10祭り2012:012組編

ひとときの休息(召10)

 これが僥倖なのか、不幸なのかはわからないけれど。
 少なくとも、今はただ嬉しかった。

「オヤジー! 勝負しろ勝負!」
「んだぁ? また来たのかよ。こりねぇやつだな。またぴーぴー泣くぞ」
「うっせー! とっとと構えろよ! コテンパンにしてやる!」
 そんな声が聞こえてきて、今日も外へと飛び出す。
「ティーダ!」
「おーっすユウナ! すぐ終わらせるからちょっと待っててな!」
「へっ、すぐにやられるつもり満々とはな」
「あんたを倒すって意味だよ馬鹿!」
 ジェクトにからかわれてむきになるティーダが突っ込んでいく。
 怪我しないかとハラハラしながら見ているのに、二人ともお構いなしに拳を、剣をぶつけ合う。お互い楽しそうだからいいのだけれど。

「あでででっ、ユウナもっと優しくしてほしいッス」
「さっきのジェクトさんの体当たりのほうがよっぽど痛そうだったよ」
 くすくすと笑いながらティーダの手当てをする。ジェクトの方はティファがやってくれていた。
 ――結果は引き分けだった。最初の頃こそティーダは戦い慣れておらず負けが続いていたが、最近は随分と強くなってきた。
 ジェクトはジェクトで、負けそうになって焦りつつも内心とっても嬉しいのだろう。憎まれ口ばかりだが、素直になれないだけなのだ、この親子は。
「でもティーダ、こんなにしょっちゅう来てて大丈夫? カオスの人達に怒られない?」
「んー別に放任主義だし……あ、クラウドはちょっと心配するけど」
 カオスの内部事情はよく分からない。最近は激しい戦闘もなく、ヴァンやバッツはゴルベーザを捕まえて世間話なんかをしてる時もある。
 平和なのは嬉しい。でもまた戦う時がきたら辛いかもしれない。このままコスモスとカオスが和解、皆戦うこと無く元の世界に帰れる……なんてことになってくれたら嬉しいが、勿論現実はそんなに優しくない。そもそもここは、この世界は現実なのだろうか……?
 でも、今はこの状況がとても嬉しい。だって、ティーダとまた会えて、こんな風に話せるから。

「相変わらず、記憶は戻らない?」
「うーん、ザナルカンドのこととか自分のこととかは思い出せるし、スピラを旅してたのもなんとなーく思い出せるんスけど……そこに誰がいたか、よくわかんないんだ」
「そっか。私も全部思い出してるわけじゃないし、仕方ないよ。でも、私が一緒に旅をしてたのは本当だからね」
「うッス。あーユウナみたいな可愛い子と旅したのに思い出せないとか、なんなんスか!」
 不満そうに唇を尖らせるティーダも可愛いと思う。なんて、本人に言ったらまた拗ねてしまいそうだから言わない。
 ――ティーダの記憶は完全には戻っていない。そしてそれは自分も同じ。
 思い出せるのは、『シン』を倒す旅をしていたこと。その旅に彼もいたこと。彼と想いを寄せ合っていたけれど、旅の終わりに彼がいなくなってしまうこと。
 どうしていなくなったのか、その理由を彼は教えてくれなかったけれど、多分薄らと悟っていた。でも、それを思い出せない。
 思い出さなければいけないような気もするし、思い出したくないような気もする。
 ティーダに聞けばなにか覚えているかもしれないけれど、怖くて聞けない。今はもう少しだけ、この幸せに浸っていたい。
 ああ、こんなことだからきっとあの世界は死の螺旋にとらわれてしまったのだ。あの螺旋を作った人たちの気持ちが、今なら理解できる気がした。
「ティーダ、そろそろ帰るぞ」
「あ、クラウド。ごめん、そろそろ行くッス」
 クラウドというカオスの戦士が迎えに来て、ティーダは離れていく。ここではない、敵の陣地へ帰ってしまう。
 分かっている。この世界では敵同士で、いずれはカオスやその戦士達を倒さなければいけないことを。
 本当は手を離したくなんか無い。行かないでと、子供みたいに駄々をこねたい。
 今の幸せがもう少しでも続いて欲しい。心の中では思っているけれど、使命を前に逃げることなんてできない。そういう性分だった。

「うん、じゃあね、ティーダ」
 あぁ、でもやっぱり。

――――――

 想うだけなら、許されるでしょう?


