Don’t say!【R18】

 『ベッド行く?』
 そう聞かれて、ティーダは拒否できなかった。
 告白されて、自分の気持ちに気付いてからというもの、ずっとヴァンに触れるのを自制してきた。そんな胸の内をとうとう本人にも言ってしまったのだ。『本当は触れ合いたくて仕方なかった』ということを。
 確かに床に寝転んだままというのが居心地が悪かったといのもあるのだけれど、今や二人は両想いで、そんな二人が同じベッドに、なんて。
「へへ、んじゃベッドな」
「うわっ、わ!?」
「よっこいせーっと」
 そんなおっさんのような掛け声とともにティーダの体を抱え上げるヴァン。抱えるといってもお姫様抱っこなんて乙女チックなものではなく、荷物を運ぶみたいに肩に担がれたのだが。
「ちょっ」
「暴れんなって」
 力仕事が主なバイトをやっているから力があるのは知っていたが、こうも軽々と担がれるとティーダとしては少し悔しい。しかしベッドに降ろされる時の動作は先程とは正反対に優しくて、軋むベッドの音にどきりとした。
「……あれ?」
「ん? どした?」
「……あの、ヴァンくん?」
 ティーダをベッドに降ろし、その上に馬乗りになって、ようやくティーダから返事をもらえた事が嬉しいのかにこにことしているヴァンが首をかしげた。ベッドに転がされたまま、ヴァンを見上げながら恐る恐るティーダが訊ねる。
「……あ、あのさ……この流れ……オレが下……なの?」
「………………え、違うのか?」
 心底驚きましたと言わんばかりに目を丸くするヴァンにティーダはまた頭を抱えそうになる。
「あ、あのさぁ、オレだって一応オトコノコなの! その、そう簡単に主導権握られたくないっつーか……」
「んじゃ上がいい? オレはティーダの事好きだからどっちでもいいけど」
「うぐ……」
 そうはっきりと言われてしまうと、なんだか自分だけがこだわっているみたいで悔しい。ヴァンのストレートすぎる性格は、同じく真っ直ぐなはずのティーダをも戸惑わせるのだ。
「そ、そりゃオレだって、ヴァンならどっちでも……っん」
 もごもごと口ごもっていると口付けられる。最初はただ触れ合わせるだけの子供っぽいキスだったのに、次第に深くなるそれに思考は溶かされていく。ぐるりと口内を舐められてぞくぞくと快感が走る。
「は……ん、む?」
「んんっ……ちゅ、」
 離れようとしたヴァンの首に手を回して引き寄せる。お返しとばかりに舌を絡めれば僅かにヴァンの息も乱れる。
(もっと……)
 もっと触れたい。もっと触れて欲しい。自分の気持ちに向き合う間、ずっとティーダが我慢してきたその欲求が溢れて止められない。
 けれどそれはヴァンも同じで、お互い飽きもせずにキスを繰り返した。十分に堪能して離れると、口の端を伝う唾液をヴァンがぺろりと舐めた。
「……は、ふ……」
「ティーダがエロい顔してる」
「……ヴァンも人のこと言えねーっての」
 お互いに笑い合う。緊張が和らいでティーダも少し落ち着いたらしく、そろそろとヴァンの首へ回した手を動かして柔らかな髪を梳いた。
「そーいや結局どうすんの」
「なにが?」
「なにがって、ティーダが言ったんだろ。上とか下とか」
「……あーー……なんかも、どっちでもよくなってきたかも」
「じゃあさ」

 この時ほどティーダはヴァンの突拍子もない行動を止めておけばよかったと思ったことはない。

「ちょ、ちょちょ……ヴァン!」
「ん?」
「だからん? じゃなくてさあ! 何この状況!」
「シックスナイン?」
「疑問系!?」
 じゃあこうしよう、なんて言ったかと思うと、ヴァンはおもむろに体の向きを変え、ティーダの下半身の方へ手をついた。さらには衣服にまで手をかけ始めたのだ。
「どっちでもいいならさ、お互いにやりあって上手い方っつーか、なんか雰囲気で決めればいいかなって」
「いや、まぁその、あの……」
 確かにそうなのかもしれないが、気持ちを伝えてまだ一時間もたっていないしましてや初めてなのにシックス……なんてとティーダは恥ずかしさで顔が熱くなる。
 そもそも想いを伝えていきなり事に及ぶというのも速過ぎるのだが、お互い触れ合いたい気持ちを我慢し続けていたので今更やめることはできないだろう。今この瞬間だってティーダはヴァンに触れたくて、触れて欲しくて仕方ないのだ。
「そんな緊張すんなって。いつもゲームとかで競争してるみたいにさ、どっちが早くイかせられるかって感じでいいじゃん」
「~~っ、上等ッス!」
 もうここまできたら恥ずかしさなんて追いやってしまえ、とティーダは覚悟を決めると目の前にあるヴァンのズボンに手をかけた……所でふと止まる。
「なーヴァン、今までヴァンが上側だったんだから、今度はオレが乗っかっていい?」
「ん? いいけど」
 よし、と心の中で小さくガッツポーズして、ベッドの上に寝転がったヴァンの体に覆いかぶさる。キスとちょっとしたふれあいだけだったものの、ヴァンのペースに惑わされてばかりではティーダもオトコノコとして癪なのだ。
(上の方がやりやすそうだし……)
 今度はこっちが喘がせる番だと意気込むと、ティーダはヴァンのそれへと手を伸ばした。

