控えめにドアがノックされ、ティーダが返事をするとドアが開かれるのを空気の流れで感じた。
「ティーダ、準備出来たか?」
「クラウド? うん、大丈夫ッス!」
元気に返事するとクラウドの後ろの方から心配そうな声が聞こえる。
「……今日は二時限目が変更になってるが、ちゃんと入れたか?」
「あ……もーなんでもっと早く言ってくんないッスかースコール!」
「いや、お前が一人でやると言うからな」
「うー……あれ、どこ置いたっけ?」
「ほら、これだ」
「ん、さんきゅークラウド」
手渡されたものをしっかりと掴んで鞄の中に入れる。二人が苦笑する気配がした。
「じゃあ、今度こそ行くか」
「おぅ!」
三人で並んで通学路を歩く。広い道なので他の通行人の邪魔にはならなかった。
「桜ももう散っちゃったッスかねぇ」
「そうだな……もう殆ど葉桜になってるな」
「……ティーダ、あまり気を散らすな、危ない」
「だいじょぶだって……ってうわぁッ!」
「っ……。 だから言っただろう」
「あ、ありがとクラウド……」
クラウドと手を繋いでいたため転びはしなかったが、一見何も無いような場所には、僅かな窪みがあった。
ほっとスコールが息をつく。まだ慣れていないから危ないというのに、この幼馴染は聞かないのだ。
学校に近付くにつれ生徒の数も増えていく。人とぶつからないよう気をつけながら進んでいると、とある会話がスコールの耳に入ってきた。
『ねぇねぇ、何であの人、腕なんか組んでるの? しかも男同士……』
『ちょ、ばか、知らないの!? あの人はねぇ……』
「……ティーダ、昼は何が食べたいんだ?」
「んーっと、今日はカレーパンがいいッス!」
「わかった」
くしゃりとティーダの頭を撫でると嬉しそうに笑った。
それは、彼らにとってはいつもどおりの朝の風景だった。
――――――
――事件が起こったのは、中学生の時だった。
「でさぁ、その時スコールが……」
「ティーダ……その話はもういいだろう……」
「是非聞かせてくれ」
その日はテストが近いこともあり、図書館で勉強をした帰り道だった。
いつの間にか外は薄暗くなっていて、いつもより少しだけ急ぎ足で歩いていた。
すると突然、ライトのついていない車が近くに止まり、中から男が現れた。
「ラグナ・レウァールの息子だな?」
男はスコールを見てそう言った。スコールは否定したが男は手に持った写真のようなものを見て笑う。
スコールの父ラグナはとある大企業の社長だった。人柄もよく、カリスマ性のある男だ。
しかし、企業である以上利害関係が生まれてしまうのは仕方の無いことで、どれだけ彼の人望が厚くても恨みを買うことがある。
今回の件は、正にそれだった。
社長であるラグナは嫌がらせから脅迫めいたものまでされることもあり、家族に危険が及ばぬよう離れて暮らしていたがそれもついに嗅ぎ付けられた。
「一緒に来てもらうぞ」
そう言ってスコールの腕を掴んだ。そのまま車に引きずり込まれそうになるのを止めようと、クラウドとティーダが男の腕にしがみ付く。
スコールは自分の家の事情を話しておらず、何故ラグナの名が出てくるのか、何故スコールが連れて行かれようとしているのか、この時のクラウドとティーダは知らなかった。
「っ……おい、いきなり何なんだアンタ……ッ、スコールを放せ!」
「このガキ共ぉ……!」
「馬鹿っ……お前達逃げろ! 助けを呼べ!」
「でも……ッスコール置いてなんか行けないッス、よ!」
「い゙っ!!」
ティーダが男の足を渾身の力で踏んづけた。ほんの少しだけ力が緩んだ隙にスコールが男の拘束から逃れ、三人とも後ろによろめいてしまう。
慌てて逃げようとしたその時、車の中からもう一人の男が出てきた事に気付いたのはティーダだけだった。
男はクラウドに狙いを定めたらしく、手に持った棒を振り上げた。
「ク」
怖かった。でもティーダは反射的に、クラウドを庇うように飛び込んで。
「ラウド……ッ!!」
――――――
「……あ……な…………た…………んー? ……あぁ、が……」
「ティーダ、もう昼休みの時間だよ」
「えっ? あ、もうそんな時間ッスか……」
「ごめんね、君が真剣にやっていたから声をかけにくくて」
「別にいいのに。……スコール達はまだ終わってないんスかねぇ?」
「フフ……彼らならとっくにそこで座って待ってるけど」
「……へっ!?」
「……随分真剣そうだったからな」
「あぁ、声をかけられなかった」
