「スコールのいた世界ってオレの世界と似てると思うんスよ!」
藪から棒になんだこいつは。
ガンブレードの手入れをしながらそう心の中で突っ込む。
いつも一緒にいるクラウド達はリーダーと会議中だとかでこの部屋に転がり込んできたティーダはいつも通り騒がしい。
幸いジタンやバッツも部屋にいたためティーダの相手は任せていたのだが。
「……まぁ、俺の世界にお前みたいな服の奴はいないけどな」
「オレのファッションセンスが可笑しいって言いたいのかよ!」
打てば響くというか、即行で突っ込みを入れてくるティーダをジタンがまあまあと宥める。一応ジタンの方が年下なのだが……まあこの世界で見た目と年齢が釣りあわないやつはごろごろいるから今更突っ込む気にはなれない。
……自分は違う。と、思いたい。
「似てるって文明レベルがってことだろ? 確かにティーダとかスコールの世界は話聞くだけでも機械とかすごそうだもんな~」
「きっとバッツははしゃぐッスよ~すっげぇでかいビルとかあるんだぜ!」
「ビルってなんだ?」
「そこからッスか!!」
冒険家としての血が騒ぐのか、きらりと目を輝かせるバッツ。仲間の話を聞いているとどこの世界にも飛空艇や兵器等は存在するようだが、それ以外、一般的に使用できるような技術、機械は殆ど普及していないらしい。
例えば洗濯機……テレビ……電話なんかだ。それ以外の、魔法による技術等はきっとこちらとは比べられないくらいに発達しているのだろうが。――そもそも自分の世界の魔法は科学を応用した擬似的なもので、本物の魔法は魔女が……否、このあたりは記憶が曖昧だ。
とにかく彼らの世界の日常生活は狩りだとか畑仕事だとか、自分の世界ではあまり考えられない、それこそ童話や昔話に出てきそうな生活様式だ。初めて仲間達と顔合わせしたときは服装の違いにも随分驚いたものだが。
「でもティーダの世界は魔法もなかったんだろー? なんか不思議だよなぁ。オレらにとっちゃ当たり前だから」
ゆらり、と尻尾を揺らしながらジタンがそう言うがその尻尾も相当不思議だ。
「でもスコールの世界ってギジマホーってやつッスよね? スコールの世界に出来たならザナルカンドでも使えるようになるかも!」
「使ってどうすんだよ、平和なんだろ?」
「そーッスけど!」
いつも以上に賑やかな部屋の中でふと故郷を思う。といっても、記憶なんて殆どないのだけれど、それでも。
「つかなんでいきなりこんな話?」
「だって! バッツ達はこういう生活慣れてるかもしれないけど、オレもスコールも機械文明育ち! 元の生活が恋しくなることもあるんスよ!」
そう、それだ。確かに元の世界でも旅をする中で野宿することはあったが、こんなに長期間に渡る戦いを経験したことはまだない。移動も列車や車を使うことだってあったし、旅の中で町に寄ればすぐ馴染みの食べ物や文明に触れることもできた。
洗濯は自分でやらなくても機械がやってくれるし、すこし街中を歩けば自分の好きな食事にありつくことが出来る。夜でもライトが灯り明るい街中を思い出し、ふぅと息を吐いた。
この世界で皆と共に旅をし、生活をすること。材料の調達や調理、洗濯も風呂の用意も全て自分達でやる。大変だけれど、慣れればこれはこれで楽しいものではあるのだ。あるのだが……やはり恋しくなるものも、ある。
「……コーラが飲みたい」
ぽつり、と。
呟いた言葉に他の三人は一瞬動きを止めたが、すぐ復活したのはやはりティーダだった。
「うおおおおおスコールの世界にもあるんだ!? アレだよな!? 炭酸の!」
「あ、ああ……っおい揺らすな!」
「わー仲間ー! 仲間がいたッスー!!」
がくがくと肩を掴んで揺さぶられる。仲間がいたことが相当に嬉しかったようでティーダはふおおおおと喜びに悶えている。
「そーなんだよー! コーラとかバーガーとかポテトとか! ファーストフードっつーか! ジャンクフードが恋しいッスよーー!」
「なんだそれ」
「なんつーかこう……例えば肉と野菜をパンで挟んだやつとか!」
