captured<表>

「んぎ……はーなーせ! 離せってコラ!」
「そんな事を言われて離すとでも?」
「思ってねーよ! でも何か言わなきゃ気がすまねーッス!」

 じゃらじゃらと両手に繋がれた鎖を鳴らしながら、がるる、と噛み付きそうな勢いで皇帝に文句を言うティーダ。
 ちなみにジェクトは、息子である彼を勝手に逃がすかもしれないということから別の部屋に閉じ込められている。

「だいたいオレ一人捕まえてどーするつもりだよ!」
「何。貴様を痛めつければ奴らも動揺すると思ってな……存在を消せば士気も確実に落ちる」
「皆そんなに弱くねーよ、舐めんな!」

 果たしてこの少年は、自分が周囲に与える影響にいつ気付くのだろうか。
 いや、笑顔で励ますという行為を意識してやってはいる。それがただ周囲を和ませるだけではないことに気付いていないだけか。

「まぁよい。今はまだ何もせん。駒共の目の前で痛めつけるのが目的だからな」
 カツカツと足音を響かせながら離れていく。ティーダは今、カオスの戦士達が住まう屋敷の中心の部屋に繋がれている。
 逃げ出そうにも皇帝以外のカオス勢も普通に通ったりくつろいでいたりするのでなかなかシュールな光景だ。
 何とか脱出できないかと試みているとクジャが姿を現した。ふとティーダに視線を向ける。

「………………」
「……何スか?」
「フフっ無様だねぇ」
「むっかー! てめー後で覚えてろよー!」
「うるさい犬だねぇ……」

 小馬鹿にしたような笑みで歩いて来る。周囲に光球を並べ空を飛んでいるところしか見たことのなかったティーダにとって何だか新鮮な光景だ。
 じろじろと値踏みするような目つきが嫌で視線を逸らそうとしたが下を向くと際どい衣装が目に入ってしまいどうにもこうにも動けなくなる。

「皇帝が言うほどでもない気がするけど……」
「なーアンタ、ジタンの兄ちゃんなんだろ? コレ外してくんないッスか?」
 駄目元で言ってみると見事に嫌な顔をされた。
「何で僕がそんなことしなくちゃならないのさ。あんまりふざけてると苛めるよ?」

 クジャが女性のように綺麗な手を伸ばし、顔を近づけてきた時上から声が降ってきた。

「クジャ……ここにおったか。そろそろ食事だそうだ」
「あぁそう。じゃあお預けだねぇ。待ってなよ、子犬くん」
「誰が犬だってのー!」

 ふわりと飛んだクジャに向かって叫ぶ。今度はクジャを呼びに来た暗闇の雲が降りてきた。
 何故かまたじぃ、と見つめられ、さっきよりも際どい格好で目のやり場に困る。
 ただ、クジャと違うのは向けられる顔が興味深そうなところだ。

「いてっ、何するんだよっ」

 彼女の周りを飛ぶ触手の右側が髪を銜えてくいくいと引っ張った。ついで左側も近付いてきて鼻先にこつんとぶつかる。

「もー何なんだってのー!」
「……珍しいな、こやつらが人間に懐くとは」
「え? 懐く?」
「そうだ……あまり邪険に扱わぬほうがよいぞ?」

 ティーダとしてはあの触手に意思があったという事が驚きだ。くいと顎を持ち上げられて視線が合う。敵とは言え妖艶な女性の姿。僅かに顔が熱くなるのを自覚した。
 触手がしゅるりとティーダの腕や脚に巻きついてきて、思わず目を瞑る。

「暗闇の雲……何をしているのです? 捕虜にはまだ手をだしてはいけませんよ。それと、エクスデスが呼んでいました」
「……つまらん」

 するりと触手が離れていく。ほっと息をつくと今度はアルティミシアが近付いてくる。次から次へと何なのかと項垂れているとふわりと食欲をそそる匂いがした。
 顔をあげるとアルティミシアが食事を運んできていた。捕まえられ、ここで目が覚めてからというもの何も口にしていなかったティーダの腹が鳴る。
 アルティミシアは何故私がこんな事を……とぶつぶつ文句を言いつつスプーンでひとさじ掬い、口元へと持ってくる。

「食べなさい」
「……普通さ、お腹すかせて弱らせて……とかじゃないんスか?」
「……貴方の父親がうるさいんです」
「そう、ッスか……」
「嬉しいのですか?」
「だっ誰が!」

 顔を赤くしたティーダに分かりやすい子、と笑う。が、さっさと食べて欲しいのだがなかなか口を開けようとしない少年に苛立った。

「……早く食べてくれませんか? ずっと貴方の世話をするほど暇ではないのですが」
「毒……とか入ってないよな」
「はぁ……そんなつまらない殺し方はしません」

 思わず魔女がため息をつく。さっきから少年の腹の虫はぐうぐうと音をたてているというのに意外と用心深いのか。
 ようやく納得したのか、開かれた口にスプーンを突っ込む。
 ゆっくりと咀嚼するうちに表情が変わり、飲み込むと満面の笑みを浮かべた。

