恋人同士でする事ひとつめ。

『好き』

 何度も何度も頭の中で繰り返されている言葉。
 熱に浮かされたようにふらふらとベッドにもぐりこんだ夜。
 お互いの想いを知った日、結局一睡も出来ないまま朝を迎えた。

――――――

 朝、ベッドから抜け出して身支度をする。
 例年なら夏休み中に花火大会があるのだが、今年は少し早めに開催されたため普通の休日だった。あと少し、学校に行けばようやく夏休み。
「………………」
 夏休み、ティーダは八月半ばまでブリッツボールの大会や練習で忙しい。エースとして活躍する彼の活躍は楽しみだが、少しだけ我慢しなければならない。
 早く、二人で遊びたい。

 朝食を終え、とりあえずティーダの家の前まで来たはいいが、インターホンを鳴らすのを少し躊躇う。昨日の今日で、どんな顔をして会えばいいのだろう。
 と、そこへ朝から大きな声を出す元気な男が窓から顔を覗かせた。
「おーラグナんトコのぼっちゃんじゃねぇか」
「ジェクトさん……」
「悪ぃがガキなら今日は朝練行くとか言ってとっとと出て行ったぜ」
「そう……ですか……」
 顔を合わせなくて、少しの安堵と寂寥感を覚える。毎朝彼を起こすのは自分の役目だったのに。
「何かあったのか? 昨日は帰ってすぐ部屋に戻ったと思ったらあんま眠れてねぇみたいだったしよ」
「え……?」
「正直あんな状態で朝練とかできねぇと思うがな」
 そう言うとジェクトはあくびをしながら首を引っ込めてしまった。
 仕方がないので一人で学校へ向かうが、頭の中でジェクトの言葉を反芻する。
(眠れていないのか……俺と同じ……)
 しかし先に行くことはないではないか。顔を合わせづらいのは分かるがそれは自分だってそうで……。
(………………)

 まさか、昨日のあの言葉は何かの間違いで……いやいや自分は確かに聞いた。でもティーダは優しいから……
 ――など悶々としているといつの間にか学校へ着いていた。まだ時間はあるのでグラウンドの方へ回ってみる。
 ざっと見回したがティーダの姿はない。ブリッツ部員を見つけて訊ねてみると今日は来ていないと言う。
(どういう事だ……)
 本当に自分と顔を会わせたくなかっただけで先に学校に来たのだろうか。……だとしたら……
 ずーんと沈んでいると後ろから明るい声をかけられた。
「よースコール! 朝から落ちてんなぁ、何かあった?」
「ジタン……」
 同じクラスのジタンが挨拶しながら肩を叩く。自分の顔を覗きこんで、へぇーと呟きながらにやにや笑う。
「……何だ」
「ズバリ、恋だな」
「……、……」
 いきなり言い当てられて言葉に詰まる。ジタンは笑いながら取り合えず教室に行こうと促した。
 隠しても無駄のようなので簡単に昨日の事を説明すると思いっきり背中を叩かれた。
「すっっっこーるぅぅ! ようやくか! ようやくなのか! とりあえずオメデトだぜ!」
 ばしばしと叩きながらジタンは涙まで滲ませながら笑っている。正直背中痛い。
 それにしても何なのだろうこの反応は。まるで……
「あー? 知ってるに決まってんだろ。お前がティーダを好きな事くら……ってうぉ!」
「……いつから」
「あー……いつだっけかなぁ……つか気付かない奴なんてフリオとかライトくらいだぜアレ」
 首根っこを掴んで持ち上げたジタンは「つーか賭けに負けたー!」とか言っている。賭けってなんだ俺達を賭けの対象にするな。
「で、ティーダは?」
「………………」
「あー…………」
 何となく察したのかジタンは口を噤んだ。しかし大した問題ではない、と励ましてくる。
「ん? この時間なら……」
 教室に入る前にジタンがそう言ったが構わずドアを開ける。人はまばらだったが窓際の席にはティーダがいた。そしてバッツも。

