
 ……ティーダが、いない。
「ティーダも風に当たってるのかもしれないね」
「そういえばさっきバケツを探してたな……何に使うのかは知らないが」
「……風に当たってくる」

 俺がそういい残し外へ向かうとくすくすというセシルの笑い声と、何か言いたげなフリオニールの視線を感じた。

――――――

 外にでると涼しい風がサァと吹いた。
 どこからやってきたのか、幻光虫があたりを漂い、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 その後を追うように歩くと、笹をおいている庭にやってきた。

「―――――」

 一瞬、言葉を忘れて見入った。
 後で星を見るためにと用意された長椅子に腰掛け、水で満たしたバケツに素足をつけるティーダの姿。
 濡れないようにと裾は捲りあげられていて、引き締まった足が惜しげもなくさらされている。
 星を見ているのか、上を見上げたまま風に吹かれ、その周りを幻光虫がふよふよと不規則に飛び交っている。

 それは、なんとも幻想的で……。

「ティーダ」
「クラウド!」

 本当に、夢幻なんじゃないかと思わせるくらいに。
「ここにいたのか」
「うん、酒飲めないし、外涼しそうだったから」

 ちゃぽちゃぽと水を揺らす足。隣に腰掛けると嬉しそうに笑った。
「クラウドは何て書いたんスかー?」
「……特に思いつかなかった」
「む、またッスか」
 折角のイベントなのに!とでも言いたげに不服そうな目で見てくる。仕方ないだろう。
「つーか、そう言うと思って俺クラウドの分も書いといたッス!……っと、コレ!」
「…………」

 その短冊にはこう書かれていた。
『クラウドの夢が見つかりますように!』

「……いいのか?俺のた「あ、他の皆の分もちゃんと書いてるッスよ!」……」
 ほら!と上を指差すと成る程、やたら短冊が多いと思ったらティーダの物だったのかと納得する。
「……お前は本当に欲張りだな」
「欲張ってないとやってらんないッス!」

 立ち上がり、少し手を伸ばして他の短冊を見てみる。
『ジタンとオニオンの背がもっと伸びますよーに』
『フリオの夢が叶いますように!』
『セシルとゴルベーザが仲直りできますように!』
 何気に失礼ではと思うものもあるが、一枚一枚、仲間を想う願いはティーダらしくて。
「いいのか?願い事は一つじゃないと駄目なんじゃないのか?」
「え、そうなんスか!?……でも大丈夫ッスよ!もしかしたら、全部叶うかもしんないじゃん!」
 実にティーダらしい回答に苦笑しながら短冊から手を離した所で、ふとある人物のことを思い出した。

「……お前の」
「ん?」
「お前の父親の事は……」
「………………」
 む、と困ったように眉を寄せ、俯いてしまったティーダの隣に再び座る。
「……仲間全員の分を書いたんだろう?」
「そうッスけど……」
 拗ねたように口を尖らせるティーダの頭を撫でてやる。
「別に、お願いなんかしなくても……うっとおしい位ピンピンしてるから、いーッス」
「……確かに」

 あのジェクトだ。病気はおろか、怪我をしたってあっという間に治してしまいそうだ。いや、そもそもそんなもの知らないと言わんばかりに豪快だ。
「願わなくたって……いつも…………こっちの気も知らないで……」
「……ティーダ?」
「何でもないッス!」
「………………」

 近くにあった、余った短冊を手に取ると、さらさらと文字を書いて吊るした。ティーダは不思議そうにそれを眺める。
「願い事、あったんスか?」
「あぁ」
「見せて!!」
「嫌だね」

 近くにあった台を使い、一番高いところに吊るしておいた。(ついでに台は横に片付けた)
「う~……意地悪ッス……」
 頬を膨らませるのが可笑しくて可愛くて、喉の奥で笑うと頭を撫でて、宥めるように膨らんだ頬にキスをした。
「~~~~!」
 ティーダが顔を真っ赤にして離れると同時に他のメンバーが外に出てきた。雲は出ていない。星を見るのに最適だ。

「あれ、どうしたのティーダ。顔赤いよ?」
「あーティーダずりー!俺も入れろ!」
「わ、バッツ!」
「ほれ~スコールも!」
「バッツやめ……」
「遠慮するなー!」
 バケツに足を突っ込んできたバッツのせいで水が飛び散る。ぎゃあぎゃあと騒ぐうちにティーダの顔が赤かったことはうやむやにされたようだ。後でバッツはライトかフリオニールに説教食らうだろう。

「で、どこまで行ったのオニーサン?」
「スコールには黙っててあげるよ?」
「いい性格してるなお前ら……」

 興味津々といった様子でジタンと、珍しくオニオンが訊ねてくるのを無視して星空を見上げた。
 ……と、ティーダの短冊の一枚に目が止まる。
(裏に何か……)

『            』

 小さい字で、何度も消した後を残して、それは書かれていた。
(何だ……)

 ちゃんと書いていたのか。
 口元に自然と笑みが浮かぶ。

「俺の願いは、必要なかったかな……」
 俺の書いた短冊が、風を受けてひらりと舞った。

『ティーダがもっと素直になりますように』

 いや、もっと素直になって欲しい。人の心配ばかりする彼が、その内に秘めた事もいつか、打ち明けてくれるように。
 そしてあの不器用な願いも

 どうか、叶いますように。

――――――

何を書いていたかはご想像にお任せ!
クララ役得^p^スコールお疲れ様。ずっとバッツに絡まれてたよ!
オヤジの事はアレです。行方不明になって内心すごい心配してたし淋しかったのにスピラでぴんぴんしてるスフィアを見て、根に持ってるとかそんな感じ(笑
ちなみにティーダは『自分の願い』を書いてません。
またか!

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