10月、五目飯さんが手ブロで企画された10総受け祭に乗っかりブログにて毎日小話を書いておりました。
前はコスモス勢×ティーダ、中は学パロコスモス勢×ティーダ、後はカオス勢×ティーダです。+αでシーモアとシューインがあります。設定は話によってばらばら。
別にCPじゃなかったり長かったり短かったりシリアスだったりほのぼのだったり色々ですのでご注意。
WOL(09.10/01)
※ライティほのぼの
「ライトー見てみて!!」
にこにこと笑いながら近付いてくる少年は手にたくさんの素材やアイテムを持っていた。
見れば全身汚れていて所々傷を負っている。
「まだ手に入れてないアイテムとかあるから、トレードの為に頑張ってきたッスよ!」
「そうか……」
褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾を振る犬のようだ。
実際助かるし、褒めてやりたいとも思うが一つ気になることもあった。
「ライト?」
「こんなに傷だらけになって……」
かすり傷ッスよ! と言って体を動かす。その拍子にぽろぽろと素材が落ちて慌てる様子に頬が緩んだ。
……いや、これではいけない。
ティーダに手に持ったものを下ろさせるとケアルをかけて傷を癒していく。
平気なのに……と少し項垂れるティーダはどうやら私が怒っていると思っているらしい。
少し傷んだ金の髪をまぜるようにくしゃりと撫でると不思議そうに見上げてくる海色の瞳。
「素材を集める時は、私を呼べ」
「……俺が弱いからッスか」
拗ねたように口を尖らせる少年は、実年齢より幼く見える。
そうじゃない、と笑うと少しは機嫌を直してくれたのか表情が和らいだ。
「弱いと言っているわけじゃない。だがもしもという事もある。それに……」
「それに?」
「…………お前がいないと、駄目だからな」
頭に疑問符を浮かべるティーダは、どうやら自分が周りに与える影響をわかっていないらしい。
「我らは誰一人欠けてはならない。……お前がいなければ、皆の士気も下がる」
「そ……ッスか?」
「あぁ」
太陽のように明るく、皆の道を照らしその背中を押してくれる。そんな彼の強さは、コスモスの戦士達になくてはならないものだった。
自分にできるのは、ただ光を信じ、道を切り開き真っ直ぐに進むこと。
光の戦士と呼ばれる自分にない光。それを持った彼がいなければ、皆がここまで来ることは出来なかったとさえ思う。
「う~……なーんか照れるッス……」
ぽりぽりと頬を掻くティーダの傷はもう殆ど癒えていた。
彼の持ってきた素材を半分持つと、忘れていた言葉を言って歩き出す。
「ありがとう、よく頑張ってくれたな、ティーダ」
後ろから明るい声が追いかけてくる。
「どーいたしまして! って、待てってばライト!」
隣に立った彼は、太陽のような笑顔で。
「今度は一緒に行こうな!」
そう、約束した。
フリオニール(09.10/12)
※フリティ、シリアス?
「前にさぁ」
「ん?」
背中合わせで座って武器を手入れしているとティーダが声をかけてきた。
前からそうだったが、最近はやけにこうして近くにいることが多い。何か不安なことでもあるのかと思ったが、特に思い悩んでいる風も見受けられず、いつものティーダだった。
まぁ何かあったらきっと向こうから話してくれる。そう思って様子を見ることにしたのがつい先日。
「『皆勝手だな』……ってフリオが言った事あるよな?」
やはり何か悩み事なのだろうかと構えていると、予想もしていなかった話題を出され武器を磨いていた手が止まる。
そういえばそんな事も言ったか……あれは確か、ティーダが父親と決着をつけたいと言ってきた時。
「クラウドも、セシルも、そんで俺も単独行動になっちゃってさ、確かに勝手だよなーとか思ったけど」
