10総受け祭:中

学パロ編です。

WOL(09.10/11)

「会長~こっちは終わったッスよ~!」
「あぁ、ありがとう。次はこちらを頼みたいのだが……」
「任しとけッス!!」

 ばたばたと忙しそうに駆け回る下級生の少年。
 よく働き、人当たりもいい明るい少年である。故に生徒に人気もあり、有名なブリッツ選手の息子ということで何かと話題に上がりがちだ。
 既にプロとしてデビューしており、ルーキーにしてエースへと上り詰めたその実力は親譲りなのだと言う者もいるが、自分はそうは思わなかった。

「会長会長っ! 終わったッスよ~!」
「相変わらず早いな……少し休憩しよう」
「うッス!」
「差し入れで貰った茶菓子がある。食べるか」
「まじ!? 食べる食べる~!」

 今の生徒会は人手が足りないため、時々こうして力仕事などを手伝ってもらっていてかなり助かっている。
 ブリッツのオフシーズンであるこの季節。いつもは時間のある時にしか頼めなかったが、今は練習まで時間もあるのかよく手伝いに来てくれる。
 助かってはいるが、時々思う。どうしてこんなにも快く仕事を引き受けてくれるのだろうかと。大抵は面倒臭がって断るものが大半なのに。

「え、だって俺、会長に助けられたからさ、その恩返しみたいな感じッスよ!」

 ある日その事を尋ねたらこんな返事が返ってきた。
 自分としてはそこまで大層なことをした記憶がなかったが、彼はくすくすと笑った。
「入学したばっかの時だったかなぁ……何か上級生に『髪染めてんじゃねーよ!』とか難癖つけられてさ。そん時」
 言われて、徐々に思い出してきた。それは去年の六月の事。
 この学校では染髪は禁止されていない。だが日ごろの鬱憤を抱えた者はそれを下級生へとぶつける事が多く、大抵染髪やピアスの事を理由に絡む者が多かった。
 当時副会長だった自分もそういった事には目を光らせていて、その時に助けたのが彼、ティーダだった。

「俺あの時デビュー戦控えててさ、問題起こしたくないし、怪我もしたくなかったから……本当助かったんスよ」

 茶菓子を食べながら幸せそうなティーダは屈託なく笑った。

 大したことをしたつもりではなかった。それでも、こうして感謝の言葉を述べられると事の外嬉しいものだと気付く。

「会長こそ、俺なんかと一緒にいて大丈夫ッスか? 何か俺、問題児扱いされてるっぽいし……」
「問題ない。周りが何と言おうと、私は君が優しい人間だと知っているからな」
「………………言ってて恥ずかしくないッスか」
「? 何がだ」
「天然ッスか……も、いいッス」

 机に突っ伏した彼の耳が僅かに赤いのが不思議だった。

フリオニール(09.10/12)

 タァン、と矢が的を射る音が、静かな道場に響き渡る。
 道場では基本、練習に関わる事以外の私語は禁止だ。……と言っても、全体練習は終わり、今は自主練習。帰っている者が殆どだった。ピンと張り詰めた空気の中で集中力を高め、射る。この空気が、好きだった。

「フリオニール先輩」

 数十本目を放った後に後輩から声をかけられる。何か用事でもあっただろうかと振り向くと、彼女は入り口のほうを指差した。

「お友達、いらしてますよ」

「フリオ!」
「ティーダ……どうした、こんな時間に」
 道場から出ると、学年が一つ下の友人、ティーダが来ていた。この学校の指定寮に一緒に住んでいて、時々仲間達と一緒に遊びに行く仲でもある。
 太陽みたいな笑顔を向けられてどきりと心臓が跳ねた。……自分が密かに好意を寄せている相手……でもある。

「自主練してたらこんな時間になっててさー。で、ここ通ろうとした時弓射る音がしたからまだいるのかなって。一緒に帰らないッスか?」
「そうか……いや、後もう少しやってから帰ろうと思ってた所だし、切り上げるか」
「あ、なら待ってるッスよ」
「それなら先に帰ってても……」
「いーからいーから!」
「こら、ティーダ」

 ほらほら、と背中を押されて道場に戻る。仕方が無い、と思ってしまう辺りは惚れた弱みというやつだろうか。
 関係の無いものは道場に上がってはいけないので見学用の椅子に座って待ってもらうことにした。

