「はいティーダ、これ羽織っときなよ。さすがにその服は不味いでしょ」
「あ、さんきゅーオニオン」
前が大きく開いたティーダの服を指し、持ってきた大き目のタオルを渡す。それをバッツが珍しそうに見た。
「お、なんかオニオンが優しいぞ」
「”今は”女の子だからね」
「なんだ? お前もフェミニストだったのかー?」
「別に、そんなんじゃないよ。でも今のティーダって筋力も落ちてるし魔法もろくに使えないしフォローはしてあげないとね」
「………………」
「お、おいティーダ! そんなに落ち込むな!」
「くすくす、彼も素直じゃないね」
つまりは戦闘においては足手まといと言われたようなもので、ずーんと落ち込むティーダをフリオニールが励ます。オニオンがティーダとティナに甘いのを知っているセシルは柔らかく笑うだけだ。
「……それで、ティーダの体が元に戻るまでの部屋割りだが……」
リーダー格であるウォーリアが剣を鞘に収めながらそう切り出すとバッツが元気に手を挙げる。
「はいはーい! オレティーダと同室がもががっ」
「はいはーい、ややこしくなるからバッツは黙っとこうなー」
バッツの言葉は最後まで言うことなくジタンに止められた。話を途中で止められたがウォーリアは気にすることなく続ける。
「……一部の馬鹿者のせいで秩序の館が半壊状態のため、しばらく混沌の城の空き部屋を使うことになった。異存は?」
「はーい」
「ジタン」
「一応アイツら敵だけどその辺いいのか? リーダー」
「あちらも承諾済みだ。ガーランドも元騎士だからな。部下の不始末の責任は取ると」
へぇ、と感心したように呟くジタン。他のメンバーも異存はないらしくウォーリアは一度頷くと部屋割りについての話し合いを始めた。
(馬鹿者……馬鹿者と言われたぞ)
(反応するなスコール、またレディアントソードに追い回されたいのか)
(追尾性能がほぼ100%だった気がするぞ……なんだアレは)
(ドラグーン・シス……いやなんでもない)
館を半壊にした三人―セフィロス、クラウド、スコール―はウォーリアに粛清された後、その修理に勤しんでいる。ちなみに三人だけでは到底無理なのでイミテーション達も手伝っている。
元々口数の多い方ではない三人は無言で意思疎通するという荒業をやってのけていた。しかし油断をすると心の声が駄々漏れになるので注意が必要である。
一方で、ウォーリアは着々と部屋割りを決めていく。空き部屋が少ないため必然的に男達は一つの部屋に数人で詰め込まれる。ティーダと同室でない事をバッツ達は残念がり、フリオニールはほっとしつつもどこか残念そうだ。(そしてその後自分の考えに悶絶する)
「ティーダは今女性だからな……ティナと同室になるが、いいな」
「うぇ!? やっ、体はオンナノコかもしんないッスけど中身は一応おと」
「ったりめぇだ! ヤローの部屋なんかに寝かせられっかよ」
「オヤジっ!?」
「本当っ? 嬉しいな、ティーダに可愛い服着せてみたいの」
「ティナぁぁ!?」
それまで大人しくオニオンに貰ったタオルを羽織って話を聞いていたティーダは反論しようとしたが、きらきらと目を輝かせているティナの発言に思わず後ずさりする。体は女だが一応中身は男だ。しかも今の状況でも十分恥ずかしいのに、その上女装までさせられたら男としてのプライドが。
「それにその服のままじゃ駄目だよ」
「フリオにも目の毒だしね」
「せ、セシルっ」
顔を赤くさせたフリオニールがセシルに言い返そうとするが、はたとティーダと目が合ってしまいそのまま動かなくなってしまった。
「で、でも別に女の子の格好じゃなくても……」
「……駄目、かな……きっと可愛いと思うの……」
「う……」
断りたいのは山々だが、かと言ってティナの期待に満ち満ちた瞳を裏切れるわけもなく、リーダーや父親の有無を言わさぬ雰囲気にティーダはゆっくりと頷いてしまったのだった。
(ティーダが女装……)
(女装……か……)
(まさかオレがいつも使っている蜂蜜シリーズを着るんじゃないだろうな)
手は動かしつつ、頭はティーダのことでいっぱいの三人を見て、ジタンが呆れたように息をついた。
「しっかし、女になったらますます女房に似たなぁオメェ」
「うっさい馬鹿オヤジ!!」
「なぁ、ところで女の体になっても女装っていうのか?」
「さぁ……」
――――――
「わぁ……可愛いよティーダ」
「~~~~~~~っ」
ティナにせがまれ、泣く泣く蜂蜜シリーズを装備したティーダは、もうどうにでもなれと思いつつやはり恥を捨てきれないでいた。
床に座り込んだままスカートの裾を握り締めているとバッツとジタンがやってくる。
「へ~、結構似合ってんじゃん」