微かに合わせた背中が揺れて、ティーダが笑ったのだと分かった。
「フリオだって、勝手なことしたよな」
「え?」
「ほら、アレ。のばら盗られた時」
「あぁ……」
突然現れた銀髪の剣士に奪われた、自分の夢の象徴。奴はティーダ達にも傷を負わせていて、頭に血が上っていたのかもしれない。
だから仲間の制止を振り切って追いかけた。自分も攻撃され、傷ついてはいたが取り返さずにはいられなかった。
「俺達が危ないって言ってんのに、一人で突っ走っちゃうしさー」
「う……反論できないな……確かに、俺も勝手だった」
「反省するべきッスね!」
「ははっ、そうだな」
苦笑するとティーダも笑う。でも、それはどこか力ないもので。
「ほんと……皆勝手ッスよ……」
「………………」
ティーダの言葉には、寂しさ、悲しさ、悔しさ、遣る瀬無さ……そんな感情が綯い交ぜになったような響きがあった。
「勝手だよ……」
それは、仲間達の事なのか、父親の事なのか、この世界に自分達を呼び出した神の事なのか、もっと別の誰かの事か……いずれにせよ、やり場の無い気持ちを弄ぶティーダに、上手い言葉をかけることができない。
ティーダが何も話してくれない以上、自分にできるのはそばにいてやる事だけだ。
んーっとティーダが伸びをして、後頭部が背中にこつんと当たった。
「ならさぁ、俺もちょっとくらい勝手だって、いいよな」
「仲間に迷惑をかけなきゃ、いいんじゃないか?」
「んー……多分かけないッス」
「勝手、という時点でもうかけてるんだけどな」
「うっさい!」
ごん、と強くぶつけられて痛い。笑っているとごんごんとまたぶつけてくる。子供のような反撃に、また笑みがこぼれてしまう。
急にぴたりとその動きが止まったかと思えば、勢いよく立ち上がったティーダに何事かと視線を向ける。
先程までの沈んだ様子は欠片もなく、いつもの明るい笑顔で少し照れたように言った。
「ありがとな、フリオニール」
返事をする間もなく駆け出してしまったティーダの背を見ながら、ため息をつく。
無くなってしまった背の重みとぬくもりをちょっと残念に思いながら、武器の片付けを始めた。
オニオンナイト(09.10/03)
※オニティ、ほのぼの。
「なーオニオン、コレ何か知ってるッスか?」
「オニオン、あれの名前知ってる?」
……やたらと、質問の多い人だと思った。
確かに自分は多くの知識を持っているし知恵も働くけれど、まだまだそれは未熟だ。
他にも知っていそうな人たちがいるのに、どうしてわざわざ自分に聞きにくるのだろうか?
普通の人は年下に自分の知らない事を教えられるのを嫌うと思うのだが、彼はどうなのだろう。
「え? 別に嫌とか思わないッスよ?」
「どうしてさ?」
「だってそれ、相手を自分より下だと思ってるから悔しいんだろ? 俺オニオンの事、自分より弱いとか年下だからとか、そう思ったことないッスよ。むしろ色んな事知ってるし強い魔法も使えるしスゲーと思う!」
あまりに簡単な答え、少し考えれば分かりそうなその理屈を、彼は屈託なく笑って答えた。そして彼が自分をそこまで認めてくれていたのかと思うと、少し、いや、正直かなり嬉しかった。
年下だからと言って、自分がまだ幼いからと言って、甘く見られるのは嫌だった。敵と出会った時は子供という事を利用した事もあったが、そうでなくともいつも少し背伸びをしていた。
けれど、そんな事をしなくても彼は……いや、きっと甘く見られるなんて思っていたのは自分だけで、皆認めてくれているのだろう。それに気付けなかったのは自分。
それからは、彼の質問にも面倒くさがらずちゃんと答えるようになった。そして自分の知らない、彼の世界のものについても尋ねるようになった。質問すれば、彼も嬉しそうに答えてくれる。
