「ブリッツのためにこっちに来たのか?」
「そうッス! やっぱ強いチームが集まってる所でいっぱい練習して強くなりたいし、それに一人暮らしもしてみたかったし!」
そう言って先程道案内を頼んできた少年は屈託なく笑った。
どちらも本当なのだろうが、この年頃の少年にとっては口うるさく感じる親の元から離れてみたいという後者の方が重要なのかもしれない。
一緒に飯でも食おうぜ! と言ってきた友人の家に向かっている途中だった。
突然話しかけられて驚きはしたが、探している場所が自分の向かっている所だと知っては放っておくわけにも行かない。
この辺りに従兄弟が住んでいるらしいのだが、その従兄弟からの手紙に入っていたという手書きの地図が大雑把過ぎて困っていたらしい。
俺も見せてもらったが確かに酷かった。これから食事をする友人が書きそうだ、なんて思った。……まさかな。
「おにーさんは大学生ッスか?」
「あぁ、今から大学の友人と食事に行くことになってる……あと、クラウドでいい」
「あ……そッスか?じゃあクラウドっ!」
その人懐っこい性格や笑顔が、友人に良く似ている気がして訊ねてみた。
「その従兄弟の奴も大学生なのか?」
「そうッスよ~。優しくてカッコよくって! いっつも俺の事助けてくれて、一緒に遊んでくれて……だから従兄弟っていうより、兄弟みたいな感じッス!」
本当に楽しそうに話す彼を見て、こちらまで表情が緩む。
男に可愛いなどと言うものでもないだろうが、彼にはその表現が似合う気がした。
しかし、やはり雰囲気がよく似ている。例えるなら、あっちが大型犬でこっちが子犬だろうか。
「ほら、ここだ」
「おー!ありがとッス~クラウド!!」
俺の目的地でもあったマンションの前まで来ると、彼は俺の手を握ってぶんぶんと振った。
尻尾でもあろうものなら千切れるほど振っていそうだ。きっと耳もぱたぱたと動かして……駄目だ、幻覚が見えそうだ。
自分も一人っ子だから、弟がいればこんな感じなのだろうかと頭をわしゃわしゃ撫でながら思った。
そこでふと思い出す。そういえば、彼もよく言っていなかっただろうか。
『本当の兄弟みたいな従兄弟がいる』と。
大抵その話をする時はにこにこと嬉しそうに、まるで惚気話のように何度も語るものだから半ば聞き流していることが多かったし、彼もそれを咎めなかった。
――その従兄弟は将来有望なブリッツボールの選手だと言っていなかったか。
その従兄弟が今度引越してくるから、紹介するとか言ってなかったか。
まさか、まさか。
「おい、アンタの名前って……」
「あ、俺まだ自己紹介してなかったっけ!?俺は――」
「ティーダ!?」
よく聞き慣れた声がして、前を向いた。
そこにはスーパーで食材を買い込んできたらしい友人と、彼の知り合いであり大学のOBである三人がいた。
ゆっくりと隣を見ると、驚きに目を丸くした少年がいて、その顔がぱああぁっと輝いた。
「ザッぁぁクスぅぅぅぅ!!!」
「ティーダぁぁぁぁ元気だったかー!!」
走りよって飛びついた少年を抱きとめ、その勢いのままくるくると回転する友人―ザックス―は、紛う事なき彼の従兄弟だったらしい。
ざっくすーざっくすーと擦り寄って甘える、ティーダと呼ばれた少年はやっぱり子犬みたいだと思う。
呆気に取られているOB三人と俺を放って、しばらく二人は熱い抱擁を交わすのだった。
――――――
ビバ子犬!!