Let’s Communication!

「うおりゃあああ!!」
 ティーダが声を上げながら敵に思い切りボールを投げつける。
 ガードが崩れひるんだ隙にスコールが一気に距離を詰め切り伏せた。
「ナイス!」
 笑って拳を向けてくるので、スコールは少し顔をそらしてコツンと拳をぶつけた。
「スコール照れてやんのー」
「照れてない」
「ティーダ! 今度はオレとタッグしよーぜ! 空中コンボ決めんぞ!」
「りょーかいッス!」
「……」
「スコール、今度は妬いてるのか! いそがしいな!」
「うるさいバッツ」
「ひど!」

 じゃれあうジタンとティーダをちらりと盗み見ながら次のエリアに進もうとスコールが一歩踏み出した時、ジタンがスコールの方へと視線を向けた。
「……!」
 目が合うと時短はにやりと笑って舌を出した。挑発しているのだろうか。あるいは、ジタン達はスコールがティーダに対して抱いている気持ちに気付いてるから、からかっているのかもしれない。
 どちらにせよスコールにとって面白いことではない。
「おいジタン」
「お、あそこ見てみろティーダ! 道が分かれてるぞー、二手に分かれるか?」
 声をかけようとした所にバッツが割り込んでくる。どころかティーダに飛びついて体を密着させて。
「ま、全員で片方ずつ行ってもいいし……ティーダが決めていいぜ? 分かれるなら誰と行きたい?」
 尻尾をゆらしてジタンがティーダの顔を覗き込む。バッツもにこにこ笑いながら「どーする?」なんて訊ねて。心の中では「おれと行こう!」と叫んでいるのが丸分かりだ。
 ティーダは……

「え? そうだなー……んー……ってうわあっ! スコール!?」
「行くぞ」

 ティーダの答えなど知ったことかと腕を掴んで歩き出す。――本当は、自分が選ばれなかったらと考えるのが嫌で、答えを聞く前に体が動いてしまっただけなのだが。
「あー! ずりーぞスコール!」
「そーだそーだ!」
 ブーイングの嵐を無視して足を進める。腕を引かれるままバッツ達とスコールを交互に見ていたティーダはふと笑うと、スコールの隣に並んで後ろを振り返った。
「ごめーん、オレ、スコールと一緒に行く! 後でな!」
 勝った方はデザート総取り! なんて勝手なことを言っているが――そもそも何の勝敗なのか知らないが――スコールにとっては然程重要な問題ではなかった。
 ――と言うよりも、彼は今それどころではなかった。

(どうするどうするどうするどうす)
 ティーダが自分以外を選ぶのが嫌だと。思うだけならまだしも、気付けば強引にティーダを連れて来てしまった。
(この後どうすればいい何を話せば)
 今更引き返すわけにもいかず、せっかく二人になれたのだからとにかく何か話さなければと必死に頭を働かせているとくいくいと手を引かれ、

(……手?)
「えっとさ、スコール、まだ離れないほうがいい……?」
「…………!?」
 そう、まだスコールはティーダの手を掴んだままだった。咄嗟のことだったとは言え今までずっと手を握ったまま歩いていた事実に顔が熱くなるのを感じる。
「わ……悪かった」
「あ、別に嫌なわけじゃないからな!」
 なるべく自然に離れようと慎重に動いたのに、ティーダは何を勘違いしたのか逆にぎゅうっと手を握ってきてスコールの頭は爆発寸前だ。
 暴れる心臓とこめかみを伝う汗が、今どれだけ動揺しているかということを嫌でもスコールに伝えてくる。
 息を詰めたまま動けないスコールにティーダははっとすると、少ししょんぼりとした様子で申し訳なさそうに笑った。
「ごめんごめん、スコールはこいうの苦手だよな」
「っ……違う」
「わっ」
 離れていこうとした手を反射的に強く握ってまた心の中だけで悶絶する。

(だから何をやっているんだ俺は……!)

