激しい情交をした次の日というのは、どんなに朝が強い人間でも辛いものだ。
普段から朝早く起きてランニングなどをしているティーダであってもそれは例外ではなく。
むしろこういう日は寝起きが悪かったりするのだ。
「………………」
今日は二人とも非番だからとついハメを外してしまったか、と既に高くなりつつある日の光を見て思う。
ゆっくりと体を起こすと隣で寝ていたティーダが唸る。先ほどまで隣にあった温もりを求めているのかベッドの上で手をさ迷わせていた。
「……う~……」
「……ティーダ、そろそろ起きろ」
「ん~………………やだ……もう……ちょっと……」
よほど疲れているのだろうか、枕に顔をうずめむにゃむにゃと喋るティーダは可愛いものだが、いい加減起きないとあの光の戦士にお叱りを受けそうである。
「ほら……ティーダ」
「あと五分……」
お前は小学生かと心の中でつっこんでから、ティーダの髪にさらりと指を絡めて顔を近づけた。
「……起きないとキス、するぞ」
「ん…………おっさんが…………何言って…………んだよ………………」
びしり、と思考が止まった。
「…………………………おっさ……」
「……おっさんにきすされても……うれしくないぃ…………てか……あーろん……ひげ痛いからやだ……」
「…………アーロン……?」
「ん~…………」
ふつり、と。湧き上がった感情は怒りか嫉妬か。
停止していた思考が動き始め、湧き立つ感情にいらいらして舌打ちする。そんな自分の不穏な気配を感じとったのかティーダが目を擦りながら起き上がった。
「ん……ふぁあ……………………? …………え…………あれ……?」
「…………………………」
「あ、あれっ、えっ、あっ、す、スコールっ!?」
「……そうだが?」
「やっ……お、おれさっき……うわ、あ、ご、ごめんスコールっオレ寝ぼけててっ」
「……もういい」
呆れたようにため息を一つ。それだけでびくっと肩を震わせたティーダはなおもオロオロしたまま言葉を捜している。
「いいって言っただろ」
「で、でも」
「………………」
「…………ごめん……」
しゅん、と項垂れる姿は正に主人に叱られた子犬であるが、今はそんな風に思う余裕もなかった。
ただ、ティーダが自然に名を呼んだ、見たこともない男に嫉妬する。
どんな関係だった? こうして朝起こされる程に親密だったのか? 自分と間違えるような何かが、あるのか?
自分から話を切ったくせに、いらいらは募るばかりで。
「…………」
「へ……うわあっ!?」
ティーダの肩を掴んでベッドに押し付ける。戸惑いと僅かな怯えを含んだ瞳は何か後ろめたいことでもあるのかと勘繰ってしまう。
「んぐっ……!」
強引に口付けて口内を蹂躙する。歯列をなぞって舌を絡めて、吸って、柔らかく噛んだらぴくりと体が跳ねた。
「俺は……その男の代わりなのか?」
「っ……はぁ……はっ……な、何言ってんだよスコール! んな訳ないだろ!」
「じゃあ、どうして俺とそのアーロンとかいうやつを間違える」
「そ……それは! その……」
急に口ごもるティーダにまた苛々が、否……これは不安だ。
自分達はこの世界にいる間だけ一緒にいられる。全てが終わればいずれ元の世界に帰るのだ。
だが、ティーダが名を呼んだ男はきっとティーダの世界にいる。望めばいつだって傍にいられる存在。そんな名前しか知らない男に嫉妬する。不安になる。自分の知らない間に、奪われてしまいそうで。
「っ、や……」
鎖骨の上を強く吸い上げて紅い痕を残す。そのままその印に舌を這わせ、首筋まで舐め上げるとふるりと震えながらティーダが体を押してくる。
「こ、声っ……」
「声……?」
「すこ、るの声が……っ……あ、アーロンに、そっくりだったから……間違えただけだって……!」
そういえば「おっさん」がどうとか言っていたことを思い出す。けれどそれだけでは不安が拭いきれない。
「俺の声を聞くとその男を思い出すのか?」
「す、スコール……っぁ」
「俺とセックスする時、目を閉じればそいつに抱かれているような気分になるのか?」
「やっ、ぁ……ちが……違うっ……て!!」
色んな場所を舐めて、吸って痕を残す。証を刻み込む。
奪われたくないんだ、誰にも。
「……お前は、俺のだ」
「っ……! すこー、るっ」
羞恥でほんのりと紅く染まった体で、ティーダが腕を伸ばしてくる。それは背中にまわされて、きゅうと力なく抱きしめられた。
「アーロン、とは……何もない、ッスよ……オヤジも……母さんもいなくなったオレの世話してくれたやつで……保護者っつうか……さ」
「……保護、者」
その一言で一瞬頭が白くなり、体から力が抜ける。
保護者。それに安堵を感じると共に自分の心の狭さを自覚して僅かに顔が熱くなった。
自分は他人より独占欲が強いということに多少の自覚はあったものの、こうして嫉妬して八つ当たりのようにティーダを責めた自分が腹立たしい。
不安が拭いきれたわけではない。いずれ元の世界に戻ることは決まっているのだから、それは常に付きまとうだろう。
情けなさと申し訳なさで少し躊躇いながらも目尻に溜まった涙を拭い、触れるだけのキスをする。
「…………悪かった」
「……ん…………いーッスよ……」
背中に回した腕に力が込められる。耳元でくすりと笑ったティーダはもう今の事を気にしていないようで逆にこちらのほうが戸惑った。
「だって、それだけオレのこと好きでいてくれてる、ってことだろ?」
「…………まぁな」
恥ずかしげもなくそんな事を言うティーダにこちらが照れてしまう。それに、と続けられた言葉は、自分を落とすのに十分な威力だった。
「オレはスコールのだけど…………
…………スコールは、オレの! ……ッスよ?」
オレだって独占欲強いんだからな! と笑うティーダを抱き寄せてくちづける。
仲間が戻るまでに疲れてもう一眠りすることになるだろうと思いながら。
――――――
あとがき。
8月はスコールさんの月ですね!というわけで810です!
ネタの泉より『朝、ティーダを起こしたスコールが寝ぼけたティーダにアーロンと間違われる。(声優ネタ)』を書かせていただきました!
ネタくださった方、ありがとうございました~vv
なんというか嫉妬→和解まで早すぎかなとも思いつつ;
一番言わせたかったのは「俺とセッ(ryする時、~」ってやつですヾ(´∀`)ノ
スコールさんは幼少期のトラウマとかもあるので誰かに依存する傾向強そうですね。惚れたら離してくれなさそう(笑
ティーダも何だかんだで人と別れることとかに敏感そうだしお互い依存しあってればいいですv
あえて、スコールの『声』に依存するティーダのお話とかもいつか書いてみたいですね~
スコールの指摘したとおり、アーロンさんを思い浮かべながら……なティーダと、分かっててそれを受け入れるスコールみたいな……!!
語りだしたら止まらなさそうなのでここで!(笑)
最後まで読んでくださりありがとうございました~!