いつものようにふざけあって、いつものように一緒に帰って。
それが当たり前だった。だって友達だから。
「好きだぜ」
「え?」
きょとんとした顔で聞き返してくる様子は同じ男としてみても愛嬌があると思う。
ティーダが好きだから、そう思うのかもしれないけど。
「だからー、俺はティーダが好きだって話」
「な、何スかいきなり」
照れるッスよ、と頭をかくティーダは今の言葉が本気だと分かっていないだろう。
「俺もバッツ好きッスよ」
だからお前が言う『好き』も俺の求めている言葉とは違う。ソレより何より、お前は『あいつ』が好きだから。
そして『あいつ』も、ティーダの事を意識している。
目の前にいるティーダの、大好きなその笑顔が少し憎たらしい。可愛さあまって何とやら、ってやつだろうか。
「俺は本気なんだけどなー」
「もー何言ってんスか! 帰るッスよ!」
教科書の殆ど入っていない鞄を持ち上げて歩き出すティーダの腕を掴んで、引き寄せる。
咄嗟の事に対応できなくてよろけた体を受け止めて、口、の端にキスをした。俺なりの温情ってヤツ。
「っ」
突き飛ばされてティーダが腕から離れた。脱兎の如く駆けていく彼の背中を見送りながら、唇をぺろりと舐める。
金の髪から覗いた耳は真っ赤だった。
「ごちそーさま」
――――――
次の日、いつものようにティーダの教室へ行けば、少しぎこちなくはあったけれどいつものようにティーダが迎えてくれた。
「はよッス!」
「おー、……おやすみー」
「ちょ、バッツ!」
抱きつくように体を預けて目を閉じる。あったかくて気持ちいい。本当に寝そう。
「もー、朝っぱらから寝るなよな!」
周りのクラスメイト達にも笑われて恥ずかしいのだろう。ひっぺがそうと手に力が入っている。
「昨日は……ごめん……突き飛ばして」
耳元でぼそりと言われた言葉に、ああやっぱりなぁと思いつつもがっかりする。
「びっくりして、つい……さ。でもバッツも冗談きついッスよ」
嘘だ、と感じた。あれが冗談じゃないということにティーダは気付いているはずだ。
それでも、今の、友達という関係を壊したくないという思いが伝わってきた。それは嬉しくもあり、同時に残酷でもある。
「悪い悪い! 昨日ゲームで徹夜しちゃってさぁ」
「へ? あ……あぁ、もうすぐテストだってのにソレかよ!」
「ティーダだってあんま勉強してないだろー」
体を離していつものようにおどければ、ティーダも応えてくれる。今は、これでいい。
本当は今すぐここから連れ出して無理矢理にでもいろんな事やっちゃいたいけど。
それからも俺達は、いつものように友達として過ごす。
一緒に遊んで、ふざけて、先生に怒られて。
でも、少し変わったことがあった。
「好き」
そう言って、今日も唇の端を掠める。人気の無い放課後の教室で、その茶番は毎日繰り返された。
それをした後、ティーダはいつも「冗談よせっての!」と笑いながら言う。
俺もつられて笑う。それはふざけあって遊んでいるのと大差なかった。
何回したって、同じ。それは決して俺の想いには応えられないというティーダの意思の表れだ。
滑稽、だと思う。ティーダは決してこの関係を壊そうとはしない。いつまでも友達のままいたいと願っている。
俺だってティーダが付き合わないというなら友達でいい。でもそれならば、この行為を止めさせなければいけないのに、彼はそれをしない。
ティーダは俺が好きだから。俺の事を大切に想ってくれているから。
――友達、として。
ティーダらしくない。彼は自分と同じように、悩むより行動するタイプだ。
なら、どうしてこの想いを壊してくれないのか。いっそ頬を引っ叩かれた方がすっきりするというのに。
じゃないと、期待しちゃうぞ。
「バッ……」
気付けば、夕日で紅く染まった教室の机に彼を押し付けていた。
頭を打ったのか痛みに呻くティーダの制服に手をかけてみる。
「っ……! バッツ……っやめろよ」
僅かに怯えと、怒りを含んだ瞳。ゆらゆらと揺れて見えるのは涙のせいか。