 弓を持ち、的の前へと歩いていく。ティーダのほうを見ると目が合って、ひらりと手を振られた。
 手は振らずに笑顔で返すと的へ向かって構える。

(そうか……ティーダに見られるのか)

 ふとそう思うと何故か急に恥ずかしくなって、集中していた精神が乱れる。
「っ………………」

 一度構えを解いて深呼吸した。ちら、とティーダを盗み見ると矢を放たなかったせいか怪訝な顔をしている。格好悪い所など見せられない。雑念をなくし、精神統一することが弓道の極意でもある。
 もう一度、集中して矢を構えた。

「すっごいよなぁ、バンバン真ん中に当たってたッス!」
「はは……大したことないさ」
 目をきらきらと輝かせながら、先ほどの感想を述べるティーダ。何と言うかもうべた褒めで恥ずかしい。
 自分としては水中を華麗に泳ぎシュートを決めるティーダの方がよほどすごいと思う。

「それに、格好良かったッスよ!」
「は……え……?」
「こう、構えて的を見る横顔がさ、男前だったッスよ」

 僅かに頬が赤くなっているように見えるのは多分自分の都合のいい思考のせいだ。
 天然なのか、それとも狙っているのか。どちらにせよ赤面してしまう自分は、横で無邪気な笑顔で話し続ける彼の顔をまともに見ることなんてできなかった。

「ほんとだって~! あの噂本物よ! ……そう、そうそう! でね、ティーダ君が見学用の椅子に座っててね…………そう!  あのフリオニール先輩が一度構え解いちゃったの~! あれはもう意識しまくって精神乱れちゃったのね!  片付け終わったあとは仲良く帰ってくしさ~眼福よ! アンタも自主練残ればよかったのに~」

オニオンナイト(09.10/13)

 早く大人になりたい。
 ずっとそう思っていた。

 放課後の図書室で、知識を広げる為に色々な本を読み漁っていた。飛び級したとはいえ、うかうかしていたらすぐに置いていかれてしまう。自分に限ってそれはないと思うが、勉強をするのは好きだった。
 自分以外誰もいない図書室。開いた窓から風が入ってカーテンを揺らした。

(あ……あんな所にある……)
 最近興味を持った分野を調べてみようと本を探したが、厄介な事に一番上の棚にあった。背伸びをしても届く高さではなく、周りを見渡しても台のようなものはない。
 しかたなく椅子を持ってきて靴を脱いで上がろうとした時、がらがらと教室の扉が開く音がした。

「あれ、オニオンじゃん。なーにしてるッスか」
「ティーダ……そっちこそ、図書室に来るなんて珍しいじゃない?」
「……どーせ俺は本なんて読まないッスよーだ。生徒会の頼まれ物ッスよ」

 むむ、と不機嫌そうに入ってきたのは同じ寮に住んでいるティーダだ。一応年上なのだが……そうは思えないくらい子供っぽい所もある。まぁ、彼よりも年上なのにノリが同レベルの男もいるが。

「ん? 取れない本でもあるんスか?」
 椅子を本棚の前に置いたままだったのを見てティーダが尋ねる。悔しいがその通りなので、頷いて題名を言った。彼は背伸びをすることもなく軽々とその本をとって渡してくれた。

「ほい、これッスね! すごいな、俺そんなのわかんないッスよ」
 渡された本を受け取りながら、ちいさく「ありがと」と礼を言う。

 届かない手が、もどかしい。

「こーいうのはさ、無理しないで誰かに取ってもらえよ。落ちたら危ないしさ」
「子ども扱いしないでよね」
「何だよ、一応俺より年下だろー」
 頭を撫でられて、思いっきり不機嫌そうな顔で言ってやっても彼はちっとも応えない。

 本当は嫌じゃないのに、素直になれないのがもどかしい。

 大人になれば、変わるのかな。素直に自分の感情を受け入れられるのかな。

「他にも何かいる本ある? 俺が取るッスよ」
「……じゃ、きりきり働いてもらおっかな」
「うわ、容赦ないッスね~」

 早く大人になりたい。早く大人になって、彼よりも背が高くなりたい。
 そうしたら、今度は自分が彼の頭を撫で返してやるのだ。

 でも今は、子供の間は、頭を撫でてもらえるから。

(……まぁ、まだ今のままで、いいかな)