ブリッツボール、幻光虫、スフィア……自分の知らない世界が見えてくるようで楽しかった。
「オニオーン!」
「はいはい、今日は何?」
犬のように駆け寄ってくる年上の男が、可愛く見えてしかたなくなるのは、もう少し先の話。
セシル(09.10/04)
※セシティ、ほのぼの。
「セシルといると、安心するッスね~」
「そうかな? どうして?」
「ん~、何でだろ」
今日はティーダと二人で夕食当番。ティーダは意外と料理上手で(意外というのはこの年頃の男の子にしてはって事)結構助かっている。
器用に野菜の皮を剥きながら思案するティーダ。
むむむ、と眉を寄せて考え込む姿は、年下らしく可愛いと思う。言ったらきっと照れて怒ってしまうだろうから言わないけれど。
「んーと、ライトとか、クラウドとかは頼れるー! って感じだし、バッツ達といると楽しいし、でもセシルといると安心……っていうか、ほっとするッス。何つーか、この辺がぽかぽか? してくる」
ここ、とティーダが自分の胸を指した。その言葉、そっくり返してみたい。
ティーダがいれば、ほっとする。暗く沈んだ空気を、あっというまに吹き飛ばして明るくしてくれる。
兄の事で悩んでいた自分の背中も押してくれた彼には感謝の念が絶えない。
時には無謀ともいえるその青さは自分にはないもので、羨ましいとも思う。彼の青さは、自分達に必要なものだったから。
「僕も、ティーダと一緒にいるとほっとするよ」
「そッスか?」
「うん、そう」
くすくす笑っている自分を不思議そうに見つめる青の瞳。
その眼がいつまでも純粋なまま、曇らないで欲しいと願った。
バッツ(09.10/05)
※バツティ、ほのぼの。
次元城。
青い空にはどこか別の世界の光景が浮かび上がり、なんとも不思議な光景だ。せっかくの空に少しの不気味さを加えるそれはバッツにとっては懐かしさを感じさせるので、嫌いではなかった。
「お?」
この箱庭のような世界で、一番風を感じられる所はここ次元城だけだ。
だが、一番いい風を受けられるのはやはり高い所で、それには自分の恐怖症が邪魔をする。高い所を飛び移る度にぞわぞわと走る感覚に耐え、何とか上までたどり着くと、既に先客がいた。
「よっティーダ! 昼寝にでも来たのか?」
「バッツ! 別にそんなんじゃないッスよ」
む、と眉を寄せて言い返すティーダの隣に座る。彼は端っこに腰掛けて足をぶらぶらとさせていたが、流石にそこまでは無理なので胡坐をかいた。
「見えないかなーって思って」
「ん? 何が?」
「俺の世界」
あぁ、と曖昧に返事をした。後姿にどこか覇気がなかったのは、郷愁の念に駆られていたからだろうか。結構抱えるタイプだからなぁ、と心の中で一人ごちる。
「っつーかバッツ、よくここまで来れたッスね」
「何だとー!? 馬鹿にすんなよ! 高所恐怖症っつってもそこまで……」
ふと悪戯心が芽生える。ちょぉっとからかってみたくなった。
……それに、ティーダの沈んだ顔は、あまり見たくないから。
「ん~……やっぱちょっと駄目だなー不安だなー(棒読み)……なぁティーダ、手ぇ繋いでて。ついでに指絡めてくれると嬉し……怖くなくなるんだけど」
「………………」
にやにやとちょっぴり嫌らしい笑みを浮かべながら言うと、案の定ぽかんとした表情でこちらを見て、その後は
「ん、いいッスよ」
「………………あれ?」
「繋ぐんじゃないんスか?」
「や、いや、繋ぐ、繋ぐぞ!」
「……変なバッツ」
呆れたように笑ったティーダの指が俺の指の間に入り込んで、きゅ、と握られた。
(……やられた)
顔を赤くして、誰がするかーとか、そんな感じだと思ったのに。
(赤くなってんのこっちじゃん!)
