ああ、なんでこんなことに。とフリオニールは心の中で頭を抱えた。
人通りの少ない夜道をティーダはすいすいと進んでいく。そのティーダに手を引かれながら、否応なく緊張してくる自分に軽くため息をついた。
そもそもの始まりは今日の放課後――。
――――――
「フリオ! ラブホ行こう!」
「ぶっ!! げほっ!」
昼休み、いつものように屋上で昼食を取っていた。普段はスコール達もいるのだが今日に限って皆部活や委員会などで顔を出していない。
「だいじょぶ?」
「げほ……お、おま……いきなり何を言い出すんだ! こんな所で!」
「誰もいないじゃん」
「そーいう問題じゃないッ!」
フリオニールがティーダの行動言動に振り回されるのは毎度のことだ。恋愛に関して初心なフリオニールは何かと仲間からもからかわれ易い。
ようやく呼吸が落ち着いたフリオニールを見ると、ティーダは嬉しそうにじゃーん! と言いながら何かを見せた。
「なんだこれ?」
「ラブホのめちゃお得なクーポン券、ブリッツの先輩に貰ったッス!」
なるほどそれを貰ったからか、と一瞬納得しかけるが慌てて首を横に振る。
確かに二人は付き合っているし、もう何度か――片手で数えられる程ではあるが――体を重ねてはいるけれど、恋愛に不慣れなフリオニールがそういう反応を起すのは当然と言えば当然だった。
「いつもオレかフリオん家だし、フリオってこういうとこ行った事ないだろ? 明日はガッコ休みだしちょうど良いじゃん」
「い、いや、それはそうだが! お、俺たちまだ学生だし、お金もかかるし、そ、そう俺はバイトがっ」
「だーいじょうぶだって! 相変わらずカタイっすね~。先輩なんか常連ッスよ常連。ちなみにここのホテルは先輩のお墨付き……あ、オレが誘ったからお金はオレが出すし、明日はバイト休みだったろ?」
「うぐ……」
しっかりとバイトの予定まで把握されていて他に言い訳が出てこない。
もちろんフリオニールだって一人の男であるし、ラブホテルなるものに興味がないといえば嘘になる。こう唐突に行く機会が訪れてしまうと心の準備が……と二の足を踏んでしまうのだ。
「やっぱりお前に全額出させるのは悪いし、だな……」
「んー……でもフリオは苦学生だし……あ、じゃあ今度行く時あったらその時はフリオが払ってくれッス!」
「あ、ああ、それなら……」
「おっし決まりー!」
「…………あれ?」
――――――
結局、放課後に一度家に帰って風呂に入り、私服に着替えてから二人でこうしてホテルへ向かっている。
(上手く言いくるめられてしまった……というかさらっと次の約束まで……)
一人悶々としながら歩いていると手を引くティーダがふと立ち止まった。
「……やっぱ嫌だった?」
困ったように笑うティーダが少し落ち込んでいるように見えて、慌ててぶんぶんと首を振った。ティーダは威勢がいいようでいて、時々こうして不安な顔を覗かせる。
「違うんだ、その……緊張するというか……」
その答えに安心したのか、ぷっと噴き出す。だーいじょうぶだって! といつものようにばしばしと背中を叩かれ、フリオニールもつられて笑う。
そうして少しだけ緊張が解けた頃、目的地に辿り着いたらしくティーダが立ち止まる。
「ここッス!」
「はー……見た目は意外と普通なんだな……」
「フリオってばお城みたいなのとかネオンびかびかなの想像してた?」
「…………」
「拗ねんなよーごめんってば!」
無言でいるとからからと笑われる。結局いつものように、しょうがないなティーダは、なんて思いながら手を引かれるままに中へと入る。
「誰もいないのか?」
「そーいうモンっすよ。お金は部屋で払えるし……部屋どこにするー? あ、オレここがいい。ここ決定ー」
「おい、俺に聞いた意味はっ」
「細かいことは気にしない!」
各部屋の写真が飾られたパネルの中から一つを選ぶと、出てきた鍵を受け取ってティーダはさくさくと部屋に向かう。
「随分と内装が凝ってるな……」
外観が意外とシンプルな作りだったのでそう感想を漏らすとティーダがくすりと笑った。