先生と似たようなことを言う彼らの気配に気付けなかった事に、ティーダが僅かに赤面する。
それほどまでに集中していたのかと思うと、自分でも驚きではあるが。
「パン買ってきたぞ……今日も屋上か?」
「うん、あ、セシルせんせーも一緒に食べるッスか?」
「いや、遠慮しておくよ。邪魔しちゃ悪いしね」
くすくすと笑うセシルの意図が分からずにティーダが疑問符を浮かべる。
スコールがティーダの手を引いて教室を出る。クラウドが一礼してから部屋を出た。
――――――
ラグナが病院へとつくと、自分の息子とその友人が項垂れて椅子に座っていた。
名前を呼ぶとゆっくりと顔を上げて、ふらふらと歩み寄ってきた。成長してからは滅多な事では自分に頼らない息子が、縋りつくように抱きつく。
見た所、精神的に参っているようだが大した外傷は見当たらずほっとする。
「無事でよかった……大まかにしか伝わってこなかったから、大怪我したのかと……」
「………っがう……ちがうんだ……とうさん……ッ……」
腕をまわして抱きしめると、縋りつく腕の力が強くなった。ふるふると首を振るスコールと、自分の腕に血が滲む位爪を立てたクラウド。
もう一人の、スコールの大切な親友が。いつでも一緒にいた明るい笑顔の少年の姿がなかった。
息子の無事を確認して安心していた頭に、冷水を浴びせられたような気分になる。
「……スコール…………ティーダ、は……?」
「っ…………父、さん……ティーダが……!」
――――――
「あれ、スコール飲み物は?」
「………………」
「時々抜けているなお前は」
「うるさい」
「あはは、じゃあオレが買うッス!」
「……イチゴ牛乳は右上だぞ」
「知ってるってば!」
――――――
それは一瞬の事で、何が起こったのか分からなかった。
いや、分からなかったというより、頭がそれを受け入れられなかったのかもしれない。
地面に倒れて呻いたクラウドは、体にのしかかる重みで、直前に自分を突き飛ばした少年の事を思い出す。
慌てて頭を起こすと、自分の体に覆いかぶさるように倒れているティーダの姿があった。
「てぃー……」
名前を呼ぼうとして、どろりとした赤い液体がティーダの額を伝うのを見て、頭が真っ白になる。
「ティーダ!! クラウド!!」
スコールが駆け寄ってくる。あぁ、逃げなければとぼんやりと頭の中に浮かんできたけれど、体は動いてはくれなかった。
再びスコールを捕らえようと男達が近付いてきて、人質だと言わんばかりにティーダの体を捕らえた。
死んだようにぴくりとも動かないティーダを見て足元が崩れ去るような恐怖を感じる。
ティーダの体を車に押し込め、乗れと命じられれば、スコールは拒否することが出来なかった。だが、ぐっと震える手を握り締め一歩踏み出したところで、騒ぎに気付いた近隣の住民がやってきたのだ。
男は慌ててスコールを車に押し込めようとしたが、その住民は男を取り押さえた。次第に人も集まり、運転席へと戻っていたもう一人の男は車にティーダを乗せたまま逃走する。
――騒ぎに気付いてやってきた人間が、すぐ警察に連絡してくれたお陰で逃走した男も捕まったらしい。
ティーダも保護され、病院に搬送されているという話を聞いても、クラウドとスコールは安心なんて出来なかった。
ただ二人共、漠然とした不安を抱えたまま病院へと向かった。何か嫌な予感がする、と。
――――――
「わ、わっ!」
「慌てるな、今はそんなに人はいない」
「ほら……十円落としたぞ」
小銭を財布から取り出しながらティーダがゆっくりとそれを自販機に投入していく。
その時運悪く三年生がやってきたようで、スコールがため息をついた。
「……何とろとろやってんだよアイツ」
「んあ? アイツってあれじゃね? ほら、ジェクトの息子の……」
「……あー……悲劇の王子様ってや」
言い終わる前にクラウドとスコールがギロリと睨みつける。殺気すら含んだ鋭い眼光に生徒は思わず口を噤んだ。
ごとんっ。
「よっと」
後ろの緊迫した様子に気付かず、ティーダが取り出し口から紙パックのジュースを取り出した。
その瞬間二人は殺気を引っ込めて、ティーダと一緒に歩いていく。
「……ん? スコール達買わないんスか?」
「あぁ」
「欲しいやつが売れ切れだったんでな」
――――――
関係のない息子、そしてその友人まで巻き込んでしまったと、ラグナは酷く後悔した。
ティーダの両親は既に他界しており、駆けつけた後見人―アーロン―に、詫びてすむ問題ではないと分かっていても何度も頭を下げた。