セシル(09.10/14)

「っはぁ~~! あ゙ーーー……」
 プールへと足を運べば、案の定疲れた様子でぷかぷか浮いているティーダを発見した。

「お疲れ様」
「あ、セシル~」

 力を抜いて仰向けに浮いたまま、足と手を使って器用にプールサイドへと泳いでくる。どんなに疲れていても笑顔を忘れないのは、彼の魅力の一つだ。
 揺れる水面がつま先につくかつかないかという所でしゃがむと、持ってきた袋を掲げた。

「はい、差し入れ。バナナだよ。運動後に食べるといいって聞いたから」
「おぉー! ありがとセシル~!」

 くるんとひっくり返ってプールサイドから身を乗り出すティーダは、目をきらきらと輝かせて本当に嬉しそうだった。
 こんなに喜んでもらえるなんて、持って来た甲斐があったというものだ。

「でも……ごめんね、生徒会手伝ったせいで居残りになったんだよね?」
「あ、いいんスよ、俺がやりたくてやったんだし! つーかさ、一分遅刻したぐらいでオヤジの奴ここぞとばかりに練習増やしやがってー!」

 ふくれっ面をしてばしゃばしゃと足で水面を叩く姿は駄々をこねる子供にしか見えなくて微笑ましい。
 「だいっきらいだ」とは彼がよく父親に言う台詞だ。反抗期だと人は言うけれど、自分にはそうは思えない。
 彼らを見ていると、本当に仲がいいと思う。見える部分ではなく内面的な所で、ちゃんとお互いを想っている。自分達兄弟となんら変わりない、家族の絆だ。
 面と向かって言うのは恥ずかしいから、あんな風になってしまうのだろう。本当によく似ている親子だ。

「ジェクト先生には僕からも言っておくよ。でもティーダ、無理な時は来なくてもいいんだよ?」
「んー……でも手伝う奴ってあんまいないだろ? それに俺、生徒会の皆好きだし、力仕事だけど楽しいし、お菓子もらえるし」

 最後の理由はいかにもティーダらしいが、「皆が好き」発言は生徒会メンバーに聞かせたら面白いことになりそうだ。
 大変な時でも、ティーダの笑顔があれば皆頑張れる。本当にティーダがいて助かっていた。
「ティーダは本当にいい子だね」
「セシル~、濡れるッスよ」
 濡れてしっとりとした頭を撫でると、ぱしゃんと小さく跳ねた水が足を濡らした。
 口では濡れると注意するが、ティーダも頭を撫でられるのは満更でもなさそうだった。

バッツ(09.10/15)

「ああー! 売り切れてるー!」
 午前の授業が終わり、にぎやかな購買の前で更に騒がしい声が聞こえた。
 安くて美味い購買のパンはいつも競争率が激しくて、確実に買うなら授業が終わる前にでも抜け出して買いに来なければいけない。俺みたいに。

「よ、どーしたティーダ。何が売り切れだったって?」
「バッツぅ……」

 丁度屋上に行こうかと思った時にティーダがやってきて、先輩達に負けずあの中に突っ込んでいたが目当てのものは買えなかったらしい。来た順番としてはかなり早い部類に入るのだが、パシリっぽいやつが色々買いこんでたからそのせいかもしれない。
 しかし涙目になりながら抱きついてくるのは危険だ。色々と。

「う~……俺のやきそばパン……」
「あ、俺買ったけど」
「えっ……」
「あげなーい」

 期待を込めた眼差しを向けられるが、それはすぐに恨みがましいものへと変わった。くるくると変わるその表情が可愛くてついついからかってしまうだけなのだが。

「うそうそ! やるって! その代わりジュースおごりなー」
「やりぃ! ありがとバッツー」
 あぁだからその抱きつくのは勘弁、いや嬉しいんだけどね。

 ジュースを買って、屋上にやってきた。空は快晴、秋の匂いを感じさせる涼しい風が気持ちよく吹いている。パンの袋を破り、他愛の無い話をしながらランチタイム。
 やきそばパンを食べることが出来てティーダは幸せそうだ。

「つかさ、ティーダはいつも弁当自分で作ってんじゃん、何でパン?」
「今日はパンの気分だったッス!」
「あ、そ。じゃあオヤジさんのは?」
「作ってないッス!」
「ははッ、一人分だと面倒だもんな、そりゃそっか」