――きっと何も変わらないのなら。自分で壊した方が早い。
ティーダが壊すのを躊躇うなら、俺が壊してやるから。
友達としていられなくなったら、その時は残念だけど、今よりずっといいと思う。
――違う。本当は、俺が卑怯な手でティーダの優しさにつけこんだだけ。
その時、教室のドアが開かれる音がした。
そこにいたのは、ティーダが想いを寄せるやつだった。
驚愕し目を見開いたそいつは、ティーダの目尻に溜まった涙を見るやずかずかと教室に入ってくると俺の頬をぶん殴ってくれた。
その瞬間、今まで胸の内にあった黒いものがスっと無くなった気がして、殴られたのにちょっと笑ってしまった。
「い、つつ……あー効いたぁ」
よろよろと上体を起こすとティーダが駆け寄ってきた。
「バッツ……ごめん、ごめ……っ」
涙をぽろぽろ零しながらなぜか謝るティーダに罪悪感を感じる。あぁ、泣かせたいわけじゃなかったのになぁ。
「ごめんな、ティーダ」
口が切れてて痛い。血の味が広がって気持ち悪かったけど、心はすっきりしていた。
「俺……バッツの事好き、だけどっ……ごめん」
「うん、ごめん」
ティーダの後ろでまだ俺を睨んでいる男も、俺の友人だった。
「なぁ、ティーダ。調子いいなぁって自分でも思うんだけどさぁ」
また、友達としていてくれるだろうか。なんて。
「………………いい、の?」
「や、俺が聞く側なんだけどな」
思わず笑ってしまうと、ティーダがふえ、と情けない声を上げた。
相変わらず涙もろいティーダの頭をぐしゃぐしゃと撫でると、泣きながら抱きついてきた。可愛いなぁ。
とか思ってたら後ろの御仁がすごい睨んできた。怖いって!
「うんっ……俺も、バッツと……友達でいたいッス……!」
「でーも! まだあきらめた訳じゃないかんな!」
「え……えええ!?」
「だいじょーぶ。もうあんな事しないって。これからは正攻法!」
ごめんな、ともう一度呟くとふるふると首を振って、間を置いてから噴き出した。
「何スか正攻法って……ふ、あははっ」
「毎日教室通って告白する! デートにも誘う!」
「何か、今までとあんま変わってない気がするッスよ」
そう言って笑ってくれた。涙で濡れていたけれど、俺の大好きな表情だった。
後ろで見ていた男も呆れたように肩をすくめる。
「これからはライバルってことだな!」
宣戦布告すれば苦笑された。くっそー見てろよ。
やっといつもの調子に戻れそうだ。
恋って恐ろしいなぁ、うん。と他人事のように思いながら、俺はティーダの手を取って立ち上がった。
――――――
■あとがき■
な、謎すぎる……うおおお修行不足ですorz
最初は黒バッツっぽく。終わりは殴られてすっきりしたいつものバッツ。黒っていうより微妙に病んでる……?
や、放課後ちゅーしてるとかの時以外(友達として遊んでる時?)は本当にいつものバッツなんですよ!書いてないけど!
……全体的に何だか女々しいというかどろどろというか……うーん。
バッツって明るいキャラですが根はしっかりしてそうなので、辛いことがあっても割りと笑顔で耐えられそうな気がするんですよね。その辺りはやはり大人。
かと言ってティーダ消滅ネタはよくあるので……彼が真面目になるというシチュエーションがなかなか思い浮かばず、だからと言って死ネタもやりたくないので片思いネタ+微黒化で落ち着きました。
ネタの泉にて「シリアス」とお好きなCPはバツティとその他、という投稿があったので書かせていただきました。シリアス以外何もなかったので勝手に学パロ風味にしちゃいました、すいません><
しかもシリアスのはずなのに最後はちょっと明るいというか超展開でほんともうすいません。私にはバッツを最後まで真面目にさせる力はありませんでしたorz
ティーダはバッツが大好きなんです、友達として。というお話でした……でもこれから猛アタックかけてくるバッツさんなのでもしかしたら流されちゃうかも(笑
ティーダが想いを寄せる人は皆様のお好きな人物でどうぞ~。