休憩中、ティーダ達がなにやら話し込んでいるのに気付く。
近付いていくとティーダもこちらに気付いた。あの太陽のような眩しい笑顔を向けて。
「クラウド!クラウドも参加しないッスかー?」
「何だ?」
「ティーダがね、この戦いが……ううん、皆が元いた世界の事も全部終わったら、何がしたいのかって。僕は国を建て直すことかな」
くすりと柔和な笑みを浮かべてセシルが言った。元の世界の事は皆薄っすらとしか覚えてはいないが、それでもやるべき事は覚えているのだろう。
「俺は……平和な世界を作って、仲間と旅をしてみたいな」
可憐な花が咲く野を野蛮に踏み荒らされないような、平和な世界で。それは戦争の世界で生きてきた彼の夢。
「クラウドは?何かないんスか?」
「俺は……」
興味津々と聞いてくるが返答に困った。俺の目的は、あの男を倒すこと。その先の事は、考えたことがなかった。
「そういうティーダはどうなんだ?」
無意識なのか見かねたのか、助け舟を出してくれたフリオニールに内心感謝する。と同時にティーダの返答にも、興味はあった。
「ん……実は何も考えてないッス!」
しかしその返答は意外なものだった。他の二人も同様に思ったらしく、驚いている。
「意外だね……ティーダのことだからあれもこれも!って言うかと思ってた」
「あぁ、ティーダは欲張りだからな」
「何なんすか二人ともー!!」
だから聞いてたのにー!と憤慨するティーダ。先へ先へと進もうとするティーダがまだ未来の事を考えてないというのは意外だったが、 自分と一緒なのだと思うと少し嬉しかった。
「つーわけで!話をクラウドに戻すッス!」
しまった、話を戻された……。しかし自分の返答を棚に上げて俺に聞くのはどうなんだ。
「俺も……まだ何も考えていない。今やるべき事しか、考えたことがなかったからな」
「なーんも無いんスか?別に、国を建て直すーとかすっごい事じゃなくて、好きなことたくさんしたいとかー」
「好きなこと……か……」
あえて言うならバイクだろうか。でも。
「すまないティーダ、思いつかない」
仲間を、大切な人を死なせてしまった自分は、平和になった世界で、笑って暮らせるのだろうか。そんなことが許されるのだろうか。
「そっすか……うーん」
うんうんと唸るティーダに3人で顔を見合わせる。彼にとって、未来を想像するのは容易のように思えるのに。
「あーっ、思いついた!」
突然大声を出して顔を上げるティーダ。何事かと思えば俺のほうを見て笑顔でこう言ったのだった。
「クラウド、なんでも屋をやればいいッスよ!」
『クラウド、俺たちはなんでも屋をするんだ』
「……っ」
「なんでも屋?」
「そうッス!やりたいことがないなら、なんでも屋としていろんな依頼をこなしてさ!そしたら、自分のやりたい事見つかるかもしんないだろ?」
「なるほど……ふふ、ティーダらしいな」
「どういう意味ッスか!」
「……クラウド?どうした?」
フリオニールに呼ばれ、我に帰る。顔に出てしまっていたのだろうか。なんでもない、と首を横に振る。
「……昔、同じような事を言われたことがあるんだ……トモダチ、から」
「へぇ、そうだったのか」
ふとティーダの方を見ると、先程までの元気な様子とはうって変わり、少しだけ悲しそうな顔をしていて。
「……ティーダ?」
「ん?何スかクラウド」
しかし声をかければ、見間違いだったのかと思う程その表情は一瞬で笑顔に戻った。
「……いや、何でも……ない」
「クラウド」
「ティーダか……どうした?」
休憩中にティーダがひょこひょことやってきて隣に座る。人懐っこく明るいその性格は、先程の言葉もあり『彼』を思い出させる。
「なんでも屋、する?」
「……さっきの続きか?」
「うん、クラウドがなんでも屋するんならさ、俺もしたいかなって思って」
へへ、と笑うティーダはいつもの元気な様子ではなく、どこか……今にも消えてしまいそうな雰囲気を持っていて。
「元の世界の仲間と一緒に、暮らさないのか」
「……ん、それもいいけど……」
今度は急に立ち上がる。落ち着かない奴だ、と苦笑するとティーダは空を見上げた。
「クラウド、放っておいたらなーんにもしなさそうだから!どうせなら俺も一緒になんでも屋やって、やりたい事見つけるのもいいかもって思っただけ!」