 紙パックのジュースを飲み干し、べこべこと言わせながらティーダが壁にもたれて空を見上げた。夜遅くまでゲームでもしていたのだろうか、うつらうつらとして今にも寝てしまいそうだ。

「眠いのかー?」
「んー……ちょっと」
「次数学だろ? サボっちゃえよ」
「先輩が言う台詞ッスかそれ……」

 ティーダが苦笑するがもう目は殆ど閉じていて、意識も半分夢の中だろう。
 サボりはしない奴だから、時間になったら起こしてやろう。そう言ってやると安心したように寝息をたて始めた。

(お、アオノリついてる)
 やきそばパンを食べた時についたのだろう、口元についたそれを誰も見ていないのをいい事にぺろりと舐めとった。

(……あ、いちご)
 舐めとった時にふわりと漂った甘い香りは、先ほどまでティーダが飲んでいたいちご・オレのものだ。
 半開きになった口に引き寄せられるように近付く。舐めたら、甘いのだろうか。

「………………」

 あと少しで唇が触れるという所でぴた、と止まる。小さく笑って顔を離す。
 相変わらず気持ちよさそうに眠るティーダの髪を指先で弄びながら、これはフェアじゃねーよなー、と呟いた。

ティナ(09.10/16)

「ティナ~」

 放課後、鞄に教科書をしまい部活に行こうとした時、彼はやってきた。いつも明るく、周りの空気までそう変えてしまう一つ下の男の子は、教室の入り口で手を上げた。
 学年毎に教室のある階が違うこの学校では、上の学年の教室には何となく近寄りがたかったりするものなのだが彼はいつも臆することなくやってくる。
 部活の先輩だけでなく、その性格で年上の友人も多いからなのだろう。

「どうしたの? ティーダもこれから部活があるんでしょう?」
「うん、そうなんだけどコレ渡しときたかったから」

 そう言って彼が差し出したのは、大きなモーグリのぬいぐるみ。
「わぁ……」
 受け取って抱きしめると予想以上にふかふかしていて堪らない。

「この前ゲーセン行った時に取ったんスよ。ゲーセンの景品にしては結構いい感じだったからティナにあげようと思って!」
「ありがとう、でもいいの?」
「俺が持っててもしょうがないし、ティナなら大事にしてくれそうだからさ」

 少し照れたように頬をかいて笑ったティーダは「部活あるからー!」と言って走っていってしまった。
 手触りも抱き心地もいいぬいぐるみ。ひょっとしたら、偶然ではなく自分の為に取ってきてくれたのかもしれない。……なんて、都合が良すぎるだろうか。

「なーにあの子、ティナの彼氏~?」
 まだ教室に残っていた友人が肘で軽く小突いてきた。ちょくちょくティーダは教室に来ているのだが、彼女はまだ見たことが無いようだ。からかうような瞳に笑い返しす。
「違うよ」
「そうなの? でも仲良い感じだったよね」
「……彼氏って言うより……」
「ん?」

「……弟って、感じかな。可愛いよ、ティーダ」
 ぬいぐるみに顔を埋めながら肩を揺らして笑う。誰にでも人懐っこい笑顔を向ける彼に、家庭科部で作るお菓子をあげるのが、最近の楽しみだった。
 目を輝かせ、彼が犬だったら間違いなく尻尾をふっているであろう喜びようを見て、自分も嬉しくなるのだ。

「ティナ、なんか楽しそう」
「そうかな?」
「そうだよ~」

 つられるように笑った友人と別れて部活へと向かう。
 今週の活動はお菓子作りだ。

「この前はマフィンで……その前はクッキー……何がいいかなぁ」
 彼の喜ぶ顔を思い浮かべる。
 プリン? ケーキ? 今の時期ならスイートポテトもいいかな?