「美味ぇー! 誰が作ってるんスか?」
「作っている、というか魔法で出していますが」
「へー凄いッスね。あ、早く次」

 催促されて仕方なく手を動かす。うれしそうにぱくりとスプーンを銜えるティーダを見て何か疼くものがあった。

(……あ、あら……?)
「? どうかしたッスか?」
「い、いえ」

 慌ててまたひとさじ掬い差し出す。そしてまたティーダが銜える。

(意外と……かわ…………って何を考えているのですか私は)

 頭に浮かんだ考えを振り払おうとするが、どうにも弄りたくなって、ティーダがスプーンを銜えようとした瞬間手を引いた。
 何も無い空間を食んだ少年が目をぱちくりとさせ、悔しそうに見上げてきた。

「何するんだよっ」
「いえ……」

 曖昧に返事してもう一度差し出す。不機嫌そうにティーダが口を開けた。

 ひょい
 すかっ

「………………」
「………………」

 ひょい
 すかっ

「~~~~~~何なんスかーもぉぉ!!」
「……(きゅんきゅん)」

 律儀に口を開けるのがなんとも言えない。よほどお腹がすいているのか、それとも食事が美味しかったのか、若干涙目になっているのに少年は気付いているのだろうか。

 結局ちゃんと食べさせてやりながら、夜も自分が食事を与えようと密かに思うアルティミシアだった。

――――――

 アルティミシアが去って暫らくするとセフィロスが姿を現した。が、ティーダがいても興味などないのかソファに座って本を読み始める。
 相変わらず逃げられないかとじゃらじゃら鎖を鳴らす。
 そんな状態が三十分も続けば、体を動かすのが好きなティーダが音を上げるのは当然だった。

「………………」
「ゔーーーー」
「………………」
「なぁー暇ー。逃げないからコレ外してくれって」
「………………」
「シカトっスか……なぁ片方だけでいいんだよ。ずっと腕上げっぱなしで痛いし冷たくなってるし」

 ティーダが鎖を鳴らすと、今まで無視して本を読んでいたセフィロスが立ち上がり、愛刀を顕現させにやりと笑った。
 ティーダが身構える間もなく、刀が振られ左手に衝撃が走る。息を引きつらせて身を縮こまらせたティーダが恐る恐る目を開けると、左手の枷だけが綺麗に切られていた。

「それで満足か……?」
「あ、えっと……ありがと?」

 漸く自由になった左手をにぎにぎと動かしているとセフィロスが僅かに肩を揺らしている。笑われているのだと気付き、不快そうにティーダが眉をひそめる。

「何笑ってんだよ!」
「……怯えた顔がなかなかよかったのでな……クク……」
「んなッ……びびってねーッつの!!」

 傍に寄ってきた、自分より背の高いセフィロスを見上げて睨みつける。常に口元に弧を描く男はティーダの顎を掬うと笑みを深くした。
「気が変わった、暇なら相手をしてやろう。アレが来るまでの間、な……」
「はぁ? ってどこ触ってんスかあぁぁ!!」

 さわさわと開いた胸元に触れられてティーダが騒ぐ。そんな事は気にも留めず、セフィロスが行為をエスカレートさせようとした時、屋敷内が騒がしくなる。
「もう来たか……つまらんな」

 そう言いつつもセフィロスは笑い、ティーダから離れると刀を手にした。
 コスモスの戦士達が部屋に飛び込んでくるまで、後十秒――。

(皇帝……覚悟はできているのかっ!)
(ティーダをこんな目にあわせた罪は重いぞ……)
(食らえ!)

(ウボァァァァ!!!)

(そんなに酷いことされてないッスけど……まいっか)

――――――

あとがき。

ぬるーいほのぼのギャグに挑戦→玉砕orz
ネタの泉より『ティーダがカオス陣に捕まってドエスたちにいじめられるのを間一髪でコスモス陣営総出で奪い返しに来るorそのままいじめられる話』を書かせていただきました。匿名の方、ありがとうございましたv
ギャグでもシリアスでも裏でもOKとのことでしたので、表バージョンはほのぼのギャグにさせていただきました。
表バージョンということは当然裏が……げふげふ。他のカオスの方々も出したかったのですが収集がつかなくなりそうになってカットしました……申し訳ありませんorz
個人的に雲様とかミシア様にきゅんとしていただければ嬉しいです。助けが遅かったらティーダが色々とおもちゃにされそうです……女装とか。
熟女に苛められるティーダも好きです← 二人共……というかカオス陣はほとんどSだと思うのでノリノリで苛めてくれそう。
ギャグなのに色々とテンポ悪いうえ、短文ですみませッ……もっと面白いものが書けるようになりたいです!
最後まで読んでくださりありがとうございましたv

ちなみに裏は方向性が百八十度違いますのでご注意です。

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