(うーわー……)
夕食後、見張り役以外の仲間はぽつぽつとテントへと戻り始めた頃。姿が見えないフリオニールを探してくると言い、少し離れた所にある林の奥に入ったティーダはそれを見てしまった。
「ん……っ」
(何かイケナイもの見ちゃったッス……)
離れているはずなのに、押し殺した吐息が妙にはっきりと耳に届いた。
しゃがんで茂みに隠れるティーダは知らず知らずのうちに息を潜め気配を殺す。ごくりと喉が上下してはっとする。
(ゴクっ! ってフリオかオレは!!)
自分でツッコミを入れるが目はフリオニールから引き剥がすことができない。
彼を探しに来たのだから連れ戻せばいい話なのだが、旅をしているとこういった時間はなかなか取れないし、邪魔をするのは気が引ける。
それに初心な所があるフリオニールが他人に自慰を見られたと知れば大いに恥ずかしがるだろう。たとえ相手が恋人であるティーダであっても。
(つーかオレというものがありながら一人でヌくとかどーいうことだよ)
声をかけてくれないのを不満に思いつつ、かといってテントには皆がいるのだからできなくて当然だ。
だから二人が事に及ぶ時は、本当に二人きりで探索している時か、コスモスの聖域近くにある本拠地であるコテージに戻った時くらいだった。
(そりゃあフェラは上手くないかもだけど手でしてやるくらい……)
「っ……」
吐息が聞こえて心臓が跳ねた。
このまま、何も見なかったことにして先にテントに戻るのが大人の対応なのだろうが、残念ながらティーダはそこまで大人ではなかった。
(なーんか……フリオがオナニーするって何となく意外っつーか……)
色事に関して一々大げさに反応する彼はよくバッツ達のからかいの標的にされている。恋人であるティーダにすらよくからかわれている。
そんなフリオニールがこうして自慰に耽るというのは初めて見る光景であり、ティーダにとって少し意外なものだった。
「……っふ……」
(あ……なんか……)
微かに宵闇に浮かび上がる横顔。快楽に歪められた表情に、体が熱くなる。
一度自覚してしまえば下腹部が疼く。じんじんと熱を帯び始めたそれに、ティーダはそっと手を伸ばした。
(……フリオが悪い)
本人が聞けば憤慨しそうなことを考えながらそれを軽く上下に擦る。
「っ……ん……」
声が漏れないようにと口元を覆う。
覗き見しながらなんて……と思う気持ちと、恋人の自慰を見ながらという背徳的な行為、ばれるかもしれないというスリルがせめぎ合う。
僅かに汗ばんだ肌。こんなに離れているのに、吐き出す息の熱さすら感じるような気がする。
(なに、考えて、んだろ)
はぁ、と息を吐き出す。
自分のことを考えていたらいい、と思う。
ベッドの上で、あの琥珀色の瞳で、快楽を共有しながらティーダを見つめている時のように。
「……ィーダ……」
「っ」
不意に名前を呼ばれて肩が跳ね上がる。
「……あ……」
気付けばその琥珀色の瞳は真直ぐにティーダのいる方向に向けられていて。
「いる、んだろう……そこに……」
息を弾ませながら声をかけられ、観念したようにティーダが茂みから顔を覗かせると困ったように笑う顔があった。
「覗き見とはいい趣味だな」
「うぐ……フリオこそ人のことほっといて一人でヌくとかなんだよ! 言ってくれれば手伝ってやんのに!」
「手伝……っ……お前な……」
「つーかいつ気付いてたんだよ!」
「割と最初から……」
「なんだとー!」
呆れたように笑う彼に手招きされて、申し訳程度に前を隠しながら歩み寄り、フリオニールの前に座る。
「オレだって恥ずかしかったんだぞ。どうしようか正直悩んでたんだが……お前がその……始めたからつい……な」
「何スか……最初から突撃してやればよかったッス」
拗ねたように唇を尖らせるティーダのそれにフリオニールが手を伸ばす。ぴくりと肩を震わせたがすぐに不敵に笑う。
「……手伝ってくれるんだろ?」
「……後悔すんなよ!」
向かい合い軽く唇を触れ合わせながら、二人はお互いのものに触れた。
「あれ、遅かったね。何かあったの?」
「はは……何でもないッス~……」
「…………」
戻ってきて少し疲れた様子の二人を、オニオンは不思議そうに見つめるのだった。