「そりゃー恋人同士で来るんだから、ビジネスホテルみたいに味気ないより豪華で雰囲気あるほうがいいっしょ」
そういうものか、と納得するが、『恋人同士』という所で急に意識してしまって忘れていた緊張が蘇ってくる。
ここは恋人同士の、『そういう事をするための場所』だ。そう考えるとじんわりと手に汗が滲むような気がした。
「とうちゃーく。おおー結構いい部屋ッスね」
淡いピンクを基調とした部屋は、やや薄暗い明かりに包まれてムードたっぷりだった。
部屋もフリオニールが思っていたよりは広く、テレビや冷蔵庫など一通り家具も揃っている。
「高そうに見えるが大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。おお、自販機発見!」
物珍しそうに部屋をきょろきょろと見回しながらティーダがはしゃぐ。そんなティーダを見てふとフリオニールが首をかしげた。
「……ティーダ、来るの初めてなのか? ……な、訳ないよな……」
入るときの慣れた雰囲気を思い出してまた首を捻っているとアメニティを物色しながらティーダが笑う。
「初めてじゃないけど、いつもよりいい部屋だからさ。女の子と付き合ってた時に何回か……あと先輩と一緒にふざけて泊まったこともあるし……」
「先輩……」
「してねーッスよ! 皆で騒いで遊んだだけ!」
暗に男は自分が初めてだと言われていて嬉しいような、過去にも誰かとこういう所に来たということに複雑なような、なんとも言えない気持ちになる。
自分のような人間が珍しいだけで、この年頃では恋愛経験などあって普通なのだろうとは頭では分かっていても。
そんなフリオニールの様子は気にせずばふんとベッドにダイブして転がるティーダ。今度はベッドの傍にあるテレビに目をつけ、適当に操作すると映像が流れた。
『あっあっ、そこぉ……! きもち、いッ……イくイくっ! イっちゃう……ッ』
「おま……お前なぁ……何見て……」
「AVチャンネルあったッス! ほらほら、フリオもここ座ってー」
ティーダはベッドに寝転んだまま、ベッドの横、テレビの見える位置に来るようにとシーツをぽんぽんと叩く。
「…………」
そんなもの見てないで俺を見ろだとか、見るんじゃなく実際にやったほうがいいだろとか、そんな台詞をフリオニールが言えるわけもなく。
言われるままにベッド横の床に座ると、目の前には画面いっぱいに映し出される男女の交わりあうシーン。部屋に響く女の嬌声がやけに大きくて、フリオニールは知らず目を逸らした。
「…………」
「…………」
なんだこの状況、と思わずつっこみを入れたくなる。
後ろでティーダがぱたぱたと足を動かす音がする。息遣いが間近に聞こえる。ちらちらと目の端に映るAV女優がティーダのように短い金髪でますますフリオニールを緊張させた。
「フリオ全然見てないッスね~。むしろAV見るのも初めてだったり?」
「いや、そんなことは……」
言いつつもやっぱり視線は正面を向かないまま、無意味に部屋の隅のほうを凝視する。
ふと、部屋に響いていた嬌声とテレビの明かりが消える。
シーツの衣擦れの音に思わず体が強張った。先程までベッドに転がっていたティーダが膝を抱えて座っているフリオニールににじり寄り、そっと後ろから首に腕を回して抱きついた。
「フリオの意気地なし」
「ティ、ぅひゃっ」
くすりと笑いながらティーダが耳を食む。突然の事に変な声をあげてしまい、羞恥で顔が熱くなった。
「ティーダ……ッ……ぅ、」
「相変わらず弱いッスね~。フリオが来ないならオレが上やっちゃおうかな」
楽しげに襟元から手を忍び込ませ、胸板に手を滑らせる。熱い吐息が耳と首筋をくすぐり、フリオニールを挑発した。
「フリオ……」
「っ……ティーダ!」
指先が胸の尖りに触れ、うなじに押し当てられる柔らかい唇に耐え切れずに後ろを向くとティーダが嬉しそうに笑った。
「へへ、やっとこっち向いた」
「……悪かったな意気地なしで」
「オレ、フリオのそいうとこ好き」