 ――ティーダが下手なわけでは決してないし、ヴァンが特別上手いというわけでは、多分ない。のだが。
「ぁ、ふあ、あッ」
「んむ……ぷは……は、あ……、ティーダ大丈夫?」
「だ、……じょぶ……」
 口ではそう言うものの、ティーダのそれはもう震えて蜜をこぼすほどに張り詰めている。ヴァンのものも同じくらい硬くなっているとは言え、なぜかあまり息を乱さない。 不公平だと思いながらも乱れた息のままヴァンを銜え込むとびくんと大きく脈打った。
「っ、きもちい。ティーダ、はっ?」
「ん、ふ……聞かなくても、分かる、だろっ」
「確か、にっ」
「んんっ」
 つ、と指先で先端を撫でられてぞくぞくとした快感が背筋を這い上がる。とろりとした雫が滲むのが自分でも分かって、誤魔化すようにヴァンへの愛撫に集中した。
「っ、ん、……はは、ティーダは、こっちもっ……泣き虫だなー……っ! ってぇぇ何すんだよ!」
「わ、わざとじゃな……っつーかヴァンが変なこと言うからだろ! 馬鹿!」
 集中していたつもりだったのに耳はばっちりヴァンの発言を拾っていて、恥ずかしくて驚いた拍子に歯が当たってしまった。ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人は色気だのムードだのは微塵も気にしていないようである。
「もー、ちょっと萎えちゃったし、ティーダ先にイっとけよ。辛いだろ」
「え、いや、ちょ……ッ」
 有無を言わさずヴァンは愛撫を再開する。生暖かい感触に包まれるのが堪らない。ヴァンが触れたところはどこも熱を持ってティーダの体を苛んだ。
「ん、ん、っ……ふ……ぁッ」
 ティーダも萎えさせてしまったヴァンのものへと手を伸ばすが、快楽に翻弄されて上手くできない。力が抜けて、腰だけ上げた状態でヴァンの体へと体重を預けた。
「ヴァ、ン……ッ……――っ!」
「んっ……っ」
 ヴァンの腹に顔を押し付けて声を押し殺す。きつく吸うと同時に吐き出されたティーダの白濁を、ヴァンは驚きながらも受け止めた。震える呼吸のままティーダが恨めしそうにのろのろと振り返った。
「ヴァン……ってさ……はぁ……抵抗……ないわけ……?」
「んー……ないわけじゃないけど、ティーダだからいいかなって」
 口に残る粘液を手近にあったティッシュに吐き出すと、にこりと笑う。その笑顔を見るとやっぱりこんな卑猥な行為をしているなんて信じられない。ヴァンが言ったように、いつものように競争して遊んでいるようで、ティーダもつられて苦笑した。
「つーかさ」
「ん……? わっ」
 ティーダの体の下敷きになっていたヴァンが這い出たかと思うと、ベッドに転がされまたヴァンが覆いかぶさる。二人とも明るく人懐っこいので女子からも「かっこいい」よりは「可愛い」と称されることが多いのだが、熱を孕んだ瞳に真直ぐ射抜かれて「かっこいい」と思ってしまったティーダはなんとなく悔しい。
(ヴァンってこんな顔もするんだ……)
 普段のちょっと空気読めない、無邪気な笑顔とは違う。どこか男の色気すら滲んでいるような気がしてこくりと唾を飲み込んだ。
 けれどそれはヴァンの方も同じで。
(ティーダってこんな顔したっけ……)
 互いに見慣れぬ相手の色香に戸惑いながらも、ヴァンが先に手を伸ばした。
「……悪いんだけど……なんか我慢できそうにない」
「え……、あ」
 ふと視線を下に移すと、少し萎えていたヴァンのそれはもう力を取り戻していて。
「上やりたいって言うなら今度させてやるからさ、だめ?」
「……も、いいよ」
 そろそろとヴァンの首に腕を回して引き寄せる。僅かな諦めと羞恥。恥ずかしくて逸らしてしまいそうになる視線を真直ぐに向ける。ティーダの体はもう制御できないくらいにヴァンを求めてしまっていた。
「も……どっちでもいいから…………だから、……はやく、続き……っ」
 もっと触って、と。熱く耳に吹き込まれた囁きに、従わないわけがなかった。
「ぁっ……んん……!」
「くっそー……今のずるい」
 悔しそうに呟きながら体をきつく抱きしめる。無防備な喉元に噛み付くように軽く歯を立ててから舐め上げた。食べられる、と思ったティーダの体に期待と恐怖が入り混じったようなぞくりとした悪寒が走って無意識にヴァンの体を押し返そうともがく。
 漏れる吐息がヴァンの耳を心地よく刺激して、もっと聞きたいと制服の中に手を潜り込ませた。撫でるように手を滑らせて小さな突起へと辿り着く。軽く指先で触れ、反対側は服の上から唇で食む。
「ッ……や……ぁ……あ」
「おぉ、もうこっち元気になってるし……」
「~~るさいっ! っん」
 胸を弄るのとは反対の手がするすると体を下りて下腹部へと触れた。一度達したのにそこはもう力を取り戻し、軽く扱かれただけで甘い痺れが走る。
「ん、ティーダすげーびくびくなってる。気持ちい?」
「あ、あッ……だからっ……そ、いうこと……んんッ!! 言うな、ぁ……!?」
 張り詰めたものから手が離れ、それよりもさらに奥の窄まりに指が届いてティーダの体が硬直する。男同士でどうするのか、頭では分かっていても実際に……となるとどうしても恐怖がある。
「だいじょぶ?」
「多分……」
「無理なら今日はやめるぞ」
「……ぷっ、さっき我慢できないって言ったの誰だよ」
「オレだけどさ」
 むーと唇を尖らせるヴァンの柔らかな髪に指を絡ませてキスをした。ちゅ、ちゅ、と触れるだけのものを繰り返すとヴァンも応え始める。
 こうして触れ合うだけでもこんなに気持ちよくて幸せなのに、体をつなげたらどうなってしまうのだろう。不安と期待とを抱きながら、中に侵入してくる指の感覚に深く息を漏らした。