可愛い可愛いといい笑顔でバッツに言われて嬉しくない!と反論する。いつもより少し身長が高く感じる彼に頭を撫でられて余計に屈辱的だ。
「ま、ただでさえ華が少ない世界だし、レディが増えるのは喜ばしいことなんじゃねぇの?」
「ジタンんんん!!!」
他人事だと思って楽しそうにしている二人を恨みがましい目で睨むが、あまり効果はないようだ。
「そう怒るなよティーダ、可愛いってのはホントだぜ? そんな怒ってると可愛いのが台無しだって」
「ジ……ジタン……?」
急に紳士モードになったジタンにくい、と顎を持ち上げられて戸惑う。横ではいつのまにかティナがカメラを手にしている。
そのことに気付いたティーダはもう我慢ならないと部屋を飛び出した。後ろからティナ達が追ってくる声がする。女物の服を着ているという恥ずかしさは今は忘れて、とにかく人のいないところに隠れてしまいたかった。
が、慣れないヒールの靴ではそんなに早く動き回れるわけもなく、すぐに追いつかれそうになる。
「……れ?」
階段を下りようとしたところで足を踏み外し、体が前に倒れた。
「うあっ!!」
「ティーダ!!」
衝撃に耐えようと反射的に目を閉じて身構えるが、誰かの体に受け止められて痛みはなかった。
恐る恐る目を開けると、空色の服が目に入った。
「っと……大丈夫かティー……ダ……」
「フリオ?」
何かに気付いたように硬直し、次第に顔が赤くなっていくフリオニールを怪訝そうに見た後、ふと今の状況を確認してみる。
フリオニールの腕はティーダをしっかりと受け止めていて、むしろ抱きしめているような状態だ。そして胸の辺りに圧迫感。
「あ、そっか胸」
ふに。
「ぁ……うわわわ動くなっ! じゃなくて! すすすすすすまない違うんだこれは不可抗力というか下心があったわけじゃなくてその!」
突き飛ばすようにティーダの体を離したフリオニールが全力で言い訳しているが、ティーダはそれどころじゃないと靴を放り投げて再び逃げ出した。
「待てってティーダー!」
「やーいフリオのラッキーすけべー!」
「違ぁぁう!!」
ばくばくと激しく脈打つ心臓が落ち着くまで、フリオニールは暫らくその場に座り込んだままだった。
「っれー? おかしいなー、こっちに来たハズだろ?」
「………………」
物陰に身を潜めて息を殺す。バッツ達が違う方へ探しに行ったのを見届けるとほーっと息をついた。
もぞもぞとそこから出てくると改めて自分の格好を見て、またため息をつきそうになる。これのどこが可愛いのかバッツ達に問い詰めてやりたい。
ブリッツボールに加え戦いの中に放り込まれて鍛えられた体が、女性体になったことで弱弱しくなっていてそれもため息をつかせる原因だ。
しかし、まずは服をどうにかしたいと近くにあった部屋に入る。変わった服装の者が多いとは言え、女装より幾分かマシだと部屋の中を漁り始める。
この時、ティーダの頭の中からはここがカオス陣の城だということがすっぽ抜けていた。
「……人の部屋でなにをしているんだい?」
「ぎゃああ! ……ってなーんだ、クジャじゃないッスか」
「……躾のなっていない犬だねぇ」
突然現れた部屋の主らしいクジャに息をつくが、自分の格好の事を思い出し慌てて出て行こうとする。敵方にまで見られたなんて恥ずかしすぎる。部屋を出てきてしまったのは自分だが、自分をこんな体にしたケフカを恨んだ。
「あ、なぁ、アンタも魔法得意だろ。これ治せないッスか?」
「人の部屋を漁っておいてそれかい? まぁいいけどね……ん、これは僕の専門外だ……ガーランドがケフカに散々説教して薬作らせてるし、大人しく待ってなよ」
「そ、っスかぁ……」
がっくりと項垂れる。クジャの部屋ということは普通の服は期待できないと諦めて、勝手に入ってごめんと謝ると部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなよ」
しかしそれはクジャによって遮られる。手を引かれて振り向かされる。手で顔を挟まれて不思議な色をした目に見つめられた。
「な……なんスか……」
「………………キミ、化粧してないね」
「へ?」
「素材は悪くないってのにこれじゃ勿体無いね。アルティミシア! 雲!」
クジャがそういうとどこからともなくカオス側の女性二人が現れた。何をされるのか想像がついて、逃げ出そうとするも暗闇の雲の触手に捕まってしまった。
「ぎゃーやめろやめろー! もー嫌ッスー!!」
「あらあら元気な子犬ね。話は聞きましたが、ケフカもなかなか面白いことをしますね」
「化粧してないなんて信じられないよ、二人共手伝ってくれるよね?」