親と子の話(銃10)

「あれ、まーちがったかな?」
 辺りを見渡す。うん、見慣れない景色だ。地図も忘れてきてしまったし、困ったものだと頭をかいた。
 カオスの連中と戦闘になり、とりあえず追い返すことはできたもののふと周りを見れば仲間はおらず。
 とりあえず太陽の位置から大体の方向を決め、本拠地に戻ってみることにしたのだが。
「ぜーんぜんつかねぇな。……あ、あんな所に歪なんてあったっけか。帰ったらリーダーに報告しとくかぁ」
 なんだかんだでいつも何とか本拠地には戻れるのであまり危機感はない。普段こういう所で運を使わなかったら戦闘中に危ない目にあうことも減るのだろうか?
「あれ? ラグナ?」
 ふと、最近ではすっかり聞きなれた少年の声が上から降ってきた。
 見上げるとそこには空と太陽と、それに負けないくらいの眩しい笑顔があった。
「おーっす、また迷子ッスか?」
「失礼だぞティーダ君。本拠地目指して歩いてるところだ!」
「それ迷ってるだろ……」
 おおっ、ヴァンに引き続きティーダまで突っ込み役に回してしまった。すごいぞ俺。などと感心している場合ではない。
「ティーダもジェクトの所に行くんだろ? 一緒に行こう、な! 『旅は引き摺れ世は情け』って言うだろ~?」
「?? よく分かんないけど、しょーがないッスね~」
 ほっ、と軽い掛け声と共に飛び降りたティーダは、まるで重力なんて無いみたいに軽やかに着地した。
 あぁ、でもカオスの人間と一緒に帰ったらライトニングやリーダーに冷ややかな視線を送られるかもしれない。
(……まあいいか、ティーダだしな!)
 このティーダという少年には、ライトニングもあのリーダーも何故か弱い。というかコスモスのメンバー全員ティーダには甘かったり優しかったりする。ちょっと分けて欲しい。
 かく言う自分もティーダのことは好きだ。カオス側の人間ではあるが、そんな些細なことは気にならないくらいの『みりき』を持っている。
「ラグナもさぁ、一応コスモスの中では年長者だろ? もっとしっかりしないと駄目ッスよ!」
「うっ、手厳しい。まぁ、コスモスも人選ミスしてると思うぜ。俺みたいなのが呼ばれるとかさぁ」
「……それを言うならオレの方ッスよ。ろくに戦った事ない人間をこんなとこに呼び出すとか、カオスだって人選ミスにも程があるッス」
「なーんでオレたち呼ばれたんだろうなー」
「なー」
 他愛のない話をしながらのんびり歩を進める。うーん、平和っていいことだ。元の世界も平和だといいのだが、記憶も曖昧だからよくわからない。自分の記憶に関わる指輪を何気なく触ると、ティーダが首を傾げた。
「あれ、ラグナって結婚してるんだっけ?」
 左手薬指に光る指輪。どうやらティーダの世界でも同じ風習があるらしい。
「へへ、実は一番最初に思い出したのはそのことでな~。でもジェクトは指輪してなかったような……?」
「あぁ、ブリッツやる時はそういうの着けちゃ駄目だから」
 なるほど、ブリッツは荒々しいスポーツだと聞いているから、確かにこういうものを着けていたら危険だろうし、水中で落としてしまったら厄介だろう。
 仕方のないこととはいえ、ティーダは指輪を見るとちょっとだけ寂しそうに笑った。
「んじゃ子供は? その年なら一人くらいいる?」
「あー、その辺のことはあまり思い出せてないんだよなぁ。でも多分、いなかった……か?」
 なんだかこういう話はちょっと照れてしまう。指輪のおかげで記憶の一部が戻っただけに、召喚された時に写真の一つや二つでも持っていればよかったと心底思う。
「そっか……ラグナってすげー子煩悩なパパになりそうだからちょっと気になってたッス」
「あ、わかる? 子供好きなんだよな~」
「わかるわかる。 あ! でも子供がスコールみたいなタイプだったら構いすぎは危険ッスよ! 鬱陶しがられちゃうッス!」
 確かに年頃の子供は親の干渉を鬱陶しいと思うかもしれない。自分が子供の時には……あれ、どうだったっけ?
「うーん、オレは鬱陶しがられても構っちゃいそうだな」
「あはは、ラグナらしいッスね」
 笑いつつも、ティーダがじぃとこちらを見る。こちらを見てはいるけれど、自分ではない何かを思っている。そんな気がする。
 声をかけるより先にティーダの焦点が戻る。やっぱりそこにはいつもと変わらない笑顔があった。
「ごめん、ちょっと、ラグナがオレのオヤジだったらどんな感じだったのかなーって。妄想してたッス!」
「おぉ、そっか。でもジェクトもオレとちょっと似てると思うぞ~? 大雑把な所とか子供好きな所とかな」
「オレには優しくなかったッス」
 つーんと拗ねたようにそっぽを向く。実を言うとジェクトはティーダのいない所では息子の話……というか自慢話ばかりしているので、コスモスのメンバー達から見ればただの親馬鹿である。
 正に『親の心子知らず』……ん? 合ってるのかこれ。
「んじゃあ、想像してみてどうだった? オレのがよかったか? 俺としては歓迎するぞ~。息子っていえる年齢差じゃないけどな!」
 両手を広げてカモーンとアピールするが、ティーダは頭をかきながらため息をついた。そういえばジェクトもよく同じ動作をしている。親子だなぁ。
「……ラグナさ、分かってて聞いてるんだろ」
 やっぱり大人は意地が悪い、とむくれながらティーダがぼやく。
 気付けば、本拠地が見え始めていた。途中ではぐれた仲間も、ジェクトもそこにいた。
「あ、クソオヤジいぃぃぃぃ勝負しろーーー!!!」
 途端に駆け出してしまうティーダの後姿を眺めながら、親子っていいなぁ、なんて。