可愛くて、という言葉を飲み込んだティーダに導かれるようにベッドへと上がり、へらりと笑う唇にキスをした。
唇を啄ばむようなキスを繰り返すと、焦れたティーダが舌を差し込んでくる。触れた所からじんわりと甘い熱が広がるようで頭がくらくらする。
「んっ……ふ……」
「っ……ん、はぁ……フリオ……あのさ……んッ」
唇を離し、耳元や首、喉にもキスを落とすとティーダがくいと後ろ髪を引いた。
「痛た……あんまり引っ張るなって」
「ごめんごめん。あのさ、せっかくラブホ来たんだから、声気にしなくていいし、普段できないようなプレイもできるし、やりたいことあったら言えよ!」
フリオん家壁うっすいもんなーと笑うティーダにフリオニールは上手く返せない。と言うより、普段できないようなプレイってなんだ、という思考で頭がいっぱいだった。
「ほら、あそこにコスプレ衣装とか置いてあるし、手錠とかおもちゃもあるし」
「お、おまえそんなことしたいのか!? されたいのか!?」
「や、まあ普段そんなことしないしフリオがしたいんならしてもいっかなーって」
「普通でいいだろ普通でっ」
「いつもの『いいじゃないか、タダだし!』根性はどこ行ったんスか!」
「それとこれとは別だ!」
肩まで赤くして拒否するフリオニールに勿体無い、と唇を尖らせつつティーダは服を脱がしにかかる。
フリオニールもそれに習うが、お互い楽な服装で着ているためあっと言う間に生まれたままの姿になる。ぱさりと服が床に落ちる音がやけに大きく響いた。
「ふーりーおー」
「ん、む……」
お互い向かい合って座ると、ティーダが甘えるように首に腕を回してキスをしてくる。
フリオニールの足を跨ぐように膝立ちになり、積極的に舌を絡ませる。やることなんて分かりきっているから、フリオニールもキスに答えながらティーダの下肢に手を伸ばす。
「んッ……! は……ぅ」
「ティーダ……ッ、……こ、こら……俺はいい、からっ……あっ」
「フリオも……んっ……元気になっとかない、と……ッふ、……」
片手がフリオニールのものをそっと包んで刺激を与える。キスをしていた唇は耳をやわやわと食んで。
「ぅ……っく……」
「ふりお……そこ、の棚、ローションある……んッ、あ」
ティーダに言われるまま備え付けの小さなローションボトルを取り、中身を手にだす。ぬるぬると指に馴染ませ後ろへと伸ばすと、ティーダが余ったローションを手に取りフリオニールの胸板に塗りつけた。
「ひゃ……てぃ、ティーダっ……ぅ、あっ……」
「気持ちい、だろ……っ……! んッ……! ぁ、フリ、オ……」
ぬるりと撫でられて思わず声が漏れる。負けじとローションのついた指先で後孔をなぞり、つぷ、と侵入させるとティーダの体が強張った。
ローションの助けを借りた指はスムーズに中へと入り込む。胸や下肢への愛撫に翻弄されるが、きちんと慣らさなければ辛い思いをさせる。
「はっ……あ……ふり、お……ッ――あ、う……っ!」
指を増やしてぐっと拡げるように擦れば、縋り付くように首筋に顔を埋めた。くぐもった悲鳴に苦笑しながらまた指を増やすと、熱く短い吐息が何度も肌をくすぐった。
「っ……声、我慢しなくていいって言ったのは……おまえ、だぞ……」
「……っさい……! ばか……のばら……ッ……んーっ!」
いつも我慢してするのが癖になっているのか、唇を噛もうとするのを止めてキスをした。
「んん……ん、ふ……ぅ……」
ぴちゃ、といやらしい音を立て、互いの唾液が交じり合う。ふるりとティーダの体が震えて、そろそろかと指を抜く。お互いの愛撫でそれはもうしっかりと天を向いていた。
「ティーダ……」
押し倒して覆いかぶさる。柔らかなベッドは二人を優しく受け止めて小さく揺れた。
ほんのりと赤く染まった肌にごくりと喉が鳴る。足を緩く開かせ、自身をあてがったところでティーダが何かに気付いたようにわたわたと慌て始めた。
「フリオっ……ちょっ……ちょっとタンマ!」
「な、なんだっ?」
いざ、という時に止められて気が抜ける。ティーダもそれが分かっているのか、申し訳なさそうに目を逸らすとごにょごにょと口を開いた。
