Salty

「あ゙あ゙あ゙あ゙っ……ぢぃーーー」
 ソファでごろごろしながらティーダが唸る。外は日差しが強く、夏真っ盛り。暑くて当然である。といっても今は九月なのだが、この日はうだるような暑い日になっていた。
「こら、まだ途中だろ」
「クーラー壊れてるなんて聞いてなーい!」
「俺だって暑い……というか、お前の家でやればいいんじゃないのか」
「オヤジが邪魔しにくるから駄目ッス!」
 ぬるい空気をかき混ぜるだけの扇風機が、宿題のために開かれた教科書やノートをはらはらと煽る。
 ブリッツの大会も終わり、晴れて恋人となった幼馴染と、夏休みを目一杯満喫した。初体験もしたし、互いにさらに想いを寄せ合うようになった。
 今週の休みもまた、二人で遊ぶ予定であったが、まずは宿題を終わらせなければ後で泣くのはティーダだ。
 心置きなく遊ぶために、スコールは心を鬼にして宿題を進めさせる。――のだが。
「これと、あと数学が少し残っているだけだろう。終わったらアイス出してやるから、ティーダ」
「ぃやった! スコール大好き!」
 こうしてつい甘やかしてしまうのは幼馴染ゆえの情か、恋人ゆえの甘さか。暑いと呻いていたにも関わらず、アイスと聞いた途端飛び起きて抱きつくティーダに苦笑が漏れる。全身じっとりと汗ばんでいるけれど、こうして好きな人と抱き合うのは心地いい。
「がんばるッスよー!」
 宿題に向き直り気合を入れるティーダを確認すると、スコールは空いたグラスとペットボトルを持って部屋を出た。

 ティーダは集中力がある。一度スイッチが入れば終わるまでしっかりと続けられる。下手に邪魔をするとそこで集中が途切れてしまうのは、幼い頃からの付き合いであるスコールにはよく分かっていることだった。
 やり方さえ上手くできれば学年上位も狙えるだろうとスコールは思っているが、ティーダにとっては勉学よりもブリッツが大事なためそこは強く言わない。テストの時はもちろん付きっ切りで教えるのだけど。

 しばらく時間を潰し、頃合を見計らってアイスを持って部屋に向かう。と、丁度「終わったー!」という喜びの声があがっている所で、我ながらいいタイミングだと頬が緩んだ。
「あ、スコール! 終わったッスよー! アイスー!」
「頑張ったな。ほら」
「わーい!!」
 ミルク味の棒アイスを袋から取り出して嬉しそうにぱくりと銜える。
 スコールも自分用にとレモン味のアイスを食べ始める。部屋は相変わらず暑いけれど、冷たい感触が体の内側に染みていくのがなんとも心地よい。
 少し小さめのアイスだったのか早々に食べ終わってしまったスコールは、隣のティーダを何気なく眺めた。
「アイス冷たーうまー」
 冷たい感触と味を味わいつくすかのように、かじらずに口の奥まで銜えては口を窄めて出し入れしている。ミルク味のアイスのため口の周りは薄っすらと白くなっていて、なんというか。
「…………」
「ん? ふほーふほはへはい?」
「……そうだな」
 僅かに考える素振りをするとティーダは返事を待って動きを止める。すると、じわりと溶けたアイスが肌の上に落ちる。
「ひゃっ」
 胸元に落ちた冷たさにティーダが身を震わせる。慌ててアイスから垂れそうになっていた他の雫を舐めとり、早く食べてしまおうと先端から齧り始める。
「ん、溶けるから食べちゃうッスよ」
「……あぁ、俺はこっちでいい」
「へ? っうわ! わわッ」
 ティーダの胸元に垂れたアイスの雫をぺろりと舐め取ると色気のない叫びがあがる。冷たさはないが、甘いミルク味と、肌に滲んだ汗の塩味が混ざり合う。
「……成る程、塩スイーツというやつか」
「何納得してんだっつの! つーか違うからそれ、塩スイーツ違うから! ッわわわわ、や、やめろって!」
 突然のことに食べることも忘れていたのか、手に持ったままだったアイスから次々と雫が落ちて腕を伝う。その伝い落ちた雫をスコールが舐めとる。
「すこーるっ……あ、アイス、溶ける、から……ッ」
 ざらついた舌で、皮膚の薄い腕の内側を撫でる。ぐっと力をこめて刺激してみたり、唾液の滑りでぬるぬると刺激したり。
「……ッ……ぅ……」
 ふるりと震えた手は今にも棒を落としてしまいそうだ。アイスが溶けて落ちるのが先か、ティーダが棒ごと落とすのが先か。にやりと笑いながらスコールは腕を何度も甘噛みした。
「ん、ッ……く……ぅ……」
 きゅう、と足の指を丸めて太腿をもじつかせているのに、ティーダ自身気付いているのだろうか。
 溶けて幾分か小さくなり、滑り落ちそうになっていたアイスをスコールがぱくりと食べてしまうと、アイスの棒をゴミ箱に放り込んでティーダを押し倒した。
「ちょっ……ま、待てってスコール! ここでって!」
「嫌か?」
 まだアイスの雫が残る手の平をぺろりと舐めるとティーダの体がふるりと震えた。もう体はすっかりその気になっているはずのティーダもまだ僅かに抵抗を見せる。
「せめて風呂! 風呂入ってからに……汗かいてるし!」
「……わかった。水風呂だな」
「うん……うん?」
 体を抱き上げられたティーダは違和感を感じて首を傾げる。水風呂。冷たいし気持ちいいだろう。上せる心配もない。
「…………って長居する気満々じゃないッスかあああああ!!」
「問題あるのか?」
「大有りだろ! 誰かー! 誰かー! 獅子がはつじょーきッス! 助けて!」
「誰が発情期だ。……それに、我慢しすぎるなと言ったのはお前だ」
「もーー!!」
 今日はスコールの姉も両親も不在である。ティーダの両親も昔からの付き合いもあって、スコールの家に泊まる時は特に連絡を入れなくても問題ない。スコールにとってはとても都合のいい日だった。
「うう……最近スコールがさらにエロくなってきたッス……」
(まぁ……本当は前からこんな感じなんだけどな)

 半ば諦め気味で、大人しく運ばれながらティーダはスコールの汗ばんだ体に腕を回した。
(まぁ……そんなとこも好きなんスけどね……)

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