絶対言わない

 白、桃、ピンク。

 帰り道、色とりどりに咲くその花の名をバッツが教えてくれた。

「ツツジ?」

「そ、躑躅。なんだ、知らなかったのか?」

「む……オレはフリオみたいに花マニアじゃねーんスよ」

 さも知っていて当然というようなバッツにむっと言い返す。こちらの学校に来る前に住んでいたザナルカンドでは植物はあまりなく、知らなくてもしょうがないと心の中で自分を正当化した。

「ははっ、ティーダは都会っ子だからな~」

「バッツは自然児ッスからね~」

「そう! バッツさんは風の子!」

 得意げに胸をそらす仕草に思わず笑う。本当に、年上なのに子供のような男だった。

「お、そーだ」

 何を思いついたのか、とバッツを見ると徐ろに躑躅の花を摘んだ。

 勝手にそんなことしていいのか!とこの時点で驚いていたがあろう事かバッツはそれを口に銜えた。

「な、何やってんスかバッツ!!」

「んー? はひって、ひふふってるはへはへほ」

「何言ってるかわかんないッスよ!!」

「んーだからー、蜜吸っただけだって」

 へらりと笑いながら告げられた言葉が理解できず、ぽかんと口を開けたまま立っているとバッツはもう一つ花を摘んでこちらに差し出した。

「……はっ? いやいやいや! やんないッスよ!」

「なんでだ? 甘いぞー?」

 ほれほれと手を突き出すバッツから後ずさる。理由を言ったら、多分、いや絶対笑われるんだろう。

「や、なんか……」

「ん?」

「………… ばっちそ……う……」

――――――

「笑いすぎッスよバッツうううううう!!!」

「ははっ、悪い悪い……ひー腹いてー」

「うぐぐ……」

 散々笑い尽くしたバッツは目尻に滲んだ涙を拭いながら呼吸を整えた。

 自分はというと恥ずかしさで熱くなっている頬を押さえつつそっぽを向いた。

「そっかぁ。その発想はなかったぜ。俺達子供のころから普通にやってたからなぁ」

「都会っ子で悪かったッスね……」

「はは、拗ねんなって」

 わしゃわしゃと頭を撫でられるが子ども扱いされているような気しかしない。

「まー、そうかぁ。最近の小学生とかもやらねーみたいだしそういうもんかなぁ。他にもあるんだぜ、蜜吸える花。サルビアとかホトケノザとか。ホトケノザは吹くと音が出るんだぜ~。あ、躑躅は毒性あるやつもあるから注意な」

「……バッツってそういうの詳しいんスね」

「まーなー。オヤジとよく出かけてたしな」

「ふーん……」

 うちのオヤジはあぁだからなぁ、なんて。少しだけうらやましいななんてそんなことは全然

「なぁティーダ、やっぱり躑躅の蜜体験してみないか?」

「うーん……」

 歩きながらもまだ手に持っていた花を見せるバッツ。まだ少し躊躇う気持ちがあるのを、また笑われてしまうだろうか。

「んー、しょうがないな。都会っ子のティーダ君のためにお約束やっとくか」

「へ?」

 手に持つ躑躅の花を、先ほどやっていたように口元に持っていき、蜜を吸う。煙草ならかっこいいかもな、なんてぼんやり思っているとくいと顎を持ち上げられて、体が逃げるより先にはもう。

「っ」

 触れた唇。僅かに開いた隙間から尖らせた舌先が。

「、ふ」

 触れあった所からじわりと広がる甘さ。くすぐるように動いた舌先にぞくりと肌が粟立って。

「甘いだろ?」

 なんて、言うバッツが。

「ッ……!!!!!!」

「あいたーーーっ!!! ってちょ! 逃げんなってティーダぁぁぁ!!」

 めちゃくちゃ格好よかったとか、そんなこと。

(絶対言ってやらない!)

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