「わしは手足を押えておく……好きにしろ」
「もちろんです。……肌も綺麗ですね、魔法の影響でしょうか? ……それとも若さかしら、憎たらしい」
「何でもいいから離せってー!!」
何とか抜け出そうともがくが触手はちっとも外れない。
「完成、だね」
「……離……あれ……?」
「あまりに暴れるものですから、少し時間を止めさせてもらいました」
「……ほれ、見てみろ」
「………………………………」
暗闇の雲に渡された鏡には、自分だけど自分じゃないような、おぼろげに覚えている母親を思い出すような顔の自分がうつっていた。
後ろでは肌が綺麗だったからあまり弄らずに云々とクジャが言っているが、そんなもの耳に入らない。思うことは唯一つ。
「~~~~~ッ、俺は男だっつーのーーー!!!」
そう叫んで再び脱兎の如く逃げ出したティーダを、メイク談義を始めてしまった三人は追いかけようとは思わなかった。
「はぁ……走りにく……」
慣れないスカートで散々走り回り、疲れきったティーダはその場に腰を下ろす。服を汚すかと思ったが、もうそんなことを気にする余裕もなかった。
人気の多い城の中で逃げ回るのも限界があったので、今は外――修理中の秩序の館近くまで来ていた。さすがにすぐにはバレないだろう。
落ち着いて、改めてまた自分の体を見てみる。普通の女性よりは筋力があるだろうが、それでも戦うにはひ弱な腕。足手まといだと思われても仕方が無い。柔らかな曲線を描く胸元を忌々しげに見つめているとザッと足音がした。
「……ティーダ……?」
「あ、クラウド」
振り返ると、作業していたせいか服が薄汚れたクラウドが立っていた。そのまま動かないクラウドを怪訝そうに見つめているとはっとして「なんでもない」というと近付いてきて隣に座る。
「………………」
「………………」
言葉が見つからずに黙っていると静寂が訪れた。もう日も暮れる。そろそろ戻らなければ流石に父親まで探しにきてしまうだろう。
ふと、クラウドが何も言わないことに首をかしげた。
「……クラウドは何も言わないんスね」
「何がだ?」
「んー……皆なんか可愛いとか似合ってるとかさぁー……俺男なのにこんな女装……あ」
そこまで言ってふと気付く。そういえばクラウドも。
「……お前の気持ちは、分かるからな。まぁ、俺はもう諦めたが……」
「……俺もクラウドの気持ちが分かったッス……」
いつもからかってゴメン、と謝るとくしゃりと頭を撫でられる。気にしてないさと笑うクラウドが何だかカッコよく見えて、まさか心まで女になってしまったのではと心配になってしまった。
「……! ティーダ、お前……」
「え?」
「足、どうしたんだ……泥だらけ……というか靴は」
「あー……逃げにくかったから脱いできちゃったッス……」
ここまで来た経緯を話すとクラウドが軽くため息をつく。すると持っていたタオルで足を拭い始めた。
「わ、クラウドいいって! タオル汚くなるッスよ」
「…………ティーダは……いつも無茶をするな」
「ん?」
「戦いの時はいつだって先頭を走っていく……絶望的な状況だって笑顔で乗り切るし、皆を勇気付ける」
少し切ってしまった所を、痛まないよう優しく拭われて何だかくすぐったい。
「せめて今くらいは……無茶しないでくれ」
女性体になってしまった今くらい、頼ってくれ、と。
困ったように笑うクラウドに、ティーダは自然と頷いていた。
――――――
あとがき。
ネタの泉で頂いた『ティーダ女体化。総受けのギャグ。オチはなしか、クラティ』を書かせていただきました!リクくださった方、ありがとうございました!遅くなって申し訳ありません。
前回のにょたネタの続きでしたが、どうだったでしょうか……。やっぱりギャグセンスが……というかどこが笑いどころなのか伝わらない気がするorz 精進します。
オニオンはティナとティーダには甘いというか優しいという自分設定。他のみんなとも仲いいけど二人には特に優しいみたいな……!
今回もクジャや魔女組が活躍しております。そしてクラウドはティーダに見蕩れてしまうという……なにこれ何か恥ずかしいですorz
女体化ということだったのですが、あまり女々しくなりすぎないようにしてみました。でも最後は乙女に……。もちろん皆に愛されてるのはいつもの事なのですが(笑
ドラグーン・システムが分かった人はきっとお友達です。声ネタですみません。分からなくて気になった方は検索してみてくださいませー。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
一番書いてて楽しかったのはラッキースケベのくだりと言う変態ですごめんなさい!