もう風を感じるどころではなかった。でも、触れたぬくもりが心地いいから、仲間が呼びにくるまでずっと手は繋いだままだった。
ティナ(09.10/06)
※ティナティ、ほのぼの。
ふわ、と吹いた風に髪が揺れる。
遠くから自分を呼ぶ声がして、髪を軽く押さえながら振り向くと。
「ティナぁ、ライトとかいないッスか?」
「くえっ」
「わ、こら暴れるなってば」
もふもふとした黄色い鳥―チョコボの子供―がティーダの腕の中にいた。
「ティーダ……その子どうしたの?」
「さっき次元城の隅っこで見つけてさ。この世界にもチョコボいるのかな」
「………………」
「ティナ?」
名前を呼ばれて我にかえる。そんなにじぃっと見てしまっていたのだろうか。怪訝そうにティーダがこちらを見てきて、少し恥ずかしくなってしまう。
何と言おうか迷っていると「あぁ!」と思い出したようにティーダが手を鳴らした。その拍子に抱かれたチョコボが落ちそうになってばたばたと羽を動かした。
「くえーっ」
「おっと! 悪かったって。そっか、ティナ好きッスよね、もふもふ」
にこーと邪気の無い笑顔で言われて、恥ずかしさも少し引っ込む。屈託の無い笑顔に安心する。ティーダといるといつも暗く考えがちだった自分も、前向きに考えられるようになった気がした。
しかし、持ってみる? と聞かれて即答してしまったのは仕方の無いことだと思う。
「わぁ……ふかふか……」
「くえ」
「あ、大人しくなった。やっぱ女の子の方が好きなんスかね~」
しばらくふかふかを楽しんだあと、ふと思う。親はいないのだろうか。
「周りには相変わらずなーんにもいなかったッス。なんであんな所にいたんだろ」
だからライトに世話していいか聞きに行こうと思って。そう言ったティーダは腕の中にいるチョコボをわしわしと撫でた。
「くえっくえっ」
「わっ」
「うわぁっ!? 何すんだよーもう! 痛っ! 痛いってー!」
腕の中から飛び出てティーダの頭にのったチョコボは落ちないように羽根をばたばたと動かしながらしがみついている。
やがていい場所を見つけたのか、そこに座ってつんつんとティーダの髪の毛をつついて遊び始めた。
「ふふ……可愛い」
「しょうがないッスねー。あんま暴れんなよ? ライト探しに行くからな」
「くえっ」
「私も行くよ。その子がいるままじゃ戦いにくいよね」
「さんきゅーティナ!」
チョコボが落ちないように時々手で支えつつ歩くティーダの後ろ姿を見て、くすりと笑って呟いた。
「……可愛いなぁ」
クラウド(09.10/07)
※クラティ、シリアス?
ティーダは泳ぐのが好きだ。
元の世界で『ブリッツボール』という水中競技のプロ選手だったらしい。
デビュー一年でエースの座を勝ち取ったというその実力は本物で、長く長く水の中に潜っていられる。訓練すれば誰にでもできるようになるらしいが、果たして自分はどうだろう。
ティーダが泳ぎたいと言ってきたので秩序の館近くにある湖に来ていた。
言うなれば監視員や保護者のような役割だが、ティーダと一緒に過ごせるのだから悪くない。むしろ嬉しい。
しばらく潜って、浮かんで、また潜ってを繰り返している。見ているこちらが酸欠になりそうだ。時々、こちらを振り返って笑顔で手を振る。さっきは「クラウドは泳がないんスかぁ~?」なんて呑気に聞いてきた。何のためについてきたと思っているんだか。
岸辺に腰掛けて、周りを警戒しつつもティーダの様子を見る。ここは水が澄んでいるから、ある程度の深さなら姿を確認することができた。しなやかに体をくねらせて、水の中を踊るように泳ぐ様は見ていて飽きない。ぷは、と水面から顔を出したティーダがこちらを見た。
「ちょっと深く潜ってくるッス~!」
「……なるべく早く戻ってこい」
「分かってるって~!」
湖の真ん中にいるティーダが大きく息を吸うと、勢いよく水の中に潜り込んだ。どうやらこちらに向かいながら泳いでくるらしい。深く深く潜っていくティーダの影がやがて見えなくなる。仕方がないので暫らく待つことにした。
見ていて分かったことだが、ティーダが潜っていられるのは大体5分から10分。初めて見たときはかなり心配したがいちいち気を揉んでいても仕方が無い。
――チチチ、と鳥の鳴き声がするのどかな風景。そろそろ10分は経とうというのに、ティーダはまだ顔を出さない。
まさか、水草に足がひっかかった? モンスターが潜んでいた? どちらにしても水中での活動に慣れているティーダは落ち着いて対処できるはずだ。なのに。