――――――

 いつか、自分にも。


朝と夜の境界(空10)

 夜中に見張りを交代して、もう何時間経っただろうか。
 暇なので(こんな事言ったらライトニングにぶっ飛ばされるけど)所々思い出した元の世界の記憶を、もっと細かく思い出せないかとぐるぐる思考していたら、いつの間にか夜明けが近づいてきていた。
「ヴァン」
「お、相変わらず早いなーライトニング」
「職業病だ。他の奴もそのうち起きるだろうし、後は私がやっておくから、お前も少し寝るなり眠気覚ましに散歩するなりしてこい」
「んじゃちょっと歩いてくるよ」
 そう言ってふらふらと歩き出す。『あまり遠くへ行くなよ』という声に手だけ振って応えた。
 ――出会ったばかりの時と比べると彼女も随分と丸くなったものだ。ああいう強気、というか、毅然とした態度の女性が元の世界にもいたような気がする。
 適当に歩いていると、波の音と潮風を感じて、そういえば近くに砂浜があったことを思い出す。
 砂漠育ちだったから海なんて滅多に見れなくて、初めて見た時は随分とはしゃいだ、ような気がする。
 音を頼りに歩いて、小さな岩場を越えた先にあった景色は、多分一生忘れられない。

「うわ……」
 夜明け前の海。水平線に太陽が覗く前。夕焼けとは違う、鮮やかな紅。薔薇色というのが正しいのかもしれない。
 夜の蒼と、明けの薔薇色が空で混じりあう様は、言葉で言い表せないほどに綺麗だった。
「すげぇ……」
「だろ。オレのお気に入りッス」
「……うおっ! びっくりした」
 景色に見惚れて全く気付かなかったが、砂浜には先客がいたようだ。野宿用なのだろうか、寝床として敷くのにも使えそうな大きな布をかぶって膝を抱えて座っている同い年の少年は、カオス側の人間だった。
「え、何? 何でこんなとこにいんの?」
「んー理由は特にないけど……そっちこそなんで?」
「今日見張りしてたんだよ。で、眠気覚ましの散歩中」
「ふーん」
 いつもよりテンションが低いのは寝起きだからだろうか。なんとなく隣に座ってみると、すぐにそうでないことが分かった。
「……お前寝てないのか?」
「んー、寝てないッス」
「なんで?」
「眠れなかったから」
 いやそうじゃなくて、と言いたかったけれど、潮風を受けながら海を眺めるティーダはなんだかとても気持ちよさそうだったので、やめた。
「オレだってアンニュイな時はあるんだって」
 考えを見透かしたようにティーダがくすくすと笑った。なんか、いつもと違って調子が狂う。出会ったばかりの頃はこんな風に元気がなかった気がするけど、やっぱりいつものティーダがいい。
 視線を海に戻すと、太陽が少しずつ顔を覗かせ、空の色も変化しはじめていた。
「お前の家って海の傍だったんだってな。俺砂漠育ちだから、こんなの初めて見た」
「おう、毎日でも見れるッスよ。でも砂漠の夜明けも見てみたいッスね~」
 言いながら、眠いのかこてんと体を預けてくる。そろそろ戻らなきゃいけないけど、ティーダを置いていくのは心配だ。今のティーダなんか変だし。
 ティーダはスポーツ選手らしいが、朝のトレーニングには早すぎる時間だ。お気に入り、ということは、きっと何度も夜明けの海を見ているのだろう。
 それは、この景色を見るために早起きしているということなのか。それとも今みたいに、眠れない夜があったからなのだろうか。
「俺さ、いつか自分の飛空挺持つのが夢なんだ。もし手に入ったら、今度は空から見てみようぜ」
 眠れない夜があったとしても、この絶景を見て眠気もなにもかも吹っ飛ばしてしまえばいい。砂漠の夜明けだって、いくらでも見せてやる。
「……ああ、それ……絶対……綺麗、っす……」

 ……寝た。いいのかな、一応敵ってことになってるんだけど。
 本当にもう戻らないといけないんだけど、やっぱり置いていくことはできないから、ライトニングの鉄拳を覚悟しつつ日の昇る海を眺めることにした。
 結局ライトニングが迎えにくるまでティーダは寝たままだったけど、起きたらいつも通りになっていた。ちなみにライトニングもティーダを気に入っているらしいので俺はデコピンで許された。やっぱり痛かったけど。
「ありがとな、ヴァン!」
「なにが?」
「なんでもッスよ! あ、約束忘れんなよ!」
「約束……ああ、飛空挺な。当たり前だろ、夢は現実にしなきゃな」
 そう言ったら、なんだかすごく嬉しそうな顔をされたので、早く手にいれないとなぁと思いながら皆が待つテントへと戻っていった。