「……嫌なわけじゃない。勘違いするな」
「あ……うん、ごめん」
 嫌じゃないといわれてティーダは嬉しそうに表情を緩ませた。そんなティーダが間近にいるものだからスコールはもう気が気ではない。
「まあ……これじゃ戦えないから、離すぞ」
「ああそっか。残念ッスー」
 ぱっと離れる体温を惜しいと思うのはスコールもだが、そんなことを言っていては調査が進まない。
 なんとかいつもの空気に戻しつつ二人で先へ進む。幸いなことに敵は少なく、いくつか有益なアイテムも手に入れた。
 順調に進みこの歪の出口も近くなっている。基本的に歪の出口は一つなので上手くいけばバッツ達と合流できるはずだ。
 イミテーションを倒した後の残骸からライズしたものを確認していると、ティーダが嬉しそうに笑うものだから、なんだと首をかしげた。
「へへ、さっきはびっくりしたけど、スコールと二人で調査って初めてだからさ。しかもスコールの方から誘ってくれたし!」
 別に誘ったわけではなくむしろ強引に連れて来てしまったのだが、ティーダにとっては然程問題ではないらしい。
 大して気の利いた返事もできないのがもどかしい。それでもティーダは構わず話を続けてくれる。
 バッツ達もだが、おしゃべりではないスコールのことを理解しているし、無理に気を遣うこともないので居心地はいい。
 だが今のスコールはティーダへの想いを自覚しつつあり、もっと話したいという気持ちが強い。気ばかりが急いて上手く言葉が出てこないのは、今まで人とのコミュニケーションを積極的にしてこなかったツケだろうかと頭を抱えたくなる。

「オレ、あの時スコールと行こうかなって思ってたからさ! すっげぇ嬉しいんだ」
 そんな絶賛頭ぐるぐる中のスコールにとどめの一言。ぼっと火が着いたように体が、顔が熱くなるのを誤魔化すように少し足を速めた。
(嬉しい……)
 そう、嬉しい。スコールは今とてつもなく嬉しい。
 ティーダと話す機会は増えたものの、先程言っていたように二人で調査をするのは初めてであるし、何より自分を選ぼうとしてくれていたという事実が。

(……俺もストレートに伝えればいいんだろうか)

 それが出来れば苦労はしないのだが、やはり少し、気恥ずかしさや照れもある。
 けれど、『言いたい事は言え』とこの前ティーダに言われたばかりだ。
 (たまには……)
 タイミングを逃しただとか、小さなことを気にしていては何も出来ない。言わなければ伝わらないのだ。
「ティーダ」
 スコールから話しかけるのが珍しいからか、嬉しそうに振り返ったティーダがふとバランスを崩した。

「れ?」
「おい!」
 トラップが発動し、先にあったはずの床が消え去り、闇が大口を開けてよろけたティーダを飲み込もうとする。
 すぐに腕を掴んで体を強く引き寄せた。咄嗟のことで勢いを受け止めきれずに二人で後ろに倒れこむ。

「ってて……うわっ、スコール大丈」
 ティーダは自分を受け止めて下敷きになったスコールから慌てて体を起そうとすると、スコールの腕がそれを制した。
 再び引き寄せられた上に抱きしめられてティーダから変な声があがる。
「スコール……?」
 この時のスコールには倒れた時の痛みだとかトラップを回避できたことなど頭になく、ただ言葉を伝えることしか考えていなかった。

『想いを伝えられるのは言葉だけじゃないよ』

 その言葉を聞いたのは元の世界でのことだったのか、この世界でのことだったのか思い出せないけれど。

「嬉しい」
「へっ!?」
「俺もお前と一緒に来れて、嬉しい……」
 表情に出すのはティーダほど得意ではないから、ぎゅうと体を抱きしめる。この嬉しいという気持ちが、少しでも伝わればいいのに。
 トラップを回避して二人で倒れたままそんな事を言っているなんて、傍からみたら変な光景ではあるのだろうが。
「っ……あははっ、今言うのかよソレ! いや、うん、オレも! すっげー嬉しいッスー!」
 くすくすと笑いながらティーダもスコールを抱きしめ返してくる。
(……ちゃんと伝えるのも……いいかもな)
 腕の中にある温もりを感じながら、スコールはほんの少しだけ抱きしめる力を強くした。

――――――

(うっわーー突撃したい! あれ突撃したいなジタン!)
(ばっか空気読め二十歳児! まあ後で話のネタにはするけどな!)

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