 でも彼は、何を作っても喜んで食べてくれるから、嬉しい。
 部室へと向かう足は、自然と早足になっていた。

クラウド(09.10/17)

※あまり学パロという感じがしない

「あ、クラウド早いッスね~!」
「ティーダ……そういうお前こそ早いな、珍しい」
「へへ~楽しみで早く目が覚めたッスよ! 皆で遊ぶの久しぶりだし!」

 休みの日、友人達に誘われて遊びに出ることになった。
 月曜日、バイト先からの連絡で珍しく土日が休みになり、どうしたものかと思っていたところにティーダがやってきて、あれよあれよと言う間に予定が立ってしまった。
 ティーダの言うとおり、皆で出かけるのは久々だから自分としてもとても嬉しい。最近三年は受験対策で忙しく、学校でもあまり会える機会がなかったからなおさらだ。

「それにこの辺好きな店多いからさ、先に来てちょっと見てまわろっかなーって思ってたんだ」
「……もしかして時々遅れて来るのはそのせいか?」
「ゔっ……そ……それは……えっとぉ……」

 そう、ティーダは待ち合わせをすると数分遅れてくることが多い。何か面白いことがあると寄り道するバッツといい勝負だが、彼はジタンが引っ張ってくるのでそこまで遅くはなかったりする。
 ばつが悪そうに頭をかくティーダに苦笑すると壁に預けていた背を離して歩き出す。

「クラウド?」
「行くぞ。時間があるから俺も行こうと思っていた。一緒に見てまわろう」
「え……いいんスか?」
「遠慮するな、らしくない。それに俺といれば時間にも遅れない」
「……へへ、ありがとクラウドー! 大好きッス!」

 思わぬ告白に面食らっているとティーダが先に進んでいく。慌てて早足で追いかけると振り返ったティーダが笑った。俺の好きな表情の一つだ。

 シルバーアクセサリーの店、CDショップ、スポーツ用品店、洋服……ティーダが店をあちこち見て回る。様々な店が並ぶこの通りは学生がよく遊びに来る場所だった。時折、見覚えのある顔もいる。中にはカップルの姿も見受けられた。

「なぁなぁクラウドー!」
「あぁ、なんだ」

 ティーダがショーケースに貼り付いて呼んでいる。時間を気にしつつもティーダの傍へ行き、商品を選ぶのを手伝う。
 ふと、先ほど見かけたカップルのことが頭をよぎった。

(恋人……か)

 弟のような存在だと思っていたのに、いつしか惹かれるようになった。
 ……それでも、兄のような感覚は抜けなくて、彼に好意を寄せる不届きな輩はいつも牽制した。どうもティーダの事となると過保護になるようだ。以前セシルに指摘されたことを思い出して苦笑いする。

 恋人同士という関係になれずとも、今のままで十分だ。
 ――頭ではそう思っているけれど、ティーダと二人で歩くという今の状況は何だかデートみたいだと僅かに浮かれる心を叱責しつつ、早起きもたまには悪くないと思った。

スコール(09.10/18)

※折角なので例の幼馴染学パロ設定で書いてます。二人が付き合う前のお話。

「じゃあここはこうッスか?」
「……あぁ、でもこっちは……」

 生ぬるい風が窓から入りカーテンを揺らす。夏が近付いてきたのを知らせるように蝉の声が少しずつ増えてくる。
 今はテストに向け勉強中だ。スポーツをするティーダにはクーラーを効かせた部屋はよくないと思い冷たいジュースで我慢してもらっていた。
 カランと氷が落ちる。

「それが終わったら少し休憩だな」
「うー……頑張るッス!」

 ティーダは、スポーツをしているだけあって集中力はいい。普段からこの調子だとぎりぎりになって勉強することもないのだが。

「終わったぁー!」
「一気に飲むと腹冷やすぞ」
 警告も空しく鉛筆を放り投げたティーダがジュースをごくごくと飲み干す。勢いがよすぎたのか口の端からツゥ、と一筋零れ落ちる。首筋を伝い落ちていくその様子を、ジュースを飲むたびに上下する喉をじっと見つめてしまう。

「………………」
「わ、やっちゃった」

 零れ落ちたものをティッシュで拭いながら唇をぺろりと舐める。

「………………」
「ん? スコールどうかした?」
「……なんでもない」
「………………」

 訝しげな顔をするティーダに本心を悟られないよう少しだけ視線をずらして、目を伏せた。
 目を伏せるのは、今は話したくないという時の癖だったりする。ティーダもそれを知っているからそれ以上は何も聞いてこなかった。

「……スコール!」
「っ……何だ」
 ……と思ったのに、机に向かい合って座っていたティーダは身を乗り出して額をくっつけた。汗をかいているせいか、ティーダの匂いを感じて僅かに顔が熱くなる。