「あーーーもーーー! ティーダはかぁいいなーー!!」
ぎゅっ。
「………………」
「うわっスコール怖っ」
 隣にいるジタンが飛びのく。それに構わずずかずかと教室に入りティーダに抱きついたバッツの肩を掴んだ。
「おはよう……」
「おースコールおは……って何か顔怖い!」
 極めて冷静にしているつもりだが、そんなに顔に出ているのだろうか。少し前まで、バッツがティーダに抱きついても心がもやもやするだけだったのに。
「あ……スコール……」
「おはよう、ティーダ」
「あ、うん……おはよ……ご、ごめんな今日先に行っちゃって……」
 ばつが悪そうにしゅんと項垂れるティーダの頭を撫でてやる。昔からの、怒ってないというサイン。ティーダは頭を撫でられるのが好きだから。
「ん……」
 そのサインにほっとしたのか気持ちよさそうに目を細めて笑うティーダが、やっぱり愛しいと思う。
「んじゃ俺教室帰るから! じゃなティーダ! 頑張れよ!」
 今のうちと思ったのかそそくさとバッツが教室から出て行く。相変わらず逃げ足だけは速いやつだ。
 小さく頷いたティーダに何かあったのかと聞くが、何でもないっと突っぱねられてそれ以上強くは聞けなかった。

「ティーダ、聞いたぞ……おめでとう」
「スコールと付き合うことになったんだよね? ふふ、嬉しそうだね」
「クラウド、セシル……! や、えっと……」
 休み時間……友人達が次々とやってきてティーダと俺に祝福やら冷やかしやらの言葉を送ってくる。
 ティーダのほうが友人が多いのは分かるが、自分と話す間もないくらい人がやってくる。
「お? 不満そうですなースコール君」
「……うるさい」
 後ろにやってきたバッツを払いのける。
 ティーダは戸惑いながらも嬉しそうで、皆そんなティーダを見ては頭を撫でたりして……ちょっと、いやかなり、不満だ。
 そこは、俺の場所なのに。

 授業中、ティーダが居眠りをしていたのは言うまでもない。まぁ、普段からよく寝ているのだけれど。

「そこの虫けら! 私の授業で寝るとはいい度胸だな!」
「痛っーー!」
 教師の投げたチョークがおでこに直撃し、涙目で額を押さえるティーダにどっと笑いが起こる。恥ずかしそうに頬を赤らめるティーダをじっと見ていると目が合う。
 笑うな、と口の動きだけで伝えてきてぷいっと横を向いてしまった。――少し、ほっとする。いつもどおりのティーダだった。

――――――

 放課後、ティーダの部活が終わるまで、今日はグラウンドで待つことにした。いつもは教室で待っているのだが、今朝みたいに逃げられては敵わない。
 夏の日差しが少しきついが、部員の好意でプールサイドのテントで見学させてもらうことになった。ブリッツ部には何度か助っ人をしたこともあるため、顔見知りも多い。 まぁ、ティーダ伝いに知り合った人ばかりだが。

「スコール! 教室で待っててよかったのに……」
「お前が先に帰ると困るからな」
 部活が終わり、着替え終わったティーダが走り寄ってくる。まだ水に濡れてしっとりとした髪に触れた。
「む……スコールを置いて帰ったりはしないッスよ……」
「朝は……」
「だから朝はっ……その……」
 しゅうぅ、と湯気が出そうな程顔を赤くしているティーダの手を引いてプールを出る。すこーる、と弱弱しい声で呼ばれたが取りあえず学校を出るまで手を引いて歩いた。
 しばらく歩くと生徒達の姿もまばらになってくる。ようやく手を離すと「え、」とティーダが声を上げた。
「どうした?」
「…………手」
 俯いて少しだけ差し出された手。髪の隙間から覗く耳まで赤くする彼にくらくらする。祭りの時、はぐれないようにと自然に握った時とは全く意味の違うそれ。
 そっと握ると力強く握り返されて心臓が跳ねる。嬉しそうにはにかんだ顔を見て顔が熱くなる。
「っ……行くぞ」
「おうっ」
 手を繋いで歩く家路は、いつもと少し違って見えた。