――――――

 お前が行きたいならどこへでも。


平和の為に必要なもの(雷10)

 ヴァンのやつには困ったものだ。
 眠気覚ましに散歩でも、と言ったのは自分だが、朝食の時間になってもまだ戻ってこないのだから心配した。……なんて言うと調子に乗るかもしれないから言ってない。
 だがまぁ、今回は帰れない理由があったようで、デコピン一発で済ませた。加減したのに随分痛がっていた。失礼なやつだ。私はそんなに馬鹿力ではない。
「うまーー。カオスの飯は豪華なの魔法とかで出してくれるけど、皆バラバラで食べるし味気ないんスよね」
 帰れなかった理由、というのがこの少年の存在だ。
 カオス側でありながら明るく朗らかで、コスモスの戦士達にも気軽に声をかけてくる少年、ティーダ。彼が現れてから、戦況が緩やかに変化したような気がする。
「ティーダは料理が上手いのだな。あり合わせの材料でもう一品作るとは」
 カインがいたく感心した様子でティーダの作ったおかずを食べている。朝食はほぼ出来上がっていたのだが、中途半端に余ってしまった材料を見たティーダが何か作ると申し出てきたのだ。
 ちなみに材料は周辺で取れる木の実であったり、時にはコスモスから支給されることもある。
 料理をする手つきも随分と手慣れていて、随分と昔から料理をしていたことが分かる。
「一人暮らし長かったッスからね~。材料さえあれば、もっと色々作れるッスよ!」
 得意げに語るティーダも美味しそうに食事を平らげている。一人分増えてしまったので皆の分を少しずつ分け合ったがやはり少なく、一品多くなったのはありがたかった。
 ――最初の頃は、カオス側の人間であるティーダを、快く思っていなかったはずなのに、いつのまにか一緒に食事までするようになっている。全く、不思議な少年だ。

「悪いな、片付けも手伝わせて」
「オレが好きでやってるんスよ~」
 皆が使った食器の片付けにも、ティーダは手を貸してくれた。荷物になるので数は多くないが、手早く終わるに越したことはない。
 少し離れた所でヴァンやカインがテントを片付けながら装備の組み合わせについて話し合っていた。この世界に呼ばれたものは皆戦っている。大人も子供も、男も女も全員だ。
「ティーダは、この戦いについどう思っている? 戦うことを望んでいるか?」
「おぉ? いきなりッスね。うーん、オヤジとは戦いたいけど、カオスとコスモスの戦いは……っていうか、戦い自体望んでないッス。平和が一番! 早く皆帰れるといいなとは思ってるけど」
 突然の問いにもティーダは律儀に答える。「帰りたい」ではないのが少し気になったが……問いかけるまでもなく彼が戦いなんて望んでないのは分かりきっていることだ。
 私は、戦士達の中でも一際明るくて戦場の臭いがしない彼に、後ろめたさのようなものを感じているのかもしれない。
「……すまないな」
「ん? 何がッスか?」
「本来戦いというのは、私やカインのような軍人がするものだ。お前のように戦を知らない一般人や、オニオンのような子供の代わりに戦うのが私たちの役目なのに」
 手を汚すのは大人だけでいい。軍に入ったのは生活や妹の学費のためでもあったが、何より大事な妹を守りたいという想いからでもあった。
 故に、妹と同じくらいや、それより年下の未来ある若者達がこんな戦場に召喚され武器を取っていることに、疑問を抱かずにはいられないのだ。元の世界に帰る為の使命とは言え、彼らを戦わせずにすむ方法がないかと考えてしまう。
「ライトニングは優しいッスね」
「……この前バッツ達に鬼軍曹と言われた」
「あはは、そんなことないって」
 食器を片付け終えると、ティーダは立ち上がってうんと伸びをした。その人好きのする笑顔は、見ているこちらも頬が緩んでしまう。平和な世界で彼と出会えていたなら、いい友人になれたかもしれない。
「ライトニングはさ」
「ライトでいい。前も言っただろう」
「あ、そうだった。ライトはさ、妹がいるんだったよな?」
 頷くとティーダはいいなぁと呟いてくるりと回った。
「オレ一人っ子だから、兄弟ってちょっと憧れるんスよ。ライトみたいな姉ちゃんいたらいいな~って思って」
 とことこと近づいて、少し下から見上げるような姿勢で、彼は悪戯をする子供のような笑みを浮かべた。

「お姉ちゃん」

 ……こいつは分かっててやっている。なのに、その呼び方で妹の事を思い出してしまったりだとか、言った後に、やっぱり恥ずかしかったのかはにかんだりするから。
(……可愛くて怒れない)
 大人をからかうなと言いたかったのだが、取り合えず、ちょっと乱暴に頭を撫でておいた。
「……お前みたいな弟なら、私も欲しいかな」
 なんだかんだで私もちょっと照れてしまったのでティーダのことは言えないけれど、調子に乗って「お姉ちゃーん!」と抱きついてきたのでデコピンをかましておいた。

