親父と息子と彼氏。

長く、死闘が続けられていた。

「はぁッ!!」
「オラァ!」

 クラウドの大剣が振り下ろされ、ジェクトがそれを弾き返す。
 体勢を崩した所に追い討ちをかけようとパワーを溜め突進するが、なんとか持ち直したクラウドもその攻撃をかわした。
 互いに着地しにらみ合う。ビリビリと空気が震える程の気迫に満ちた二人が跳躍した。

「息子さんを俺に下さああぁぁぁい!!!」

(ブレイバー)

「誰がやるかこのチョコボ頭あぁぁぁぁ!!!」

(真・ジェクトシュート)

 ――ことの始まりは数日前。

「痛ぇ~……!」
「おいおい大丈夫かァがきんちょ」
「うっさい! こんくらい平気だっつーの!」

 いつものように対戦していたジェクトとティーダ。と言っても、最初は普通に話していただけだ。何がきっかけだったのか言い合いになり、 そのままバトルに突入してしまうのはこの親子にはよくある事だった。

「それにしてもオメェ今日は調子よくなかったのか? 動きにキレがなかったぜ」
「んん、疲れてんのかなぁ……昨日ちょっと……あ」
「あん?」
「な、なんでもないッス!」

 急に顔を赤らめてそっぽを向いたティーダに何やら嫌な予感を覚えつつ、ジェクトがわしゃわしゃと頭を撫でた。
「ははっ、なんだぁ、お盛んな彼氏でも出来たってか?」
「な、何で知ってんだよ! 俺まだ言ってないだろ!」

 ――ぴたりとジェクトの笑いが止まる。急に黙り込んでしまったジェクトをティーダが心配げに見ていると、乱暴に頭を撫でていた手が肩を掴み物凄い剣幕で怒鳴った。

「何だとコラァ! 誰だうちのガキをキズモノにしやがったのは! のばらとか言う童貞か!? ゴルベーザのえらい別嬪な弟か!? ……はっ、まさかセフィロスに食われちまったのか!?」
「いででっいきなり何だよ! く、クラウドだって! オヤジも知ってんだろ!? 今度ちゃんと言おうと思ってたのに!」

 負けじと言い返すティーダだが、顔は赤いままだ。さらに相手がクラウドという事を聞きジェクトの怒りも頂点に達する。

「クラウドだぁ!? あんなムッツリチョコボ頭なんかにオメェをやれるか! 別れろ!」 「ふざけんなっての! 何で別れろって話になるんだよ!」
「うるせぇ! とにかく俺は認めねぇからな!」
「……ッ馬鹿オヤジ! だいっきらいだ!」

 先ほどの戦いで受けた傷のことも忘れ、ティーダはその場から走り去った。
 残されたジェクトはメラメラとクラウドに敵対心を燃やしていた。可愛い息子を、どこの馬の骨とも知れない男に渡すわけにはいかないのだ。

「……そうか、そんな事が……」
「う~……クラウドー……」

 秩序の館の庭で素振りをしていたクラウドにティーダが飛びついたのはその数分後。
 抱きついたまま事情を話すティーダをよしよしと宥めながら、困ったな、と苦笑する。
 本当はティーダと二人で会いに行って挨拶でもしようと思っていたのだが、そう上手くはいかないらしい。
 もともと簡単に承諾してもらえるとは思っていなかったが、更にハードルが上がってしまったようだ。

「大丈夫だティーダ……ちゃんと認めてもらえるように俺も……」
「クラウド……」

 ティーダの顎をくいと上げて、安心させるようにキスをしようとしたとき。

「っ」
「うあっ!」
 物凄い殺気を感じて咄嗟にティーダを抱いて伏せた。直後に鈍い音が聞こえ顔をあげると、ブリッツボールが前の木にめり込み煙を上げていた。
 あのままの体勢だったら怪我どころではなかっただろう。

「あ……あのくそオヤジぃ……!」
 ティーダは憤慨していたが、ボールに何か文字のようなものが書いてあるのに気付き、クラウドが立ち上がり近付く。
 流石に爆発はしないだろうと思いながらも慎重に手に取りそれを見た。