「あの、さ……えと……」
「どうした? 何か嫌だったのか?」
珍しくはっきりしないティーダを訝しんでいると、ちらちらとこちらを気にしているのに気がつき、やがてそれが自分ではなく、自分の後ろということに気付いて何気なく天井を見上げた。
「あ゛っ」
「…………なるほど」
天井には二人の姿が映し出されていた。そう、天井に大きな鏡が張られていたのだ。
「も、わかっただろ! この体勢じゃ自分の顔とか格好とか見えて嫌なんだよ!」
真っ赤になって怒るティーダが体を起そうとすると、それはフリオニールによって遮られた。
「え? んッ」
再びベッドへと戻されると深く口付けられる。鏡のせいで少し気が削がれたとは言え、キスだけですぐに体は熱くなった。
「ん、は……フリオ……だからこのか、っこ……?」
そこにきて、ようやく気付く。キスに夢中になっている間に、小道具の中にあったのだろう長い布で両手首を一纏めに縛られていた。
「ちょっ……! フリオっ!」
「手錠じゃ痛そうだったからな」
「さっき普通でいいって言ったくせに!! バカ! アホのばら!!」
「したいならしていいって言ったのはお前だぞ。それに……」
珍しく悪戯っ子のような、少し意地の悪い笑みを浮かべると、耳元に唇を寄せて囁いた。
「いつもからかわれてばっかりだから、仕返しだ」
「ッ――! あ、は……っ……ッ!」
ずっ、と入ってくる熱と質量に息が止まる。フリオニールの苦しげな息が耳に当たって、ぞくりと肌が粟立った。
「は、はッ……はっ……ぅ……!」
「ティーダ……動く、ぞ……」
「ま、って……ッ、あ、あ……んん!」
ゆっくりと抜かれ、ずんと強く打ち付けられる。今までにも幾度かフリオニールを受け入れているそこは、痛み以外の感覚をじわりと感じ始めている。
「んっんっ、あ……ッ……はッ……ぁ、あ」
「ティーダ……ッ……ぁ……はぁ……はッ」
縛られた両手は、軽く押さえられるだけで簡単に抵抗を封じられる。
普段から自分が誘わなければあまり手を出してこないフリオニールだからこそ、この状態が強引に襲われているように思える。自分が強く求められているような錯覚さえ覚えてしまう。
自由の利かない両腕を押さえられて、揺さぶられて、いつもより昂っていることにティーダは気付いた。
(……っんなので……興奮するとか……マゾかっつーの……っ)
それでも、耳を舐られ、喉元に噛み付くようなキスをされて、どうしようもなく感じてしまう。
「フリオっ……ふりおぉ……!」
「ッ……! ティーダ……いつも、より……すごい……な……あッ」
「そ、な……こと……ッ」
ない、と言おうとして、ふと目を開けてしまえばいやでも見えてしまう、フリオニールと、彼に揺さぶられて善がる自分の姿。
(なに、このかお……)
熱に浮かされたような、快楽に蕩けた表情も、女のように男を受け入れている格好も、気持ち悪いと思うのに。
(な、んで……こんなに……っ)
「ティーダ……ティーダッ……」
フリオニールに求められて、フリオニールの手でこうなっているのだと思うと、それだけでもう。
「ひッ……あっあっ……き……ち、い……ふりお……っ……は、ぁッ」
最初の頃こそたどたどしかったものの、フリオニールは回数を重ねる毎に指使いも腰の動きもあっという間に上手くなった。
いい所ばかりを擦られて堪らず腰がうねる。次第に速くなるスピードに何も考えられなくなる。
「……っりお……ふりお……ッ……も、い……も……い、くッ……あッ……あ、あっ……!」
「俺、もっ……ッ、う……く……! ぅあッ……!」
「あ、ああッ! あ、あッ……はっ……はぁっ……! あ、あ……」
自身を手で擦りあげられ、目の前が真っ白になるほどの快感に襲われる。ぶるりと震えた体から白濁が吐き出されると、体の中にも熱の奔流を感じて快楽が止まらない。
普段はフリオニールにしがみついたり、布団に顔を埋めて声を押さえ快感を散らすことが多い分、縛られ自由の利かない状態の絶頂は、いつもよりすぐ治まってはくれなかった。