――――――

 ……そんなに痛いのだろうか、デコピン。


言の葉(竜10)

「やれやれ、面倒なことになったな」
「ッスね~」
 返事を返しつつも少年は……ティーダはまったく危機感を感じていないようだった。自身の腕が上がってきたことに自信がついたのか、はたまた俺を信頼してくれているのかはわからないが。
 何故か朝に散歩に出ていたヴァンと共にやってきて、そのまま歪の調査にまでくっついてきてしまった少年。その歪の中に仕掛けられていたトラップのせいで、パーティーは分断されてしまったのだ。
「ほら、オレがいてよかっただろ! オレいなかったら今頃カイン一人ッスよ!」
 彼は得意げに胸をそらす。まあ確かにその通りだ。とは言え、他のメンバーが同じ場所に飛ばされた保障はない。俺の代わりに他の奴が孤立していないといいのだが。
「そういえばカインと二人きりになるのって久しぶりッスね」
「言われてみればそうだな」
 彼と最初に接触したコスモスの戦士はヴァンだが、二番目に出会ったのは俺だったらしい。その時はまだ召喚されて間もなく、今よりも覇気がなかった。
 そんな彼が今や、朝食を共にしたり歪の調査にまでついてくるのだから、世の中何が起こるかわからないものだ。
「なーに笑ってるんスか」
 自分のことを笑われていると思ったのか、じとりとした視線を向けてくる。そんな表情豊かで素直な彼を、時々羨ましくなってしまう。
「いや、お前と出会った時のことを思い出していただけだ。あの時は、こんな風に親しくなるなどと考えなかったからな。縁は大事にするものだな」
「……カインってちょっとオッサンくさい喋り方だよな、21ッスよね」
 話の内容よりも喋り方を突っ込まれてがくりと力が抜ける。確かに他の同年代の者と比べるとそう感じるのかもしれないが……。
「あ、でもオレそういうの好きッスよ。大人の男って感じでさ。なんか落ち着くッス。元の世界にもカインみたいなやつがいたのかな~」
 苦し紛れのフォローという訳ではなく、本音でそう言ってくれているのが分かるから、ティーダという少年は憎めない。
「お前は本当に、素直な物言いをするな」
「オレのモットーっす! 言いたい事は言っちゃえってさ。大切なことなら尚更、言わないで後悔したくないから」
 耳に痛い言葉だ。かつて、自分は元の世界で、想いを伝えられないまま嫉妬や葛藤の心を敵に利用されてしまったからだ。
「大人になると、色々と難しくなるからな」
「そうッス! だからオレはこの青さは……」
 言いかけて、前を歩いていたティーダが振り向いた。本当にまだ、大人になっていない少年の顔で笑う。
「でも、カインにはセシルがいるじゃんか。何でも相談できる親友が傍にいるって、いいことだろ?」
 無邪気にそう言う彼に、苦い笑いがこぼれる。そうだな、それができたらあんなことにはならなかったかもしれない。
「……その親友に、言えないようなことだったのさ。言うつもりはなかったし、言いたくもなかった。俺は、」
 彼女と親友が幸せなら、それでいいと思った。割り込んで邪魔をするようなことはしたくなかった。そう思って、この気持ちを伝えることもなく、ずっと親友として付き合っていた。
 自分の気持ちを伝えていたら、少しは何かが変わったのだろうか? 少なくとも、気持ちの整理はついたかもしれない。心の片隅に押し込んだ嫉妬や羨望を燻らせることなかったのかもしれない。
「ごめんカイン、オレちょっと間違ったッス」
 今度はティーダのほうが苦笑いをしていた。いつもであれば我先にと宝箱に走り寄るのに、前方にそれが見えてもゆっくりと歩を進めるだけだ。
「言いたいことと、言いたくないことと、言えないことは違うッス」
 いつもの無邪気さではなく、かといって大人になりきれているわけでもなく、中途半端に意地を張った少年の笑顔があった。
「言いたい事は言っちゃったほうがいいけど、言いたくないことは、言わなくてもいいんだ」
 普段は明け透けにものを言う彼でも、人に言いたくないことはあるのだろう。そしてそれは多分、自分と同じように、誰かのためを思って言いたくないことなのだ。
 自分は大人だから、自然と隠し事を抱えながら人と付き合っていける。けれど、自身が言うようにまだ青く、素直な彼が隠し事をしているのは辛いことではないだろうか。
 それでも彼は青さをなくしたくないと言うのだろうし、自分も、恐らく他の者達も、ティーダにはそうあって欲しいと思ってしまうのだ。
「……お前は強いな」
「え? ぜーんぜんそんなことないッスよ! 善良な一般市民ッス!」
 戦いの話ではないのだが、と言うより前にティーダは敵の気配を察知して走り出す。
「こっちこっち! なんかいるッス!」
「先に行くな、危ないだろう!」
「カインがいるからへーきッス! あ、今日はバハムートなんだな」
 装備した召喚石を見ながらティーダがにこりと笑った。彼の装備はリヴァイアサンのようだった。
「リヴァイアサンでよかったッス。カインといると、バハムートもこいつも居心地いいみたいだからさ」
 やっぱ『竜騎士』だからッスかね~と笑顔で召喚石に語りかけるティーダに面食らう。目の前に顕現しているならいざ知らず、召喚石の状態で彼らの様子が分かるものなのか。それができるのはこの世界では恐らく、ユウナやカオス側のティナといった魔力が高く、召喚獣に縁の深いものだけだ。
「お前……召喚獣の心がわかるのか?」
「え? …………あー」
 素直な彼は明らかに「やってしまった」という顔をした。なんと言い繕うか言葉を探しているようだが、何故なのかはすぐにわかった。
(それが、お前の言いたくないことなのか)
 言いたくないというよりは、知られたくないこと、かもしれない。
 本当に、隠し事のできない少年だ。これではいつボロが出るかわかったものではない。
「……まあいい、行くぞティーダ。アシストは任せる」
「あ、待てってカイン!」
 慌てて追いかけてくる彼は気まずそうな雰囲気を漂わせているが、やがてぽつりと言葉を漏らした。
「……ごめん、ありがと」
「フッ、気にするな。お互い様だ」
「フッ、ってなんか気障ッスね!」
 またか、と少しずれた突っ込みに笑いつつも愛用の槍を構える。気合を入れなければならない。ティーダに怪我なんかさせたら、彼を大事に思っている者達から何をされるか分かない。