アーロンはいたって冷静で、スコールとクラウドが自分達のせいだといっても、誰も責めようとはしなかった。
スコール達にはそれが辛かった。だから自分で自分を責め続ける。そうでもしないとおかしくなりそうだった。
手術が終わり、ティーダが病室へと運ばれていく。次第に麻酔も抜け、目が覚めると聞かされ少しは安堵する。
しかし、どこか浮かない顔の医者が怪我の説明をするとアーロンを部屋に招くのを見て、また心がざわつく。
暫らくして部屋から出てきたアーロンは、一見いつもと変わらないように見えた。それでもそれなりに長い付き合いの二人には、その顔に絶望の色が浮かんでいることが分かってしまった。
「……君達は彼の友達だったね……大丈夫、何針か縫ったけど命に別状はないよ」
共に部屋から出てきた医者が安心させるようにそう言ったが、信じられるわけが無かった。何か、何かあったのだと。
一度家に戻ったほうがいい、とアーロンが言うが、二人は頑として聞かなかった。ティーダの目が覚めるまでは動くつもりは無かった。
何分か、何十分か、あるいは何時間か。どれくらいの時間が経ったか分からなくなった二人の横に、アーロンが腰をかけた。
「ごめんなさい……」
「……お前達が謝る必要はない」
「でも……!」
「………………」
僅かに口を開きかけて、躊躇うようにまた閉じたアーロンに気付き、クラウドもスコールも口を噤む。
二三度それを繰り返したアーロンは、耐えるようにぎり、と拳を握り締めた。
「……あいつは……失くしたんだ……」
苦しそうに告げたアーロンに、何を、と問おうとした時。
ガシャアン! と物が倒れる音がした。同時にティーダの悲鳴が聞こえて、二人は反射的に駆け出していた。
――――――
「んん~、やっぱ気持ちいいッスね~」
「ティーダは屋上が好きだな」
「だってぽかぽかしてるし、風も気持ちいいじゃないッスか!」
そう言ってティーダはスコールに渡されたカレーパンにかぶり付いた。
もうすぐ桜の季節も終わろうとしている。次第に暑くなっていくだろうが、それでもティーダは屋上で食べるのを好んでいた。
「ティーダ、パン粉が服に落ちてる」
「う、気をつけてるつもりなんスけどね……」
「……ほら、掃ったぞ」
「さんきゅー!」
明るい笑顔に、クラウドとスコールも釣られて笑う。
「そう言えば……今年も大会には出るんだろう?」
「もち! 絶対優勝するッスよ! スコール達も見に来てくれよなっ」
「あぁ、当然だ」
今から大会が楽しみで仕方ないのか、ティーダはにこにことしながら紙パックへと手をつけた。
「ティーダ、ちゃんと角を持たないとこの前みたいになるぞ」
「そ、そんなに何度も言うほど酷かったんスか」
「………………牛乳だったからな」
ぼそりと呟いたスコールをクラウドが軽く睨んだ。
――――――
「ティ、ティーダ君落ち着いて……っ」
「嫌っ……だれ、だよぉ……や……ッやだぁ!!」
看護士が暴れるティーダの腕を掴もうとすると死に物狂いで暴れる。
ついには看護士の手が離れてしまいティーダがベッドから転がり落ちる。錯乱状態のティーダはまだ逃げようと床をはいずる。
「や……ど、こ……あーろんッ……すこーる……くらうどぉ……!!」
「ティーダ!!」
看護士を押し退けて、なぜか床の上で手探りをするように這っているティーダの肩を掴んだ。
ひっとティーダが息を引きつらせてスコールの手を押し退けようともがく。
「やだぁッ……こわ……怖い、よ……すこ、る……くらうど……どこ……どこ……!」
「……ティー、ダ……?」
ぼろぼろと涙を零すティーダの瞳はスコール達を見ていなかった。
――いや、その瞳は何も写してはいなかった。
ふらふらと彷徨う手をクラウドが握った。スコールも、受け入れがたい事実に耐え、ティーダの背に手をまわして抱きしめた。
「ティーダ、俺だ……スコールだ。今、お前に触ってるのは、俺だ。だから……大丈夫だ」
「すこー、る……? すこーる……スコール……!」
「俺もここにいる……ティーダの手を握ってる。分かるか?」
「っ……くら……ど……クラウド……!」
涙でぐしゃぐしゃの顔でスコールに縋りつく。クラウドに握られた手も、しっかりと彼の手を握り返していた。
「……っえない……みえ、ない……! すこーる……見えな……よ…………怖、い……くらうど……!」
「ティーダ……大丈夫、だから……っ……」
「俺達が……ここにいるから……」