「えぇ、それくらいならここでも作れるんじゃね? サンドイッチみたいなモンだろ?」
「違うんスよ! なんかこう! 大量生産されてる的な! いかにも不健康そうなんだけど時々食べたくなるっつーかああ」
好んで頻繁に食べるようなことはなかったのだが、ティーダの言葉を聞いていたらついつい思い出してしまう。栄養バランスは悪いが手軽に食べられるあれ。それにポテトとコーラをつけたら……。
「やめろ食いたくなる」
「コーラは難しいだろうけどバーガーとポテトは今度作ってみるッスかね~」
さっきはあんなことを言ったくせに作る気満々らしい。やけに楽しそうなティーダは、やはり話が通じたことが嬉しいのだろう。それまではバッツ達と談話していたのに嬉々とした目でターゲットをこちらに変更したようだ。
「スコールの世界には他にどんなものがあったんだ?」
「……俺は忙しいんだが……」
「さっきから手ェとまってるくせに!」
にししと笑うティーダに呆れながらも、殆ど手入れの終わったガンブレードを置く。話をして、自分も故郷の共通点があるのをちょっとでも嬉しく思ったのは確かだから。
「俺はずっとガーデンで生活していたし……娯楽系はあまりわからないと思うぞ」
「いいッスよ! 他にも食べ物とか、機械とか! 共通点あったら嬉しいッス! あ、カラオケとかある? スポーツは!?」
「……だから娯楽は……まあ、あるにはあったな……俺は行った事がない」
「ええー勿体無いッス!」
「カラオケってなんだー?」
「えーっと音楽が鳴る機械があってそれにあわせて歌う……みたいな?」
「何でも機械に頼ってんじゃねー機械っ子め! 吟遊詩人を見習え! 自分で弾いて自分で歌うんだぞ!」
「だからそーゆーんじゃなくってー!」
本当にこいつはよく喋る、と、少し喉が乾いてきてそう思った。
気がつけば随分と話し込んでいた。最初は横槍を入れていたジタンとバッツも、自分達には通じない文明の話ばかりしているのが飽きたのか、少し離れた所でカードゲームに興じていた。
「な、スコール」
内緒話でもするかのように少し声を潜めてティーダが声をかけてきた。
なんだと先を促すと、何故か少し期待の篭った眼差しを向けられる。
「スコールの世界はさ、携帯電話ってある?」
「……あるにはある……が、多分俺は持ってなかった……と思う」
「マジっすか!」
小さくガッツポーズするティーダにますます困惑して首をかしげると、彼は小さな紙切れに何かを書いて渡してきた。
「……これは」
「オレの番号とアドレス!」
「……これをどうしろと……」
「決まってんじゃないスか! 元の世界に帰ったら携帯買って電話かメールして欲しいッス!」
「…………お前な……」
別の世界なんだから通じるわけないじゃないか、と。
呆れた眼差しを向けるのだがティーダは全く堪えていないようだ。
「もしかしたらさ、通じるかもしんないだろ!」
――そんなことを満面の笑みで言われても困るのだ。
でも期待して、裏切られたらなんて彼は考えないのだろう。可能性は限りなくゼロに近いが、絶対にないなんてことは言い切れない。現にこうして別の世界の人間達が寄せ集められ、戦っているなんて不思議が起こっているのだ。 結果がどうなるか分からないことを考えたって詮無いことなのだと彼はよく理解しているから。
「……繋がらなくても泣くなよ」
「泣かないっつーの!」
仕方ないから、受け取ってやる。
そして電話してやるのだ。元の世界に帰った時、涙もろい同い年の男が、皆と別れて泣いていないか確かめるために。
「クラウドー! あのさークラウドの世界って携帯――」
後日、恐らく自分達と同じくらい文明の発達した世界から来たであろうクラウドに同じことをしていて、僅かでもイラついてしまったのはまた別の話だ。
――――――
■五万打企画リク■
・ほのぼのかギャグっぽい感じ
・カップリング要素なしか810
ティーダ「スコールって俺と同じような世界っぽいよな」
スコール「お前のような服の奴はいないが…」
名無し様、ありがとうございました!