「ティーダ……」
情けなく、声がかすれてしまった。意味が無いと分かっていてもちゃぷ、と水に手をつけて彼の姿を探した。
ざ、と頭にノイズが走る。
貫く銀。流れる赤。
きらきらと光る水に消えていったのは
「ティーダッ!」
強く、名前を呼んだ。
――と、少し離れた所で水しぶきが上がった。
「っはぁ……! はぁ……あ、ごめんくらうど~……潜ってたらこれ見つけて……」
少しふらふらしながらゆったりと泳いでくるティーダの手には、マテリアがあった。
「役に立つかなぁって思ってさ……でも我ながら自己ベス……クラウド?」
「………………ティーダ」
岸に手をかけ、水からあがろうとしているティーダの体を抱き寄せた。長く水に浸かっていた体は、冷たかった。
ぬくもりを分け与えるように抱きしめて、大きく息を吐く。
「えと……ごめん、すぐ戻るって言ったのに……」
しょんぼりと頭を下げたティーダの髪から雫が落ちる。
「……っていうか、服、濡れるッスよ」
「……どうでもいい」
「よくないッスよ!」
腕に込める力を強くして、離れようとしたティーダの体が逃げないように閉じ込める。しばらくもがいていたが、やがて諦めたように体重を預けてくる。その重みが心地いい。
「……ごめんなさい」
「……あぁ」
それだけ言うと、犬のようにしょげた彼の頭をあやすように撫でた。
スコール(09.10/08)
※スコティ、ほのぼの+ギャグ? 何となくクラティの続きっぽい。あと物凄く微妙にハレンチ。
「はー……あったまったッス」
湖から戻ってきたティーダが風呂から出てきた。続いてクラウドが入ったようだ。
何があったかは知らないがいつもより少し大人しいティーダと、水には浸かっていないはずなのになぜか服が濡れているクラウドが帰ってきた時は何とも表現しがたい、もやもやとした感情がわきあがった。
白いタオルで適当に頭を拭きながら飲み物を取りにいこうとする彼をどうも放って置けなくて、気が付けば無言で手を引っ張っていた。
「わっ、何スか? スコール……」
「…………いや……ちゃんと頭を拭け」
「へーきッスよこんくらい」
へらりと笑った彼は確かによく泳いではずぶ濡れのままバッツ達と遊びに行ったりしている。水中で行われるスポーツの選手らしいから確かになれてはいるのだろうが、それでも風邪をひくときはひく。
先程のもやもや――むしろイライラ――も収まりきらず、無理やり彼の持ったタオルを奪うと濡れた髪を拭き始めた。
「……も~……いいって言ってんのに……」
「うるさい」
「酷いッス!」
ぎゃーぎゃーと騒いだがそれでも手は止めずに髪の水気を取っていく。タオルを取ったときのように乱暴にではなく、髪を傷めないように優しく拭いていると、やがて気持ちよさそうに目を細めた。
(犬みたいだな……)
世話のかかる奴、と心の中でひとりごちてから耳も拭いた。
「んっ……くすぐったいッスー」
くすくすと肩を揺らして笑う様子を見ていると、またしてもよく分からない感情がむくむくと頭をもたげてきて、手が勝手に耳を擽るように動く。
「ん、ふ……あはっ……んんッ……だ、だからっ……ひゃっ……耳だめ……だってぇ……」
柔らかなタオルの毛が耳を掠めるとぴくんと反応する体。
笑い声の中に時折混ざる声をもっと聞いてみたくて、手が首筋へと下りていく。
「おい」
「っ」
「あ、クラウド」
いつの間にでてきたのか、ぽたぽたと髪の毛から水を滴らせるクラウドが立っていた。
何でもなかったように手を離してティーダにタオルを返すと、「さんきゅー!」と言ってまぶしい笑顔を向けられた。こういう時、どうすればいいかよく分からない。
「ティーダ、髪なら俺が拭いてやる」
「でもスコールに拭いてもらったし……あ、じゃあ俺がクラウドの髪拭いてあげるッス!」
(何だと……)
「あぁ、ありがとう」
「待て、お前の髪も俺が拭いてやる」
「……………………」
「お、仲良しッスね! んじゃ俺部屋に行ってるッス~」
「待てティー……」
上機嫌な様子で部屋に戻っていくティーダの後姿を見ていると横から物凄い怒気を感じた。
「…………」
無言で問いかけてくるクラウドに言葉が返せない。自分でもよく分からないからだ。何故あんな事を言ってしまったのか。
ただ、ティーダがクラウドの髪を拭くのを、嫌だと思ったことだけは分かる。では何故嫌だったのだろう。
「……拭いてやろうか?」
「……いらん」