「う……くぅ……!! は、はぁッ……はぁ…………てぃ、ティーダ……? 大丈夫か……?」
「ぁ……んッ」
ひく、と震える体は触れられるだけで声が漏れる。
フリオニールがはっと気付き、手を拘束していた布を解くと甘えるように手を伸ばして抱きついた。
大きな手に頭や背中を撫でられて、ようやく落ち着いてくると長く息を吐いてぽつりと言った。
「……きもちよかった」
「えっ!? あ、いや、あの……そ、それならよかった」
縛ったのはやりすぎたかと思っていたフリオニールも、その言葉に恥らいつつも安堵した。はにかむ表情が可愛いなぁなんて思いながら、ティーダもふわりと表情を和らげた。
しばらく余韻に浸るように抱き合っていたが、ティーダが風呂に行きたいと言い出したので、少しふらつくのを支えながらバスルームへと入った。
部屋もなかなかに凝っていたが、風呂の方も綺麗に整えられており、ライトアップされて雰囲気があった。
「へへー、一度やってみたかったんだよな~」
「なんだそれ?」
風呂に湯を張りながらティーダが液状の入浴剤のようなものを入れる。ふわりとバラの香りが漂ってくるそれをお湯の中でくるくると混ぜ合わせてしばらくすると、ティーダがにやりと笑った。
「ほらフリオ、触ってみ」
「ん……? うわっ、なんだこれ!」
「すげーだろ! ローション風呂! 家だと後始末とか大変そうだからさ~」
ただのお湯だったはずのものは、とろとろねばねばとした液体へと変化していた。それが浴槽にたっぶりと入っているわけで。
「ほらほら入るッス!」
「うわ、わ、ちょっと待って……っ!」
足をつけた瞬間、粘液に包まれてぞわりと鳥肌がたつ。
「おお、すっげー」
「こら、狭いんだから……!」
まだ片足を入れただけのフリオニールに対し、ティーダはさっさと浴槽へと入り腰まで浸かった。ぬるぬるの感触を楽しんでいるようで両手で掬い上げたり擦り合わせたりしている。
しょうがない、と苦笑しつつフリオニールも覚悟を決めて……というほどの物でもないのだが、浴槽へ腰を下ろした。
「っう……す、すごいな……」
ぬるりとした感触に包まれてなんとも言えない気分だ。浴槽は膝を折れば二人がなんとか入れるくらいの広さで、少し窮屈だった。
「へっへっへ、さっきはフリオにしてやられたッスけど、今度はこっちからいくッスよ~」
「お、おい何する気だっ! ぅわ……ひっ」
ティーダが一度立ち上がると、フリオニールの足を伸ばして上にまたがり体と性器を密着させるように抱きついた。ローションのせいで少し動いただけでもぬるぬると刺激され、体がびくつく。
「んッ……フリオ……っ、きもちい?」
「ば、ばかっ……うあっあ……! よせッ……」
フリオニールの首に腕を回し、胸を、性器を擦り付けるようにティーダが上下に動く。肩にまでローションを塗りたくり妖しげに笑った。
「っく、う、あっ」
「……っ、あ……こ、れ……思ってたよ、り……いい……ッん」
快感に翻弄されて浴槽の淵に捕まることしか出来ない。なんとか片手を伸ばしてティーダの背や尻を撫でるとびくんと体が跳ねた。
「あ、あ……フリ、おは……おとなしく……ッぁ」
「そうは、いく……か……ッ――!」
上下の摩擦だけでなく、片手で袋を優しく揉まれてたまらず体が震える。
二人で激しく擦りあい、たっぶりと浴槽にたまったローションがたぷんと揺れた。
「ッ、うあ……! あ、あ……はぁ……!」
「んんッ……! ん、ん……ッあ」
ぶるりと体を震わせて二人が達する。イったばかりで敏感な体をローションのぬめりが刺激してまた体が反応してくる。
「はぁ……っ……ふりおー、出よー……これやばい」
「あ、ああ……」
浴槽から出ても体から滴り落ちるぬめりをシャワーで洗い流す。浴槽の方も簡単に後始末をして一息つくと、二人同時に笑った。
「ははっ、すっごかったッスねーローション風呂」
「確かに普段はできなさそうだな、あれは」
「またやりたい?」
「……いや、ちょっと、どうかな……」