 口にすることはないが、本当は敵である存在にこんなことを思うのは間違っていると、彼らだって分かっている。
 分かっていてもやはり、ティーダのことは傷つけたくないと思ってしまうのだ。

――――――

 言わずとも分かることもある。


暖かくて優しいもの(拳10)

「この前オヤジにエロい目で見られなかったッスか?」
 そう話しかけてきたのは、今日も今日とてジェクトと戦うためにやってきた少年、ティーダだ。
 以前ジェクトの手当てをしていたから、気になっていたらしい。
「大丈夫だよ、ジェクトはそんな人じゃないから」
「いーや、絶対鼻の下伸ばしてたッスね! 次こそ負かしてやる!」
 息巻くティーダだが、当のジェクトは残念ながら新しい歪に向かったばかりだ。いたとしても、戦うばかりでろくに話さないまま帰ってしまうのが常なのだが。
「戦うばかりじゃなくて、たまにはジェクトと話さないの?」
「いーんス! オレの自慢の拳と蹴りを食らわせてコテンパンにする!」
 それはちょっと肉体言語すぎないかなぁとも思うのだけれど、この親子はそれでいいのかもしれない。想いを伝えられるのは言葉だけではないのだから。
 話さないといいつつも、やっぱりジェクトがいなくて残念なのか時折横目で帰ってこないかと確認しているのはなんだか可愛らしい。
 ちなみにジェクトがコスモス内で息子の自慢話ばかりしているというのは禁句令が出ているのでティーダには言えない。言ったらどんな反応をするのか、皆興味津々だ。
「でも不思議だよな~。オヤジみたいながっちがちのムッキムキな筋肉男が馬鹿力なのは分かるけど、ティファみたいな細くて美人な人がラグナとかヴァンとか吹っ飛ばしてるの見るとさ。あ、ティファが馬鹿力って言いたいわけじゃないッス!」
 違う違うと手を振るティーダに笑いがこぼれる。その前の、『細くて美人』が嬉しかったから、馬鹿力でも許してしまう。というか実際そうなので否定はしない。こういうティーダの素直な物言いには、カイン達もつい絆されてしまうようだ。
「それを言うならティーダも、割と細く見えるのに筋力あるよね。特に足とか」
「へへ、ブリッツは脚力が重要ッスからね!」
 ティーダは元の世界ではスポーツ選手だったらしいから、体は商売道具でもある。褒められて嬉しそうなティーダを見ると、こっちまで顔が綻んでしまう。
 今日は他にも歪の調査担当でない人が何人か本拠地に残っているが、今は皆食料探しなどで出払っていて留守を預かっている。いつも誰かと一緒にいるティーダを、珍しく独り占めできるのでちょっと嬉しい。ライトもそうだが、私もティーダを弟のように可愛がっているのだ。
「そういえば、この前はラグナを送ってくれてありがとね。気がついたらいないんだもの」
「あはは、ラグナってちょっと抜けてるからな~」
 本人が聞いたら抗議してきそうだ。と言っても、ラグナも本気では怒らない。
 のほほんと会話しているのもいいけれど、なかなか人が戻ってこないので軽く手合わせすることにした。いつもの剣を使っていいのに、ティーダは拳で組み手をやりたがった。
「オヤジも剣もってるくせに殴ってくること多いし、もっと慣れておきたいッス!」
 ……ということらしい。戦闘スタイルはジェクトとは違うけれど、ちょっとは役に立てるといい。ティーダは型も何もない我流のものだから、時に思いもよらない動きをすることがあるので油断ならない。
「そういえばティーダとかユウナって、ちょっとだけ私と、似てるところがあるねっ」
「おわっと! 何が、似てるんだっ?」
 フェイントを混ぜつつ拳を繰り出す。軽くとは言え、ちゃんと話しながら動けているティーダはまだまだ伸び代がありそうだ。
「自分で言うのもなんだけど、皆が落ち込んでる時にもっ、明るく振舞って、皆を元気付けるっていうか」
 本当はちょっと恥ずかしかったり、自分が辛い時でも、そうやって振舞うことでパーティーの協調性を保つ。
 ユウナは笑顔を大事にするし、ティーダもまた前向きな思考で周りを勇気付ける。ティーダは、本当はカオス側なのに、おかしな話だけど。
「……できてるんスかねっ、オレ……うわっ」
 顔面に当たりそうになる拳を寸止めするが、避けようとしたティーダは後ろに倒れてしまった。構えを解いて笑うと、立ち上がれるように手を貸す。
「できてるよ。私ももっとがんばらなくちゃね」
「ティファだってじゅーぶんッスよ」
 ティーダも笑い返してくれる。手を引いて立ち上がると勢い余って体がぶつかってしまった。ふにゅんとティーダの顔が胸に当たる。
「わー! ごめんッス!」
「いいよ」
 ティーダだからすぐに許したけど、これが他の男性陣だったらどうしただろう。鉄拳が飛んでいたかもしれない。
 流石に年頃の男の子だから恥ずかしかったのか、赤くなってそわそわしている。やっぱりティーダは弟のような雰囲気があってつい可愛いと思ってしまう。自分に兄弟姉妹はいなかったけれど、ティーダのような弟がいたらきっと楽しいのだろう。
「この前さ……ライトにお姉ちゃんだったらいいなって話したんだけどさ、ティファはなんか、お母さんって感じッスね」
「そう? 私ライトより年下なんだけどなぁ……」
 その話はライトから聞いていたけど、自分もお姉ちゃん、なんて呼ばれてみたかった。ちょっぴり落ち込んでいるとティーダが慌てて手を振った。
「いやっ、もちろんティファもお姉ちゃんって感じで好きなんだけどさ! 母性っていうのかな、包容力? みたいなのがあって、ふんわり優しく包んでくれるみたいなさ……いや、胸の話じゃなくて!」
 赤くなって慌てるティーダが可愛らしい。
 ――母親。自分よりももっと母性の強い優しい人が、元の世界にいた気がするけれど、よく思い出せない。
「ふふ、じゃあ、ティーダが落ち込んじゃったりした時は、私の所に来てね。気合いれて励ましてあげるから」
「うっ、鉄拳は勘弁ッス!」
 先ほどの手合わせを思い出したのか、ぶるりと体を震わせたティーダにくすくすと笑いがこぼれた。