「…………やっぱ何でもないッス」

 拗ねたように机に突っ伏してしまった。しまった、こうなったら暫らく機嫌を直してくれない。

「ティーダ」
「………………(つーん)」
「……ティーダ」
「………………」
「……そのうち、ちゃんと話すから(多分な……)」
「………………うん」

 むくりと体を起こしたティーダは、さっさと気持ちを切り替えて勉強を再開してしまった。多分、やり場の無い気持ちもぶつけつつ。

(……そのうち、な……)

 その時になったら、ちゃんと伝えられるだろうか。
 一抹の不安を抱きながら、とりあえず試験勉強の為に机に向かった。

ジタン(09.10/19)

「よーしちょっと休憩ー!」
 その号令と共に張り詰めていた空気が弛緩した。
 舞台の上は長時間ライトを当てていたせいで温度が上がっている。額に滲んだ汗を拭いながら外の空気にでも当たろうとスポーツドリンクを持って体育館を出た。
 冷たいそれを喉を鳴らして飲む。ふぅ、と一息つくと見知った顔を見つけて声をかけた。

「よーティーダ。何してんだ」
「あ、ジタン。ちょっと休憩ッスよ。ジタンも?」
「おぅ」

 階段に腰掛けるとティーダもそれに習う。周りはばたばたと忙しそうに駆け回る生徒達が大勢いた。もうすぐ文化祭。演劇部である自分もメインではないが重要な役をもらい毎日毎日練習漬けだ。

「へぇ~楽しそうッスね!」
「へへ、結構やりがいあるぜ? ティーダは何すんの?」
「俺は運動部だからクラスの出し物の手伝いッス」
「ティーダんとこのクラスって……」

 確か、噂によれば女装喫茶だったような。いやコスプレ喫茶だったか?

「お、俺は女装しないッスよ! 料理できるから裏方ッス!」

 顔を赤くしたティーダが否定した。どうやら前者だったらしい。しかし、とティーダを見ながら思う。

 筋肉はついているが、それなりに細身の体。筋肉が目立たないよう少し大きめのドレスや、あまり肌が見えないような和服なんかいいかもしれない。母親譲りだという顔立ちに化粧ノリがよさそうな肌。髪はウィッグでどうとでもなるし……。

「……ティーダ、絶対似合うと思うけどなぁ。つかクラスの奴らもやれって言わなかったのか?」
「何言ってんスか! 似合うわけないっつーの! 俺なんかよりジタンとかクラウドの方が……まぁ着ろ着ろとは言われたけどさ……絶対可笑しいッスよ」

 膝を抱えて赤くなった顔を隠すように縮こまる。そういう所が可愛いのに本人に自覚は無い。
 自分としても、ティーダの女装は見てみたい。ついでに、密かに彼に好意を抱いているやつらの反応も。

「なぁティーダ。やろうぜ女装! 俺がバッチリ可愛くしてやるからさ」
「ジタン今の話聞いてなかったんスか!?」
「大丈夫大丈夫。 演劇部の腕を舐めんなよ~? 頭のてっぺんからつま先まで、化粧もカンペキにしてやるぜ?」
「だからってさぁ…………っていうかジタンも演劇あるんだろ?」
「演劇前はリラックスしてた方が良いんだって」

 少しは迷っているのか、ティーダの目が泳ぐ。もともと運動部は文化祭だとあまり盛り上がれる場もないし、エネルギーを持て余しているのだろう。あともう一押し。

「な、代わりに文化祭は俺がおごってやるから! それに俺もティーダの女装見たいし」
「………………ゔ~~……ジタンがそういうなら……ちょっとだけ……」
「よーっし決まり! じゃあ早速お前のクラスに遊びに行くかんなー?」
「ええええっ!? ちょ、ジタン!」
「お前が逃げないようにちゃんと言っとかないとなー」

 ぎゃーぎゃーと騒いでいるティーダを尻目にどんな衣装がいいか、どんな髪型がいいか考え始める。おごりくらいでティーダの女装が見られるなら安いものだ。
 色取り取りの飾りつけの中、家庭科室からおいしそうな匂いが漂ってくる。
 目前まで迫った文化祭が本当に楽しみだ。俺はティーダの手をしっかりと握ったまま教室へと急いだ。

シューイン(09.10/20)

