子犬と食事

「おじゃましま~す!」
「いらっしゃいませー!」
「……ザックス、もう少し声を落とせ。隣の部屋に迷惑だろう」

 再会を喜び抱き合う二人がようやく落ち着いた後、ザックスの部屋へとやってきた。
 ザックスとティーダ、俺とOBの三人。大の男が6人もそろってぞろぞろと部屋に入っていく様は傍から見たら変かもしれない。
 うち一人は200センチはあろうかという大男だから、いつもは少し広めに感じるザックスの部屋が狭くなったような気がした。

「まったく……何かあるたびに俺に料理させるなザックス」
「だってアンジールの飯すっげー美味いんだもん。ティーダも食いたいよな?」
「え? あ、うん。でもオレも手伝うッスよ、アンジールさん!」
「料理できるのか、ティーダ」
「えっと、うちは母さんが……」
「フッ……子犬の従兄弟とは思えないな」
「んだよ、アンタだって他人の事言えないだろ! 家事は全部ハウスキーパーに任せてるじゃん」
「俺の家は『男子台所に入るべからず』という家訓があってな……」

 ふと暗い話題になりそうだと直感した直後にジェネシスが割り込んでうやむやになる。
 自分がティーダの発言を促してしまっただけに、ティーダに対する申し訳なさが生まれた。と同時に、ジェネシスに一つ借りが出来てしまったのが何だか悔しくもある。

「……すまないな」
「あ、いいッスよ。ごめん、オレも暗い話題出しちゃうとこだったし」

 小声で謝ると笑顔で答えてくれる。アンジールに呼ばれてキッチンへと入っていく後姿を見ながら、少しだけ息を吐き出した。

――――――

「片付けを弟分だけにさせるなよザックス」
「わかってるってアンジール!」
「どうだか……」
「なんか言ったかジェネシスーっ!」
「…………」
「三人とも今日はありがとッス! 楽しかったッスよ~!」

 アンジールとティーダが作った食事を食べ終わり、しばらく談笑した後にOBの三人は帰路につく。
 まだザックスが何か言っているのを背に受けながらジェネシスが去っていく。アンジールはティーダを気に入ったのか軽く頭を撫でてからジェネシスの後を追う。
 セフィロスもまた二人の後を追った。……一瞬だけ、ちらりと振り向いた。

「クラウドはどうするんだ?」
「……ああ、俺もそろそろ帰るよ。食事、おいしかった。ありがとう」
「いやいやどーいたしましてー」
「……お前じゃない。ティーダに言った」
「はは、ありがと。あんなんでよかったらまた作るッスよ!」
 人懐っこい笑顔につられてこちらも頬が緩む。
 犬好きのアンジールでなくともこう邪気のない笑顔を向けられたら、彼を嫌いになれる人間はそういないだろう。

「でももう帰るんなら三人と一緒に帰ってもよかったんじゃねーの? ははっ、まーだセフィロスが苦手なのか?」
「……悪いか」
 さっき一緒に部屋を出なかったのは、ザックスの言うとおりだ。
 あまり係わり合いにはなりたくない。

 ただセフィロスのことだけでなく、もう少しだけここにいたいという思いもあった、かもしれない。

「今日はありがとうな」
「おう! 次は飯だけじゃなくってどっか遊びに行こうなー。俺が声かけないとお前ら全然遊ばないからな!」
「ああ、よろしく」

 正にその通りなので苦笑する。こつんと拳をぶつけ合うとドアを開ける。
 外の蒸し暑い空気が肌に纏わりついてじわりと汗をかいた。振り返れば二人が手を振っている。
 軽く振り返してからドアから手を離した。

 最後にもう一度振り返った。
 二人の笑顔が見えて、ひょっとしたらセフィロスも同じ気持ちだったのかもしれないとふと思った。

「帰っちゃったッスね~」
「そだな~。片付けもやんねーとなー」

 先ほどまで大の男が何人もいた部屋に、今は二人だけでいつもより広く感じた。
 二人で皿を流しに運んで、机を拭いて。

 ふとティーダがこちらを見ているのに気がついて、思わず笑みがこぼれた。

「ティーダ」
 にかっと笑ってぽんぽんと膝を叩くとふにゃ、とティーダの顔が歪んで。

「~~~~~ざっくすううううううううう!!!」
「おーよしよし。そんなに俺に会いたかったのか~照れちゃうぜ」

 マンションの前で会った時も散々抱擁を交わしたのに、ティーダはぐりぐりと頭を押し付けるように抱きついてくる。

「あ、会いたかったのもっあるけど……ザックスの地図が下手だったから着けるかすげー不安だったんスよ~~~~!!」
「あーもう悪かった悪かった。もう大丈夫だろ」
「うん……ザックス会いたかったぁぁぁ!!」
「俺もだ! ティーダあああああ!!!」

 ぎゅううううと負けじと抱きしめ返す。
 10年。10年かぁと離れていた時間を感じる。すっかり大きくなってしまった弟分が相変わらず可愛くて仕方ない。

「これからまた一緒だ!!」
「一緒ッス!!」

 10年離れていた事なんか感じさせないほど、自分達は相変わらずだった。

「…………」
「どうしたセフィロス、今日はいつにもまして大人しいな?」
「放っておけアンジール。大方あの子犬に一目ぼれでもしたんだろう」
「…………………………」
「…………………… おい……まさか……」
「…………………………春だな」
「いや、今夏なんだが……」

――――――

あとがき
 セフィ(→)ティダがデフォっぽいのは全て私のせいですサーセン!
 英雄どんだけティーダ好きなんだよ!というより私がどんだけセフィティダ好きなんだよ!が正解ですキリッ
 ティーダはザックス兄ちゃんに会えなくて寂しかったんですよ!二人は仲良しこよしです。でもケンカする話とかも書いてみたいですね……フフフ
 また気が向いたらこの設定で書いて見たいっす!

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