「? 何か書いてあるんスか?」
「……ただのサイン入りボールだ」
「……ぶっ……オヤジ馬鹿だろ……」

 くすくすと笑うティーダの手を引いて立ち上がらせる。けれどボールは見せない。見せるわけにはいかない。きっと反対されるし、心配させてしまうだろう。

 ボールには、ジェクトのサインと――挑戦状が書かれていた。

――――――

 ――そして現在に至る。
 一進一退を繰り返し、両者一歩も譲らない。彼らにとっては、それだけ真剣な戦いだった。

「うおッ! ッ……オメェみてーなひよっこにうちのガキは任せられねぇなぁ!!」
「くっ……! ひよっこかどうか……その目で確かめろ! アンタこそいい加減子離れしたらどうなん、だっ!」
「はっ! そのナリじゃあ夜の方も満足させられねぇだろ。 よくみりゃ背もアイツより小せぇじゃねぇか」
「……夜の方は問題ないんでお構いなく」
「てんめぇぇぇぇぇ!!!!」

 ぽっと顔を赤らめたクラウドにジェクトが切れる。だんだんと言葉の応酬が妙な方向へと行き始めているが止めるものは誰もいない。むしろ止めに入れば命はない。
 しかしそんな戦いも、徐々にではあるがクラウドが押され始めていた。大剣を操るクラウドもかなりの力があるが、それでもやはりジェクトの豪腕には及ばない。
 僅かな隙にジェクトが拳を叩き込もうとした瞬間、横から飛んできたボールがジェクトの頭を打った。
「ぐあーっ!!」
「なっ!? うっ!」
「二人共ぉー!!」
 跳ね返ったボールもまた勢いをつけて戻ってきて、今度はクラウドの体にあたる。
 ボールに弾き飛ばされてしまった二人の視界に、ブリッツボールと、オーバーヘッドキックの構えをしたティーダが映った。
「止めるッスーーー!!!」

 ティーダが渾身の力を振り絞って放ったシュートが二人に直撃し、辺りが白く染まった。

――――――

「クラウドもっ……オヤジも! 何やってんだよ馬鹿!」
「いや、オメェの止め方も無茶苦茶だけどな」
「……いつも思うんだがあのボールはどうやって爆発しているんだ?」
「気合ッス! ……って、んな事はどーでもいいッス!」

 傷の手当をしながら文句を言うティーダと、大人しく治療を受けている二人。
 ティーダが乱入した為決着はついていないままだが、流石に涙ぐんだティーダに止めろと言われればその願いを聞かざるをえない。互いに、ティーダを泣かせたくないという意見は合致しているようだった。
 とは言えジェクトはまだクラウドを認めていないし、クラウドも諦めていない。お互い再戦の機会をどう作ろうかと黙々と考えていた。

「ジェクト……ここにいたか。そろそろ戻るぞ」
「おぅ、ゴルベーザ。……でもよう、俺ぁこのまま引き下がれねーぜ」
「……奇遇だな、俺もそうだ」
「止めろって言ってんだろー!」
「その怪我でこれ以上どう戦うつもりだお主らは……」
「いでででっ」
「ッ……」

 また戦いを始めようとする二人をティーダとゴルベーザが止める。ただでさえ先の戦闘で傷ついていたのにティーダの攻撃も受けた今の状態ではろくな戦いにならないことは目に見えていた。
 渋々と言った様子で互いに身を引く。随分と日も暮れていたので、ゴルベーザの提案でティーダとクラウドは混沌の館に泊まることになった。
 館につくなりジェクトは酒を飲み始め、他のカオス勢に説明を終えたゴルベーザが捕まっていた。
 宛がわれた部屋でクラウドの傷の治療を終えると、ティーダは二人の元へやってきた。クラウドだけに任せるわけにもいかない。自分も説得しなければきっとジェクトは認めないだろうから。

「なぁオヤジ……」
「………………」
「……? オヤジ……?」
「………………」

 呼びかけても返事がない。聞こえないという距離でもないのに、ジェクトは酒を飲み続ける。
「……なぁって! こっち向け馬鹿オヤジ!」
 その態度に苛立って僅かに声を荒げるとようやく返事をした。けれど、ティーダの方は見ないまま。
「んだようるせぇな……俺様は今機嫌が悪ぃんだ。あのチョコボと遊んでりゃいいだろ」
「っ……あぁそうかよっ。じゃあそうしますよーだ!」

 乱暴にドアを閉めて出て行ったティーダを見送りながら、ジェクトの隣に座ったゴルベーザがため息をついた。

(くそくそっ、馬鹿オヤジっ!)
 心の中で悪態をつきながらジェクト達のいる部屋を後にしようとしたティーダだったが、ふと先ほどの言葉を思い出して足が止まる。
 あれだけ反対していたくせに、なぜクラウドと遊んでいろなどとジェクトは言ったのだろう。ジェクトのことだからきっと、二人きりになるなだとか一緒の部屋にいるなだとか言いそうなものなのに。
 そこに妙な違和感を覚え、ジェクトの元に戻ってみようかと迷っていると、扉の向こうの声が聞こえた。