※シューイン×ティーダです。

 澄んだ音色が、夕日の差し込む教室に響く。
 指は迷うことなく鍵盤の上で踊り、調べを奏でる。
 ――ふと人の気配を感じて手を止めた。顔を上げると入り口のすりガラスに人影が写っているが入ってこようとはしない。すりガラス越しとは言え、特徴的な跳ね毛が見えて苦笑する。

「入って来いよティーダ」

 しばらくすると、ドアの隙間から顔を覗かせたティーダが教室に入ってきた。

「何で入り口で突っ立ってたんだ?」
「んー、邪魔しちゃ悪いと思ったし、もっと聞いていたかったから、かな」

 何を遠慮していたのかと思えば、嬉しいことを言ってくれる。椅子を持ってきて隣に座ったティーダの頭をくしゃくしゃと撫でると怒られた。
「シューインのが先に生まれたからってガキ扱いすんなよな!」
「……お前はまだガキでいいよ」
「何だよそれー!!」

 大人扱いしたら色々とやってしまいそうな気がするのだが、いいのだろうか。だが悲しいかな俺は兄としての理性の方がしっかりと働いてしまうようなのでその心配はない。

「家で弾けばいいのに」
「家だとお前らが煩いだろ」
「む……シューが弾く時は大人しくしてるッスよ」

 ティーダ一人なら大人しいかもしれないがオヤジがいるとなるとそうもいかなかったりする。煩くても練習はできるが、やはり静かな場所で落ち着いてやるのがいい。
 途中まで書いた譜面をまとめているとティーダが興味津々とばかりに覗いてきた。

「それさっき弾いてたやつ?」
「あぁ、まだ途中だけどな……聞くなら感想聞かせてくれ。なるべく知的な回答を頼むぜ」
「知、的……が、頑張るッス」

 やや緊張した面持ちでティーダが姿勢を整える。俺も座りなおすと鍵盤の上に手を置き、ゆっくりと指を動かし始めた。曲が進むにつれ、ティーダも少しリラックスしてきたようだ。喋ってもいいぞ、と言うとほっと息をついた。
「……すげーいい曲、ッス。何か、ほっとするって言うか」
「知的にって言っただろー」
「ゔ~……そ、それは後でちゃんと考えるッス!」

 冗談だったのだがティーダは真面目に答える気のようだ。どんな珍回答がくるのか今から楽しみだ、と少々意地の悪いことを考えつつも曲は中盤へと差し掛かろうとしている。
 大人しく聞いていたティーダだったが、次第にうつらうつらと船をこぎ始める。飽きてしまったのか、音色が心地よくてそうなっているのか。できれば後者であってほしい。本人は寝ないようにと唸りながら頭を振ったりしているようだ。

「ティーダ、寝てもいいんだぞ?」
「嫌……シューの曲……聞きた、い……」
「いつでも聞かせてやるって」
「……シューは……ずるいっすよ……いっつもそうやって……がき、あつかい……」

 既に夢の世界の住人となりかけているティーダはむにゃむにゃと呟く。それは多分普段あまり言わない本音の部分も混じっているのだろう。

「どーせ俺はガキッスよ……なのにシューは……ブリッツだって……勉強だって……なんでもできるのに……」
 呟くティーダは、何だか少し寂しそうだった。最近はお互い忙しくて、あまり構ってやれなかったせいか。それとも、今言っているように、俺との差を感じるようになったからか。
 ふと、小さい頃泣き止まないティーダの手を握って家まで歩いたことを思い出した。

「……馬鹿」
 置いてなんか行かない。俺達は双子で、いつも一緒に歩いてきた。これからもずっとそうだ。だれがこんな馬鹿でガキでどうしようもなく可愛くて泣き虫な弟を置いていくと言うのか。
 それに、差なんかない。

「お前は、俺が持ってないもの、いっぱい持ってるだろ?」
「………………………すー」
「なんだ、寝たのか……」
 座ったまま器用に寝ている弟を横目で見ていると、急に曲の続きが思い浮かんだ。隣で眠る己が半身の、安らかな寝息を聞きながらそれを弾いてみる。パズルのピースがかちりと嵌るように、最初から決まっていたかのように曲に馴染んだ。

「いい曲ができそうだぞ、ティーダ」

 新しいフレーズを紙に書きとめると、眠るティーダの頬にキスをした。

タイトルとURLをコピーしました