――――――

 一人で頑張りすぎないで。


ここで会ったが百年目(豪10)

 次元の狭間を彷徨う内、妙な世界にやってきてしまってどれくらいたったのか。
 最近では外に出られる隙間のようなものを見つけては宿敵を探しているが、しばらくすると再び次元の狭間へと戻されてしまう。もしかしたら飲み込まれやすい体質になってしまったのかもしれない。
 奴と対決できる日はいつになるかと、出会った時のイメージトレーニングをしながら歩いていた時だ。
「あれ、ギルガメッシュじゃないッスか。久しぶりッス!」
「うぬ? お前は誰だ?」
「ひっでぇ! オレのこと忘れたのかよ!」
 唐突に話しかけてきたのはプリン頭のひよっこ……と言ったところか。見た感じ腕はそこそこ立つようだが、奴ほどの強者ではあるまい。
「あれ? そう言えば前にあった時……」
 なにやらぶつぶつ言っているひよっこだが、子供に構っている暇はない。その横を通り過ぎようとした時、武器コレクターの勘が何かを感じ取った。
「……お前、何か珍しい武器を持っているな?」
「ん? 武器? これのことッスか?」
 シュンッとその手に現れたのは、見たことのない意匠の剣。まるで水を切り取って作ったような美しい水の剣だ。名のある剣、というわけではなさそうだが、コレクションに入れるには充分な美しさだ。
「なかなかいい剣を持っているな小僧! 俺と勝負しろ! 俺が勝てば……その剣、もらおうか!」
「えぇっ! いきなりッスか! つか前回もそうだったけどさぁ、あげないッスよ! オレ強くなったんスから!」
 最初は戸惑ったものの、にやりと笑って武器を構えるあたりなかなか見所があるではないか。久々の戦いに胸を躍らせながら自慢のコレクションから武器を取り出した。
「いざ、尋常に!」
「勝負ッス!」