何か失礼な事を言ってないか。けれど、そうだな……
「……それもいいかもな」
「だろー?」
「だがどうやってこっちの世界に来るつもりだ?」
「そりゃーアレっすよ、無限の可能性?」
ティーダらしい答えに表情が緩む。自分で言っておいて恥ずかしかったのか、少し顔を赤くさせたがつられたように笑った。
「な、いいだろクラウド」
「あぁ……来れるものなら来てみろ」
再び横にしゃがんだティーダの頭をくしゃくしゃと撫でる。
(なんでも屋……か……)
『クラウド、俺達はなんでも屋をするんだ』
『トモダチ、だろ』
最初は、フリオニールを見て思い出した。夢を語るところとか、背の高さも多分あのくらいだったから。けれど。
「似てる……な……」
「え?」
「お前は……トモダチに……似ている」
「………………」
何が起きたか分からなかった。
じんと痛む手は先程までティーダの頭を撫でていた手だ。
「……クラウドも……かよ……」
俯き震えるその肩に手を伸ばすことができない。触れることを許さない、と言われたように。
「クラウドも……俺を……重ねるのかよ……ッ」
「ティー……」
「ザナルカンドの皆も……ッ……ユウナも……ワッカもルールーも!」
ティーダの口から出てくる知らない人達の名前。俺はただ聞いている。聞いていることしか、できない。
「俺はジェクトじゃない……!俺はワッカの弟でもルールーの恋人でもない……ッ!」
『俺は”ティーダ”なのに』
零れる涙をぬぐうことも、きっと俺には許されないのだろう。それでも、手を伸ばさずにはいられなかった。
「違う、ティーダ」
「触、んなっ……きらいだっ……」
「それでもいい、聞いてくれ、ティーダ……」
どん、と胸を強く叩かれたが、構わず抱きしめる。震える体をなだめるように、背中を撫でた。
「……お前を代わりにしようなんて、思っていない……お前が言った人たちもきっと、そうだ」
胸を叩いていたはずの手は、縋りつくように服を握り締めていた。体はまだ震えていた。
「ただ人は……思い出に縋ってしまう、弱い生き物だから……」
涙は未だ服を濡らしていたけれど、体の震えは治まり、静かな嗚咽だけが聞こえる。
「分かって……るんだ……」
掠れた声で呟かれた言葉。腕の中で大人しくしているティーダの頭を撫でながら、言葉の続きを待った。
「代わりなんか、俺にはできなかった……だけど俺は『夢』だから……きっと、皆が望んだカタチに近くなっただけ……こんな人がいればいいっていう、夢」
ティーダの言葉は殆ど独り言のようなもので、俺にはよく理解できなかった。それでも聞き逃すまいと。まるで今にも消えてしまいそうな体を抱きしめる力を強くした。
「……ごめんな、クラウド」
「いや……俺のほうこそ、すまなかった」
俺の言葉にティーダは小さく首を振る。そして、少しだけ顔を上げ、笑った。
「今度、聞かせて欲しいッス。トモダチの、話」
「……あぁ」
きっと、話そう。
似ているけれど、ちゃんと違う事を。代わりなんかじゃない。俺は”ティーダ”という人間が好きなのだという事を。
(代わりになれなくてごめんなさい)
――――――
ティーダはザナルカンドでオヤジの影を重ねられて、スピラではワッカに弟の影を重ねられ。
なのでこういう所に敏感かもと思ったり。
ユウナとルールー姉さんは違いますが、でもやっぱり出しておきたかったので……
もちろん、物語中でワッカもチャップの事はきちんとケリつけたというか弟の死を受け入れたし、 ティーダもオヤジと自分が似ている事を認めて、それでもオヤジとは違うんだと理解したみたいなことがアルティマニアに 書いてありましたが、でもやっぱりちょっとトラウマなんじゃないかと思ったり……
ザックスとティーダって似てませんかという話。
あと夢の話。ティーダは『夢を終わらせる夢』として祈り子達が願った存在かもしれない。とまたしてもアルティマニアに(ry
チャップに似てなかったら、ひょっとしたらあそこまでワッカは世話してくれなかったかもしれないし……
夢、だから、その人が望む存在に少し近付いたりとか、そんな事があるかもしれないじゃないですかうわあもうまとまらない^p^