「……お主が落ち込むのも、珍しいな。それとも酔っているのか?」
「うっせぇよ……悪ぃか」
「まぁ……気持ちは分からんでもない。だが少しくらい認めてやってもよいのではないか?」
「……ゴルベーザよう。俺はこの世界にカンシャしてんだよ」
「………………」
「アイツがガキの頃は何やっても上手くいかねぇで……嫌われてばっかだった。アーロンに頼みはしたが、寂しい思いも、させちまった」
「……あぁ」
「そんで、久々に会ったってろくに話せねぇまんま、戦わなきゃならなかった。でもこの世界に来て……こう、何つーんだ」
「………………」
「……やっと普通のオヤコ……らしくなってきたってのに…………なんか、取られちまうみたいじゃねぇか」

 ティーダはそっとその場を離れた。あれ以上あそこにいたら、何だか泣いてしまいそうだったから。
 机に突っ伏したままの、拗ねた子供のようなジェクトにゴルベーザが苦笑した。
「……子供の頃のティーダも、今のお前と同じような心境だったのではないか?」
「………………ションベン行ってくらぁ」

――――――

「……ただいま……っす」
「あぁ、おかえりティーダ、……どうした?」
「ん………………」

 ベッドの端に腰掛けていたクラウドの横にティーダが座る。きしりとスプリングが鳴って、肩に頭を預けてきた。
「………………オヤジのばーか」
「……いきなり何だ」
「別に……会う時間が減るわけでもないのに……」
「………………」

 薄らとではあるが、何があったか察したクラウドがティーダの肩に手をまわして抱き寄せる。ほぅ、と安心したようにティーダが息をついた。
 彼ら親子の事情が特殊だということは、会話の端々から察することができた。深くは分からないけれど、何だかんだ言ってお互いを大切に思っていることも。

「オレ……オヤジとクラウドにも仲良くしてほしいッス……」
「俺もそうしたいさ……ティーダ……明日は、戦わずに話し合おうと思う……一緒に来てくれるか」

 そう言うとティーダは驚いたあと、嬉しそうに頷いた。
「俺は、反対されても、戦いに負けても、簡単にお前を諦めるつもりはないからな……」 「……おうっ! オレだって諦めないッス!」

 力強く笑ったティーダに軽くキスをすると、二人でべッドに転がった。

「………………」
 壁に背を預けたまま、ジェクトは天井をぼんやりと眺める。娘を嫁にやるときもこんな感じなのかねぇ、と胸中でぼやきながら、ゆっくりとその場を後にした。

――――――

「いいか、俺様はオメェを認めたわけじゃねぇからな。泣かせたらブッ飛ばす! そんで即行で別れさせるからな!」
 次の日、あっさりと二人の交際を認めたジェクトに呆気にとられる二人だったが、仮とは言え承諾を得られて喜ぶ。ジェクトもティーダの喜びようを見ながら、一抹の寂しさを覚えると同時に、 二人の幸せを願ってやってもいいか、と思えるようになっていた。

――が。

「クラウドー大好きッス!」(ちゅ)
「……やっぱ許さねえぇぇぇぇ!!」

 父と彼氏の戦いはまだまだ終わりそうにない。

――――――

あとがき。

ギャグと見せかけてシリアスと見せかけてやっぱりギャグ。平和なディシディア世界は色々とおいしいです。
ギャグと言うほどギャグじゃないかもです申し訳ありませんorz
ネタの泉にて頂いた『息子の彼氏(クラウド)を認めない父親となんとしてもティーダを嫁に欲しい彼氏(クラウド)』を書かせていただきました。ルーティ萌えの方、ありがとうございました~v
オヤジがナチュラルに「彼氏できたんじゃねーの」って言ってますがアレです。BLはファンタジーなのでお許しくださ……あとギャグということで。
息子大好きオヤジとオヤジ大好き息子が可愛くてしゃーないです。表には出さないけど本当は大好きなんですよきっと。
そしてクラウドさんもティーダ大好き!ちょっとやそっとじゃめげません。この調子ならオヤジのお許しをもらえそうな気がします。
でもやっぱりどうしても認めたくないオヤジ……拗ねてるオヤジがかけたのでとても満足ですv
最後まで読んでくださりありがとうございました!

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