男に可愛いというのは、失礼なことなのだろうとは分かっている
それでも、可愛い弟分はやはり可愛いのだ。
「あーつっかれたー!」
テントを張り終えるなり中に飛び込んで足をばたばたさせるティーダは、確かに今日一番動いていた。
ブリッツボールでの攻撃があるものの、やはり近距離戦メインとなるティーダは、その軽い身のこなしもあって前衛になり敵を撹乱することが多い。
スピードを活かした動きはその分疲労もたまるわけで、くすりと笑いながらしゃがむとその無防備な足を握った。
「わっ! 何セシ……いでででっ!」
「疲れに効くマッサージだよ、大人しくしててね」
「うっ……嬉しいけどっ……! あっ、でも痛いけど気持ちい……いたい!」
ふおおおお、と痛気持ちよさにぷるぷると震えているティーダを、食事の用意をしているフリオニールが苦笑しながら見ている。
「ティーダは今日も頑張ったからね」
「……でもスコールには『無駄な動きが多い』って言われたッス」
顔は見えないけれど、恐らく口を尖らせているのだろう。拗ねた様子がまた可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「ティーダ自身だって自分の成長は感じているだろう? スコールだって助言したかっただけだよ。口下手なだけでね」
昔の、出会ったばかりのスコールだったら一々そんな事言わず無視を決め込んでいただろう。ティーダもそれは分かっているのか、皆に追いつかない自分の技量に唸りながらも頷いた。
――スコールと言えば、以前同じチームになった時に。
『あんた達はあいつを甘やかしすぎだ』
――なんて言われたことがある。
他の二人はどうか分からないけれど、少なくとも自分はその自覚がある。自覚があって、それでいてティーダには甘い。
弟のように自分達を慕い懐いてくれるのも、不安を抱えていても笑顔を忘れずに周囲を鼓舞するところも、それでも時には泣いてしまうところも、父親に関わることだとちょっと短気なところも。
挙げだしたらきりがないのだが、とにかくティーダという少年の青臭いほどのその姿勢が眩しくて、その明るさが愛しくて、大切なのだ。
要は、彼を可愛がりたくて仕方ないのだ。
「そういえば今日はティーダと僕が見張りだったね。よろしく」
「うッス! ぎゃーーー痛気持ちいい!!」
――――――
(……とは言ったものの……)
「でさ! その時ジタンとバッツが――」
フリオニールとクラウドはすでにテントで休んでいる。
ティーダと二人で焚き火を前に他愛も無い話を続けてはいるのだけれど。
先ほどからやたらと元気によく喋るティーダは、明らかに眠そうである。眠いのを何とか誤魔化そうと、身振り手振りなんかも加えて。
(やっぱり今日は疲れてるんだね)
いつもよりも激しい戦闘に加え長い移動。他の二人も何度も代わろうかと言っていたが、ティーダは頑なに拒否していた。
「だから……」
だんだんと静かになってきたティーダは今にも眼が閉じてしまいそうで、うつらうつらと舟を漕いでいる。その度にはっと覚醒しては少し恥ずかしそうに話を続けるのだ。
けれどそれももう限界のようで、とうとう体を支えられなくなってこつんと肩に頭を預けてきた。
「……ッ……あ、ご、ごめん」
「いいんだよ、ティーダ」
慌てて起きようとするティーダの肩を抱いて体を引き寄せると、いわゆる膝枕の状態にしてやる。
見張りだから武具を装備している状態だし、決して寝心地はよくないだろうけれど、枕がないよりはマシだろう。
恥ずかしそうに見上げてくるティーダは、やっぱり可愛い弟分だ。
「セシルっ」
「大丈夫。そのまま寝てもいいよ」
「ても……でもさ……みんな、ちゃんとやってる……のに」
この世界では戦いに携わってきた者が多い。そんな中で、平和な世界で育ったのだと言ったティーダは周りに追いつこうと必死で、足手まといになるまいといつも努力していて。
そんな彼を知っているからこそ。
「そういうのは気にするんじゃない。いいんだよ、僕がティーダを甘やかしたいから」
「ん……」
蜂蜜色の髪を緩く撫でてやると、少しだけ覗いた耳が赤かった。
平和な世界で育ったという割には、甘え方を知らない彼をもっと甘やかしてあげたい。陽だまりのように明るく温かいあの笑顔が好きだから。
「……せしるの声……心地いい、っす……」
「そうかい? じゃあ、思い出せる範囲の昔話でもしようかな」
君が眠るまでの間。
ティーダの体から力が抜けるまで、そう時間はかからなかった。
穏やかな寝息にふと表情を緩めると、ちらりとテントの方を見る。
途中から向けられていた視線には気付いていたけれど、あえて気付かないふりをする。向こうもきっと分かっているだろう。
(嫉妬……独占欲、かな……僕もまだまだだね)
ふふ、とひそやかに笑うと視線をティーダへと落とし、髪を梳いた。
(僕の可愛い弟に手を出したら……酷いよ?)
例えティーダを大切に想う気持ちは同じだとしても、彼を可愛がり甘やかすのは自分の役目だ。あの二人にだって、誰にだって渡しはしない。
それに、時にはそれ以上の感情が見え隠れする者だっているのだ。自分の目の黒いうちは手出しなんてさせない。
(ああ、今日はいい日だなぁ)
眠る少年の髪を撫でながら、口元が緩んでしまうのを止められないのであった。
「く、クラウド……覗き見はよくないぞ……」
「お前が言うな」
「…………」
「…………」
「羨ましいな……」
「ああ、羨ましいな……」
――――――
■五万打企画リク■
4「大丈夫。そのまま寝てもいいよ」
10「でもさ……みんな、ちゃんとやってるのに…」
4「そういうのは気にするんじゃない。いいんだよ。僕がティーダを甘やかしたいから」
夜番なのに眠気に負ける10と膝枕をしてあげる4とその20mくらい後ろで羨ましそうにしている2や8や7等。
匿名匿住所様、ありがとうございました!