「ぬ、ぬぅ……なかなかやるではないか小僧、引き分けとは……」
「はぁ……あ、当たり前、ッスよ……これはあげられないッス……」
 どうやら剣に愛着があるらしい。とは言え、自分と同等に渡り合う敵の武器、ますます欲しくなるというものだ。勝つこともだが、強者のもつ名剣を奪うのはコレクターとしてこの上ない喜びである。
「ようし小僧! 一休みしたらもう一度だ! まだ奴に会ってもいないのに、貴様に勝てないようでは」
「お、おいギルガメッシュ! 体! 体透けてるッス!」
「なにぃ!?」
 足元に見る見る黒い大穴が開いていく。また次元の狭間に飲み込まれてしまう。冗談ではない、勝負はこれからだというのに!
「ギル!」
 必死に淵にしがみつき、少年が手を伸ばしてくれるも、抵抗空しく虚ろな空間に落ちてしまった。
 そういえば、何故あの少年は名前を知っていたのだろう?
「……まあ、またそのうち会えるかもしれんな」

 その機会は意外と早くにやってきた。次元の狭間に時間の概念はないが、自分の時間間隔では数日ほど過ぎたころ、再び時空の亀裂を見つけて外に這い出たとき、彼はまさにそこにいたのだ。
「おおっ、また会えたな小僧。今回は前のようにはいかんぞ?」
「………………え? 何? えーっと、誰ッスか?」
 きょとんと首を傾げてそう訊ねられ、ショックを受けないはずが無い。たった数日で忘れるとは、このひよこ頭め!
「忘れたとは言わせんぞ俺の名を!」
「えっと、ごめん、知らないッス」
「武具コレクターにして最強の武人、ギルガメッシュだ! 貴様ぁこの前も呼んでいただろう!」
「だから知らないッスよ!」
 話していても埒があかない。きっとこの剣を受ければ思い出すはずだと早速武器を構えると、少年も慌てて剣を出した。構えが甘い気もするが、まあいいだろう。
「行くぞーッ!」
「ちょ、タンマぁぁぁ!」

「……貴様、前より弱くなったな?」
「ッ……はあ……だーかーらー……知らない、っての……」
 ここまで思い出さないとは、どこぞで頭を打って記憶喪失なのかもしれない。だがこの前にあった彼と同一人物であることは明白だ。一応とは言え、勝利の証に水の剣を頂こうと手を伸ばす。
「っ! な、なにするんだよ!」
「この前も言っただろう、勝ったほうが武器を奪う! 前は引き分けだったが、今日は俺が勝ったからな!」
「だ、駄目ッス! これはっ」
 弾かれたように剣を引き寄せ、手の内から消してしまう。
「ごめん、他のなら何でもあげるけど、これは駄目ッス……だいじなものなんだ」
「ぬぅ……」
 いくら自分のコレクターとしての血が騒ぐとは言え、ここまで必死な相手から無理やり奪うのも気が引ける。せめて理由を聞こうじゃないかと少年の隣にどっしりと腰を降ろした。
「これは、オレの大事な人から貰った剣なんだ」
 元の世界の記憶が曖昧だという少年は、思い出せた範囲でぽつぽつと語っていく。やがてその剣を手に入れるに至った経緯を聞くと、もう奪う気など欠片もなくなっていた。
「う、うおおおおおお! そんな理由があったとは……スマン! そんな大事な剣だとは知らず、俺はッ……!」
「いや、いいんスよ! オレが弱かったのも悪いんだし……」
 感動で男泣きするのを笑いながら宥める少年は頭をかいた。もっと強くなりたいらしく、一人で修行中だったらしい。
「スマン、邪魔をしたな。俺はそろそろ行く! 人を探していてな」
「あ、ちょっと待って……えーと、ギルガメッシュ!」
 呼び止められ、振り返ると少年は何かを差し出した。受け取るとそれは……
「モーグリのお守り?」
「勝ったのに手ぶらじゃ申し訳ないッス!」
 なんと気持ちのよい人間だろうかと、笑う少年を見て思う。少年とはまた、武器の取る取らない無しに勝負をしたいものだ。
「では俺からはこれをやろう」
「えっ、いいッスよ負けたし……って、ダイヤ装備一式!? いいッスよこんなに!」
「いーや、貴様には次に会うまでに強くなってもらわんとな」
「ギルガメッシュ……ありがとッス!」
 ふっふっふ、決まった、と一人満足げに頷いていると少年が悲鳴を上げた。
「ぎ、ギルガメッシュ! なんか透けてるッス! っておわ! 穴が!」
「な、なにぃ!? またか! いつもいつもいい所で……! あーれー!!」

 またしても次元の狭間へと引き戻される。どうやら次元の狭間の女神に愛されてしまったようだ。色男はこれだから困る。いや、女神がいるのかは知らない。
 まあいい。宿敵と再戦する以外にも一つ、楽しみができた。
 そういえば名前を聞いていない。次に会った時はちゃんと名前を聞くとしよう。

「久しぶりだな!」
「オッス! ってこれ何度目かな? まあいいや」
「そうだ、貴様に名前を聞こうと思っていたのだ。名はなんと言う?」
「そういや教えてなかったっけ? オレは――」

――――――

 お前に勝てないようでは、アイツにも勝てんからな!

タイトルとURLをコピーしました