「もし、今日だ、って言ったらどうすんだお前」
二人きりでささやかなクリスマスの宴を開いている最中だった。
ローチが少し奮発して買った酒と小さなクッキーを携えてゴーストの部屋にやってきたのが三十分程前。
クリスマスなんぞやらなくていいというゴーストを、折角休みが重なったのだから!と強引に説き伏せて酒を開けたのが十分程前。
そもそも、夕食の時にTFメンバーでちょっとした飲み会をしたばかりだというのに。
呆れるゴーストを他所に、ほろ酔いで気分がいいらしいローチはよく喋り、そう、それはケーキの話をしている時だった。
「そういえば、日本のクリスマスは生クリームとイチゴのケーキが主流らしいですね~」
「へぇ、そうなのか」
「なんか、お祝い事は大体ケーキらしいですよ。誕生日もそういうケーキだって……あ、そうだ」
瞬間、嫌な予感がした。この日本のケーキ事情が真実かはさておき、この後輩の唐突な思いつきは大抵ろくなことじゃないのだ。
「先輩の誕生日っていつなんですか?」
ほら来た。そう思いながらため息をつく。何が楽しいのかゴーストには理解しがたかったが、ローチはやたらとゴーストのことを知りたがるのだ。
表には出さなくとも、こうして時々、会話の中に織り交ぜてくる。
面倒くさく思いながら、半ば自棄になってゴーストは答えたのだ。
「もし、今日だ、って言ったらどうすんだお前」
ローチは目をぱちくりと瞬かせたかと思うとガタンと勢いよく立ち上がった。
「今日なんですか!!」
「うるせぇクソローチ何時だと思ってんだ! それと『もし』って言っただろうが別に今日とは言ってねぇだろ!」
「痛いっ」
机の下で立ち上がったままのローチの足を蹴ると小さく悲鳴を上げながら座った。
「だって先輩が今日とか言うから……」
もごもごと文句を言いつつ、しかしローチはふむふむと一人頷く。
「そっかーそう言われると確かに、クリスマスとかイベントがある日と誕生日被ってる人って、いっぺんにパーティーやったりするんですかね~。 プレゼントも一回分で済まされたりするのかな。親とかの財布的には助かるんだろうけど……」
「ほらな。誕生日なんてそんなもんだ」
言いながら、ローチが用意した酒をまた煽る。奮発したというだけあってなかなかに美味である。
「でもオレ、もし先輩の誕生日がクリスマスと被ってたら、クリスマス前倒しでやって、先輩の誕生日をお祝いしますよ」
にへ、と笑って言うローチに面食らう。何故という問いが顔に出ていたのか、ローチは笑って答えた。
「先輩の誕生日のほうが大事ですから」