「あのさ、スコール」
「ん……?」
 暫く歩いているとティーダが口を開く。夕日を受けてきらきら光る髪が綺麗だと思った。
「ん……夏休みになったら、大会終わるまで遊べないだろ? で、さ……」
 恥ずかしそうにするティーダの手を強く握って促すと、意を決したように顔を上げた。
「終業式が終わった後、本当は部活あるんだけど……顧問が急用で出られないんだ。で、皆が内緒にしといてやるっていうから……」
「………………」
「だから……っ……その」
「……お前は、どこに行きたい?」
 へ、と間抜けな声を出したティーダに笑いながら尋ねた。しばらく目を丸くしていたが、ぱぁっと顔を輝かせて飛びついてきた。
「うんっ! あのな!」
 嬉しそうに行きたいところを挙げていくティーダに相槌を打ちながら、部員達に感謝した。

 ――しかし、なぜこうも知られているのだろうか、とも思いながら。

――――――

 終業式の日。校長の話の時もいつもは寝ているティーダがそわそわと落ち着きなく時計を見ていた。
 教室に戻り担当教師が夏休み中事件に巻き込まれないようにといういつもの注意をしているときもそわそわして、何だか可愛い。
 ……そういう自分も、まだかまだかと思っているのだけれど。

「……では諸注意は以上だ。夏休みだからと言ってハメを外さないようにな」
 教師の話が終わると一斉に教室が騒がしくなる。早速家に帰って遊びに行く奴も部活に行く奴も一気に動き出した。
 そして自分達はと言うと……。
「すこーるぅー、デートだって? 恋愛のエキスパートの俺がアドバイスしてやろっか」
「俺もティーダと遊びたいのにーなーなーティーダ、ついてっちゃダメか?」
 ……早速捕まってしまった。
「って言うかジタンなんで知ってるんスか!」
「ブリッツ部の奴らから聞いた」
「~~~~~!! あいつらぁぁ……!」
 顔を赤くして怒るティーダにバッツが抱きついている。いい加減一発殴ってやりたいと思った時、ティーダが自らバッツを引き剥がした。
 そして少し真面目な顔をして言う。
「ごめんバッツ、今日は大事な日だから……大会とか終わったら時間も出来るから! だから……今日は……」
 だんだん尻すぼみになっていく言葉。しゅんとしたティーダの頭をバッツがわしゃわしゃと撫でた。
「はは、ごめんごめん。本気にすんなって。ほんとかぁいいなーティーダは」
「バッツ……」
「楽しんでこいよー? もし顧問が戻りそうになったら俺達が何とかしてやるからなー」
 そしてバッツはこちらに振り返るとべーと舌を出して泣きまねをしながら文句を言ってくる。
「くそぉ、スコールめ! 俺達のティーダ独り占めにしやがってー! ばかー! ぽんでー! 童貞ー!」
「…………言いたいことはそれだけか?」
「よしっ逃げるぞジタン!」
「はいはいっと」
 物凄い勢いで逃げていくバッツ達を追いかける気もない。そもそもそんな事をしていたら時間がなくなってしまう。
「スコール」
「……あぁ、行くか」
 ぽん、と頭に手を乗せると嬉しそうに笑った。校門を出て少し歩いたところで、どちらともなく手を繋ぐ。
「あー学校終わったッスねー!」
「そうだな」
「大会終わったら、いーっぱい遊ぼうな!」
「当然だ。俺は半月も待たされるんだからな」
「何だよー、俺だって本当だったらもっと遊びたいんだからなっ」
 他愛も無い会話をしながら歩く。いつもしている事なのに、いつもとは違う感覚。それはお互い意識しあっているせいだろうか。