認めたくない、受け入れたくない。
でも、事実だった。
その日から、ティーダは光を失った。
――――――
「……点字、まだ慣れないのか?」
「うーん……大分慣れたと思うけどまだ読むの遅いッス……あ、あと書く方もちょっとずつやってる」
放課後、ティーダのいる特別教室にいつものようにやってくる。
後ろではクラウドが白杖の準備をしている。
「あ、もう。自分でやるって言ってるのに」
「大したことじゃないだろう、これくらいやらせてくれ」
「………………」
不満そうなティーダに白杖を持たせてやると手を掴んだ。
三人で喋りながら、ゆっくりと廊下を歩いていく。
今日は、ティーダが通っている障害者用のブリッツチームの練習日だ。
嬉しそうなティーダを、二人は優しげな瞳で見つめた。
――今でこそ、こうして笑ってブリッツの話ができるものの、失明したばかりの頃のティーダは目も当てられないほど精神的に衰弱していた。
ティーダ自身、将来有望なブリッツ選手だったが、あまつさえ父親が一流のスター選手だった彼の失明にマスコミが騒がないわけが無かった。
それでもこうしてまたブリッツが出来るようになったのは、クラウドとスコールがずっと支え続けたからだ。
「なぁクラウド、スコール」
「どうした……?」
「……忘れ物でもしたか」
「違うって! そうじゃなくてー……んーと……」
言いにくそうに口をもごもごさせるティーダに二人は顔を見合わせる。
「……練習終わって家帰ったら、やりたい事あるんだけど……」
「何をしたいんだ?」
もっと深刻な事でもあったのかと思った二人は、ほっとしつつも何を遠慮することがあるのかと首を傾げた。
「けど! 二人には手を出さないで欲しいッス!」
「な……」
「………………」
「オレ一人でやりたいんだ。……だめ?」
「………………何をするんだ?」
「えっとな……」
――――――
「………………」
「………………」
「もー二人共! 心配しすぎッスよ!」
ブリッツの練習が終わり、家に帰ってきてからティーダは台所に向かっていた。
ティーダがやりたいと言ったのは……夕食を作ることだった。夕食と言っても、パスタを茹でて、出来あいのソースを混ぜるだけのものだったが、二人はハラハラしっぱなしだ。
帰り道にティーダがこの事を話した時、もちろん二人は反対した。ティーダが失明してからの食事は出前であったり二人が作ったり、アーロンが持ってきたり……という具合だった。
火や包丁を使うのも危ないし、うっかり鍋やフライパンを触って火傷、なんてこともありえるからだ。心配しないわけがない。
「二人ともカホゴすぎッスよ……」
呆れたようにティーダがため息をつくが二人は気にも留めず、何かあった時はすぐ動けるようにとティーダの邪魔にならない場所で控えている。
元々家事全般が得意なティーダにとってパスタを茹でるくらい造作も無いことだったが、やはり目が見えないこともあり少し手間取ってしまった。
若干茹ですぎて伸びたパスタを食べながら、どーだ! とティーダが胸を張る。二人も食べながらティーダを褒めるが、心配なことには変わりなかった。
食器片付けも自分でやるというティーダを説き伏せ、クラウドが食器を洗いスコールはティーダを風呂場へと連れて行く。
最近は何かと一人でやりたがるようになったティーダに、随分立ち直ってくれたと嬉しい反面、寂しい気持ちもある。それに、時々見せる不安げな表情。
「……後で聞いてみるか」
最後の一枚を洗い終え、クラウドも風呂場のほうへと向かった。
――――――
夜はティーダが寝るまで一緒にいるし、時には泊まるし、朝は彼より早く起きて朝食や学校の支度を手伝う。それがクラウドとスコールの日常だった。
失明する以前から一人暮らしだったティーダには手助けが必要だったし、二人も自分から進んで彼を助けた。
元々広いティーダの家に泊まる部屋などいくらでもあったので殆ど同居していると言っても過言ではない。彼らの両親達もそれを咎めなかった。
それは、友達だからというだけでなく、二人が自分のせいでティーダを失明させてしまったという負い目があるからだと無意識に思っているから。
……そして、ティーダもそう思っていた。
「だから、さ……ずっとオレに付きっ切りで自分の事とかできないだろ? オレ、一人で何でもできるようになる、から……だから……」
「……だから、最近一人で色々やろうとしてたのか?」