 ――しかしお互い初めての男同士の行為で、そうすんなり上手くいくわけがなくて。
 一度目は入れようと苦戦している所でヴァンが達してしまい、二度目は途中まで入ったもののティーダが上手く力を抜けずに痛みで断念。三度目の正直だと挑戦して――。
「いッ……あっ……あっ……」
「いてて……てぃーだ……」
「ん、んっ……ぅ」
 キスと愛撫とで緊張を解すようにしながら腰を進め、二人の体がぴたりとくっついた時、同時に深く息を吐き出した。
「はい……た……?」
「ん、入った……わかる?」
「だから、はずかし、こと……言うなばか」
 口では文句を言いつつも、快楽よりも幸福感の方が勝って笑いあう。いつも二人でじゃれ合うみたいに、互いの体を抱きしめた。
「んっ! あ……動く、ならっ……ん、言えよ……ひッ」
「ごめんっ……も、動く……動いてる、けどっ」
 ヴァンが動くのと同時に中にある熱塊が内部を圧迫するように動いて、快楽よりも苦しさで声が漏れる。前を扱かれてもまだ少し辛い。
「はっ……はっ……ぁッ」
「ティーダん中……熱い……っ……!」
 「あ、ぅ……ッ!」
 片足を抱えられ、限界まで繋がって、まだ足りないとヴァンが体を倒してティーダにキスをした。それに腕を回して応える。爪を立ててしまわないようにヴァンの服を握り締めて、苦痛の勝る揺さぶりに耐えていると。
「ッ、あ! や、あっ……!」
「つッ……あ……よ、かった……当たんない、のかと……おもった……」
 目の眩むような強い快感に襲われて息を乱すティーダを見て、ヴァンは少しほっとした表情を見せる。口にはしていないが、ヴァンだって相手を気持ちよくさせたいという思いがあるのだ。
 前戯の際に見つけていたそこを確かめると、今度はそこばかりを攻めるような動きへと変化してティーダが小さく悲鳴を上げた。
「ふあ、あッ……あっ、あっ……! ヴァ……ンっ……」
「う、あ……やば、い……かもっ……」
 その場所を突かれる度にぞくぞくと背筋を這い回る快感が思考を混濁させていく。何も分からなくなるのが怖くて必死に目の前のヴァンへと縋り付いた。
 互いの吐息を感じながらただ求める。もっと、もっと欲しい。足りない、こんなんじゃ。
「ひっ、……も、むり……ッ……も……く……イく……ッ」
「てぃ、だ……っ……オレも……!」
「んん、あッ……ぁ……んん――――!!」
 深く深く口付けて悲鳴は飲み込まれて、頭が真っ白になるほどの快楽の中でティーダは意識を手放した。

「なんでいちいち恥ずかしいこと言うんだよ!」
「いやつい……でも言ったらティーダちょっと気持ちよさそうだっ……痛っ」
「ばーか! ヴァンのばーか!」

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