 まず最初は腹ごしらえをするために、学校帰りにたまに寄る軽食店へ来た。
 安くて量も多い、食べ盛りの学生には人気の店だ。デザート類も充実していて、甘いものが好きなティーダも気に入っている。
「んん~……んまいッス~」
 あらかた食べ終わり、運ばれてきたパフェを食べながらティーダは幸せそうだ。自分はそれを見ながら食べ終わるのを待つのもいつものことだ。
「あ、スコールも一口いる? この新作なかなかッスよ!」
「あぁ」
 ティーダがパフェをひとさじ掬ってこちらに突き出す。口を開けてそれを食べようとしたところではたと止まる。
「………………」
「………………」
 ティーダも気付いたのか僅かに顔を赤くしてスプーンを引っ込めた。

 ……それは小さい頃からやっていた当たり前の事だった。バッツ達と来た時にも大いに驚かれて、不思議だった。二人の間ではこれが当たり前だったから。
 けれど今、互いに好意を寄せているという状況で、ようやくこれの意味に気が付く。
「…………えと、」
「………………」
「わっ!?」

 ティーダが引っ込めていた手を引き寄せて、スプーンに掬われたパフェを食べた。冷たい甘さが口に広がる。
「……美味いな」
「へ……あ……う、うん」
「もう一口くれ」
「へッ!?」
 驚くティーダに構わずその手を掴んだままもうひとさじ掬って食べる。フルーツの酸味とクリームの甘みが程よく溶け合う。
「いつものこと、だろう?」
「……そッスね」
 へへ、と笑ったティーダにもう一口、というと、今度はちゃんと食べさせてくれた。

――――――

「なぁなぁ、どっちがいいと思う?」
「そうだな……そちらの方が性能がいいんだろう?」
「んー、でもデザインとか値段はこっちのが……」
 次に訪れたのはスポーツショップ。今使っているシューズが古くなってしまったというティーダの為に、どれがいいかを見に来ていた。
 しかし自分はブリッツに関して詳しくはないのであまり出すぎたことも言えないのだが。
「これはどうだ? デザインもお前好みだろうし……性能もそちらに書いてあるのと似ているが……」
「あーそれは最近出たばっかの……」
「お、スコールにティーダじゃん!」
「ゼル……」
「よッス! ゼルー」
 ゼルは共通の友人で小学校からの友人だ。格闘技をやっていて、この近くにジムがあるからついでに寄ってきたのだろう。
 スポーツにもそれなりに詳しいのでティーダとは話が合う。色々と調べてはいるが、自分ではまだまだ話せないから少しだけ、悔しい。
 シューズを選びに来たというとへぇ、と興味を示し、俺達の持っている商品を見る。
「お、スコールの持ってる奴、なかなかいいんだぜ」
「そうなのか……?」
「でもゼル、それ最近出てきた新ブランドのだろ? 大丈夫ッスかねぇ」
「心配すんな! ティンバーにある小さい会社が作ってるんだけどよ、口コミでも評判いいし……っつーかラグナさんの会社の系列だぜ?」
「……そうなのか……」
「いやそこは知っとけよ!」
 スポーツ関係にまで手を出してるとは思わなかった。けれど値段的にも性能的にも申し分なさそうだ。
「ん、じゃあこれにしてみるッス!」
「……ありがとう物知りゼル」
「おうよっ! じゃ、俺家の用事があるから、またな!」
 風のように走り去るゼルを見送るとティーダがそれを棚に戻そうとするのを止める。
「ん?」
「俺が買う」
「へ? いいッスよ! それに安いもんじゃないし……」
「気にするな」
「気にするッスよ!」
 ティーダの抗議は気にせずさっさとレジに持っていく。もー!と少し怒りながらティーダが後ろからついてきた。
「なぁスコール、いいって……」
「プレゼントだ」
「え……」
「もうすぐ誕生日だろう?」
 あ、と口を開けるティーダ。毎年の事だが、よく自分の誕生日を忘れられるものだと思う。人の誕生日は絶対に忘れないくせに。
「で、でも高いッスよ……」
「俺は、お前に喜んでほしいんだ」
 包装が無くて悪いけどな、と会計を済ませたそれをティーダに渡す。
 呆けた表情でそれを受け取ったティーダの手を引いて店を出る。気配を察して口元を押さえてやるともごもごと何か言っているようだった。
「うー……」
「こんな街中で叫ぶな」
「だって……ほんとに嬉しかったッス……」
 そう言って大事そうに袋を抱えるティーダが愛しい。不意うちで飛びつかれたのには対応できなかったが、
「ありがと、スコール!」
 本当に嬉しそうに笑うティーダの、その顔が見たかったんだと思った。