僅かに呆れたようなため息をつくと、自分のタオルで髪を拭きながらクラウドは部屋へと帰っていった。
(本当に……何でだろうな……)
自分自身、よく分からない感情に戸惑いながらも、とりあえず自室へと戻ることにした。
ジタン(09.10/09)
※ジタティ、ほのぼの。
「うーし、こんなもんだろ。ティーダぁ!」
「おう、どんとこーい!」
木の上から声をかけるとティーダが元気に返事する。地上に見える金の髪。そこに落ちるように調整しながらもぎ取った果実を落としていく。
「っと、っと」
下ではティーダが果実を落とさないよう上手にキャッチしては袋に入れていく。ボールを扱う競技をしているからか、こういう事に長けているティーダと、木の上でも身軽に行動できる自分。二人で果実の調達に行くようになったのはいつからだったか。
「これで全部ッスか~?」
「おー! ……って、向こうから丁度フリオ来てるぜ~。それ任せてティーダも上がってこいよ」
「マジ!? 行く行く~!」
返事を聞くと太い枝の上にまたがり、幹に体を預けて遠くを眺めた。さわさわと風で葉が擦れる音が心地いい。下からはフリオニールとティーダが話している声がする。
「あっ、こらティーダ! まったく……」
フリオニールの呆れたため息が聞こえたと思うと、背中を通して伝わってくる木を上る足音。ぎし、と枝を軋ませて葉っぱの間からティーダがひょこりと首を出した。
「お疲れさん」
「うッス。ってよく見ると高~!」
「あんま下見んなよ?」
少し下の枝に座ったティーダ。いつもは少し見上げる顔が、今は同じくらいの高さにあってなんとなく嬉しい。
「……ジタンの尻尾って便利ッスね~、枝に尻尾巻きつけたりとか、バランスとりやすそうだし」
「まーなー。あると便利だなー……よっと」
くるんと尻尾を枝に巻きつけたまま、手足を放して逆さまにぶら下がる。驚いたティーダの顔が可愛い。
「こんな事もできるしな、便利だぜ」
「すげー! 何かいいなぁ、俺もやってみたいかも。……あ、そういえばカオスの奴らと戦った時も足に尻尾巻きつけて俺が飛ばしたよな~、ジタンシュート!」
「あれはタイミング絶妙だったよなー」
まるで昨日の事みたいに思い出せる、戦いの記憶。もちろんあまりいい思い出でもないけれど、あのシュートは気持ちよかった。
力を込めて起き上がると少しふらつく。ティーダが慌てて腕を引っ張ってくれたので、何だか嬉しくなって笑う。
「俺達って相性いいのかもな」
「かもな~! 今度新しい技でも作る?」
「作んなくっても、あの時見たいにその場で出来るだろ。役者でも選手でもアドリブが命だぜ!」
「ははっ、それもそうッスね!」
笑うティーダに先程もぎ取った果実の一つを差し出す。上に呼んだのはこのためだ。
「皆にはナイショな」
「やた! ジタン大好き~!」
本当に年上なのかと疑いたくなるほど無邪気な笑顔に絆されながら、瑞々しい果実にしゃくりとかぶりついた。
シーモア(09.10/10)
※シーモア×ティーダ、シリアス。若干10のネタバレあり
「こんな所で何をしている?」
不意にかけられた声に、びくりと肩が跳ねる。
知っている。自分はこの声を知っている。
ゆっくりと後ろを向けば、民族的な服を着た、青い髪の男が立っていた。
その顔も、まとう空気も。
記憶からは出てこない。でも、知っている。
「……何だよ……アンタ……」
「………………覚えていないのか、それもいい」
こちらに近付き、触れようとした手から逃れる。長く大きな手は、明らかにヒトとは違う種族のものだった。
「まだ……来ないのか」
「……何の」
事だ、と言いかけて。
その、無感情な、人を見下すような厭らしい笑み。
でも。
「お前の父……シンの中に入った時……私の気配を感じたのだろう?」
その瞳が
「私が憎いのだろう?」
どうしようもない寂しさを
「ならば、早く来い」
湛えているようにしか、見えなくて
「早く……私を……」
徐々に霞んでいくその姿を、知っていた。
「シーモアっ!!!」
自分の大声で、目が覚めた。
意外にも他の皆は起きなかったようでほっとする。
体は寝汗でべとべとで気持ち悪い。ふらりと体を起こすと、目の端から雫が落ちた。
”私を、消せ”
「………………っ」
違う。違う。
憎かった。嫌いだった。大嫌いだった。
でも
それでも。
「……っれは……あんた、も……助けたかったんだ……ッ」
いずれ倒さなければいけない男を想い、少年はただ涙を流した。