風呂から上がったティーダに気になっていた事を聞いた答えがそれだった。失明してしまったことで自分達を縛り付けているのではないかと。
項垂れたままうなずいたティーダに思わず苦笑した。それを聞いてティーダの肩がびくりと跳ねる。
スコールが安心させるように、まだ少し濡れている頭を撫でると僅かに顔をあげた。その瞳は少しだけ潤んでいて、クラウドが指先で目元を拭った。
「……馬鹿」
「なっ……ば、ばか……って」
「俺達は、お前が好きだから……お前が大事だから、一緒にいるんだ。ティーダ」
クラウドの言葉に、ぽろりと涙が一粒落ちた。それでもまだ何か言いたそうなティーダに、スコールが問いかける。
「……じゃあ仮に、失明したのが俺で、その原因がお前だとしたらどうする?」
「た、助けるに決まってるッス……!」
「……それと同じだ」
とうとう耐え切れなくなったのか、ゔ~と唸りながら涙を零し始めてしまったティーダを抱きしめる。片手はクラウドが握った。
あやすようにクラウドが背を撫でるとスコールに抱きついている腕の力が強くなった。
「……むしろ、お前はどうなんだ?」
「っ……え……?」
「お前は……俺達を…………恨んでないのか」
本当は狙われているのはスコールだけだった。殴られるのはクラウドのはずだった。
負い目がないと言えば嘘になる。でも、本当にティーダが大切だから一緒にいた。
それでも失明の原因は自分達にあって、彼の大好きなブリッツが出来なくなってしまったのも自分達のせいで。
恨まれても、嫌われても当然だと思っていたのに、ティーダは笑ってくれるから。
「ッ……ばかぁ……! う、……恨んだ、こ……なんて……っちども……な、い……ばか……!」
馬鹿馬鹿と繰り返し泣きじゃくるティーダにつられて、スコールとクラウドも目の奥がつんと熱くなるのを感じた。
やがてティーダが泣き疲れて寝てしまうまで、スコールは体を抱き締め、クラウドは手を握ったままだった。
――――――
「失礼します」
「ティーダ、帰…………?」
「わっわ! ちょっと待って!」
いつものようにティーダを迎えに来ると、慌てて紙をまとめているのが見えた。
「あ、いらっしゃい。今ね、点字を打って手が……」
「わーわー! 先生言っちゃだめッス!」
真っ赤になって紙を隠そうとするティーダに二人が意地の悪い笑みを浮かべる。それを気配で悟ったのかティーダが鞄にそれを突っ込んだ。
「ティーダ……何書いたんだ?」
「べ、べつに……」
「手紙もいいが……直接口で聞かせてもらいたいな」
「ふ、二人に渡すとか言ってないじゃないッスか!」
「手紙は否定しないんだな」
「~~~~~~っ」
「……ふふ……可愛いねぇ」
恥ずかしくて死にそうになっているティーダを見ながらセシルがくすくすと笑う。
先ほどティーダが慌てて紙をまとめた時、一枚だけひらりと机の下に落ちたのを見ていた。
(いつ教えてあげようかなぁ……)
仲睦まじい三人を眺めながら、点の打たれた紙を手に取った。
それは、短いけれど想いの詰まった言葉。
“クラウド”
“スコール”
“いつも ありがとう”
“だいすき!”
――――――
最後まで読んでくださってありがとうございます!とても長くなってしまいました><
ネタの泉で頂いた『ティーダ盲目(失明?)設定で過保護なクラウドとスコール』という設定で書かせていただきました!匿名の方、ありがとうございましたv
ただ、過保護でらぶらぶ(?)なほのぼの話を期待していらっしゃいましたら……すみませんでしたorz
ほのぼのにしようと思ったのですが失明の原因とかを考え出したら止まらなくなってしまい……。気に入らなければ拍手などで突っ込みいれてください。
生まれつきでもよかったのですが、ブリッツのことも少し絡めたいと思ったらこんな感じに。
この学校は障害者にも特別クラスを作り授業してくれる設定です。今はティーダしかいないですが。そこもティーダにとっては救いだったかなーと。二人と一緒の高校に行けて。
色々と独自設定とかありますが、ちょこちょこ調べた事も取り入れてます。何か不適切な表現とかありましたら教えてやってください……!
障害者向けのブリッツは音の鳴るボールとかを使ってると思います。サッカーとかもそういうのありましたよ……ね?水の中は地上より音が伝わるのも早いそうですし出来るかなーと妄想。
考えてはいるけれど本文には書かれていない設定もちょこちょこ……もっと上手くまとめられるように頑張りたいです……!