――――――

「風が気持ちいーッスねー」
 色んな所を二人でめぐって、遊んで、気付けばもう夕方だった。
 今は街を見下ろせる高台に来ている。星空がよく見えるため、夜はカップルが多いが今は自分達以外誰もいなかった。
「な、スコール……」
「……少しだけな」
 ぱぁっと表情を明るくすると手すりに走りより、すぅーっと息を吸い込む。
 いつもここに来るとき、ティーダは何か叫んでいく。それは父親への文句であったり、ただただ大声で叫ぶだけだったり。
 今日はどんな事を言うのだろうと思った時、既に手遅れだった。

「俺はぁーーーーーー!!!」
「てぃー」
「スコールが、大っっっっっ好きだあぁああぁぁぁぁ!!!!!」

 夕日でオレンジに染まった空に、その叫びは吸い込まれていった。

「っあーーー! すっきりした!」
 振り返ったティーダは本当にすっきりとした顔をしていて、何だかこっちが恥ずかしくなってしまった。
 あの祭の帰り道、想いを伝えられた時と同じように心臓がばくばくと早鐘を打っている。

 ――けれど、相変わらず皆に愛され構われるティーダの心は、自分にあるのだと全力で言われて、ここ最近あったもやもやが少しすっきりした気がした。
「スコール?」
 ティーダが覗き込んでくるが目を合わせていられなくて逸らす。
「スコールくーん?」
 悪戯が成功した子供のような顔で見上げてくるティーダの体を抱きよせると、バランスを崩して腕の中にすっぽりとおさまった。
 逃げられないように強く抱きしめて、お返しと言わんばかりに耳元で囁いてやった。

「……好きだ……」
「うひゃぁっ!?」
 ぴくんと体を震わせて間抜けな悲鳴を上げたティーダを更に強く抱きしめる。
 じたばたともがくティーダの耳に息を吹きかけるように、もう一度囁く。この心臓の音も、体越しに伝わればいい。こんなにも好きなのだという事を。
「ティーダ……好きだ……大好きだ」
「す、こー……んっ」
 唇が耳に当たって、くすぐったそうに身を捩った。少し体を離すと涙をにじませた瞳とかち合った。
「ティーダ……」
「っ……」
 名前を呼ぶと察したのか、ぎゅうっと目を瞑る。力みすぎだと笑えば、ティーダも目を開けて照れたように笑った。
「ん……」
 そっと目を閉じる。不安そうにハの字になった眉。頬に手を添えるとぴく、と瞼が震えた。

 近付いて、そっと触れる。それだけで心臓が壊れたようにスピードを上げて、慌てて離れてしまった。
「……っは……」
 ティーダも同じなのか、胸に手を置いて心臓を落ち着けているようだ。自分の胸に触れさせると、同じ状態だと分かったのか苦笑する。
「……スコール……」
「ん……?」
「……今の、一瞬じゃよく分かんなかったッス……」

 だから、もういっかい。

 答える前にティーダが首に手をまわして唇を合わせてきた。
 ちゅ、と可愛らしい音がして離れて、もう一度触れる。啄ばむようなキスに頭がくらくらした。
「ティーダ……ッ」
「ん、ふぁ………っ!?」
 ティーダの後頭部を支えて深く口付けた。微かに開いた口からぬるりと舌を侵入させて中を探る。
「ふ、んんッ……ん、ぁ……」
 初めてのキスでそんなに上手くできるわけもなく、すぐ離れてしまった。
 頬を紅潮させとろんとした瞳で見上げてくるティーダの表情は、今まで見たことがないもので思わず息を呑む。

 何でも知っていると思っていた。怒った顔も泣き顔も笑顔も全て。
 でもそれは、『幼馴染』という関係であるときの表情で。
 まだまだ、知らない顔がたくさんある。『恋人』としての顔を、もっともっと、知りたい。
 もう一度だけ、唇を重ねようと近付いた時、『それ』は来た。

――――――

「だからぁー絶対いるってここに!」
「ほんっとお前覗き好きだな」
「覗きじゃないっ! 出歯亀だ!」
「変わんねーよ! ……って」
「あ」

「お前達……覚悟はいいのか……?」
 階段の一番上に立ち、笑顔で物騒なことを言うスコールに覗きに来たバッツとジタンが震え上がった。
「す、スコールこわーい……」
「ほんとにいたなーバッツ……」
「ちょ、ジタン! さりげなく俺を残して後退してんじゃねー!!」
「うっせぇ! だから俺は嫌だったんだって! 逃げるが勝ち!」
「俺も逃げるぅー! 風が呼んでるぅー!」
 きゃーきゃーと叫びながら逃げていく二人にため息をつくと、後ろを振り返る。
「何だった? バッツ?」
「あぁ……」
「むー……また邪魔されたッス……」
 口を尖らすティーダの頭を撫でると、スコールは手を引いた。
「……今日は、帰るぞ」
「続きは、大会後ッスか……」
「そういう事だな……」
 不満そうなティーダを宥めながら高台を後にするが、ふとため息をつく。スコールだって不満なのだ。
「あ! じゃあさ、夏休み俺がスコールの家に泊まるっていうのは……」
「ダメだ」
 えぇー! と抗議の声が上がるが、スコールは念を押すようにもう一度駄目だと言った。
(そんな事したら……)
 ティーダの事は好きだ。だから、大事にしたい。でも。
(我慢、できないかもしれない)
 泊まりになんてくれば、きっとティーダはいつもの調子で、いくら暑くても一緒のベッドで寝ようとするだろう。
 そんな事をされたら、自分は手を出してしまうかもしれない。そうなれば、試合どころではなくなってしまう、と。
(俺は……あんまり我慢できる方じゃない……)
 特に、ティーダに関しては。さっきだって、バッツ達が来なければ、もっともっと求めていたかもしれないのだから。
「分かったッス……じゃあ大会終わったら泊まりに行くな!」
(どうして……そうなるんだ……)
 残酷な死刑宣告を無邪気に言うティーダに、スコールは額を押さえながらため息を吐くのだった。

(こっちの気も知らないで!)

――――――

……何だろうこれ。げろ甘でした。ちなみに題名は某エロゲのタイトルっぽくしてみました(笑)一つ目、多分デート。
ちょっぴりヘタレ(ちょっぴり?)スコールさんとちょっと積極的なティーダさん。
ネタの泉にて、しょーこ様から『前回学パロ設定のお話の続きで、付き合いだしてから、初デートするスコティ。できれば初キス』と、 匿名の方からの『「祭の日に」の続き、後日談的な感じで皆に愛されるティーダと焦れるスコール、最後はスコールオチで甘く』というネタを 使わせていただきました!(リク内容を短くまとめましたが本当はもっと色々書かれてます)
お二人とも、ありがとうございましたvv
友人達は……というか周りの人間はスコールとティーダの想いをずーっと知っていましたとさ。
自覚ないのは自分達だけ。パフェだって友達同士でふざけあってなんてレベルじゃなくナチュラルに食べさせあいます。そりゃ分かるわ!!
周りから見れば「とっとと付き合えこのバカップル」です。いやはや、幼馴染とは恐ろしい……。きっと親にも原因があるのだと思います^^
ともあれ、最後まで読んでくださりありがとうございましたーv

しかしスコールさん、我慢できない『かもしれない』と思ってるあたりヘタレ臭がにじみ出てますね(笑

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