苦笑するフリオニールにティーダが抱きつく。まだ甘えたいのだろう。ちゅっと音を立てて何度も耳元や首にキスを落とす。
「もっかい……するか?」
「んー、する」
嬉しそうに笑うティーダを見ていると、フリオニールも幸せな気持ちになってくる。
体を繋げるだけではなく、こうして触れ合っているだけでもこんな気持ちになれるなんて、フリオニールもティーダも、お互いを好きになって、付き合うまで知らなかった。それほどまでに互いが好きあって、溺れている。
「立ったままで大丈夫か?」
「ん、だいじょーぶ」
「じゃあそっちの壁に手をついてくれるか?」
「後ろから? 珍しいッス……ね」
幸せな気分のまま、恋人のリクエストにしょうがないな~なんて思いながら壁側を向いたティーダは笑顔を引きつらせた。
「さっき随分とよさそうだったから……」
(ま た 鏡 か)
壁に取り付けられていた全身鏡に気付き、いい加減にしろ! と怒りたかったのに、後ろから体をやんわりと押さえられてどきりと心臓が跳ねる。まだ柔らかい後孔に指を突き入れられて背がしなった。
「あ、はッ……」
「大丈夫、そうか?」
「……ッそ……フリオのあほ……バカのばら……! 変態ッ……!」
「なっ! さっきあんなに締め付けてきたくせ」
「あーあーあーあ聞ーこーえーなーい!!」
「…………本気で嫌ならやめるが」
「…………」
その問いにばか、とだけ返すと後ろから指が引き抜かれ、代わりに熱塊が押し付けられる。
肉を押し広げながら入ってくる熱塊に悦ぶ体が浅ましいと自分でも思う。
それでも止められない。フリオニールに抱きしめられることが、求められることがこんなにも嬉しい。
そしてフリオニールも、ティーダと同じような気持ちだった。
「ん、あッ……ぁ……フリオ……っ……はげ、し……ッ……あ、は……」
壁に手を突いて腰を突き出した格好が恥ずかしい。腰を掴んでいたフリオニールの片手が切なげに揺れるそれに触れ、優しく扱かれて蜜を零した。
「ティーダっ……はッ……すごくっ……いい……お前の……ぅ、く、」
肌と肌がぶつかり合う音、結合部から聞こえるいやらしい水音、二人の荒い呼吸がバスルームに反響して聴覚まで犯される。
切なげなフリオニールの喘ぎに誘われるようにのろのろと視線を上げれば、鏡に映る自分とフリオニールの姿が見えた。
(あ……バックの時って……こんな顔、してんだ……)
普段では見ることの出来ない表情。後ろから一方的に突くという動物めいた体勢に征服感を刺激されるのか、正常位よりも欲情した、獰猛な色を宿した瞳にどくんと心臓が跳ねた。
(……やば、い、かも)
どくんどくんと心臓が激しく暴れだす。体がかあ、と熱くなってフリオニールを締め付けてしまう。あんな瞳を見てしまったら。あんな瞳で見られていると思ったら。
「あ、はあッ……んっんっ……ん、! はッ……ああッ」
「っく……あ……はあっ」
意思に反して体は勝手にフリオニールを締め付け、腰が揺れる。体に灯った熱を抑えきれないでいると、背後からフリオニールが覆いかぶさるように抱きしめてきた。体が密着して、堪らず熱い吐息を漏らした。
「はっ……はっ……ふ、りお……?」
「ティーダ……すごい、どきどきしてるな」
「っ……」
「おれも、だ……ティーダの顔を見たら……」
密着した肌からティーダもフリオニールの熱と鼓動を感じる。同じようなことを考えたのが、ちょっとだけ恥ずかしくて、嬉しくて。
「ふり、お……き……すき……ッ……あ、あっ……もっと……ッ!」
「っ……ティーダ……!」
「ぅあ、あ……!」
片足を抱えられ、より挿入が深くなる。いくら支えられていても片足で立つのは辛くてがくがくと膝が笑うのを堪える。
それでも容赦なく感じる場所を突き上げられて、それがたまらなく気持ちよくて。
「……ッ、りお……! あッ……あ、あ……っぅ……む、り……も……むり……あ、はッ……」
「……はぁッ……く、うッ……ティ、ダ……ッ俺も……!!」
すきだ、と耳に囁かれた声が快感へと変換されて、びりりとした甘い電流が全身を駆け巡った。
「あ、あ、ああぁ――――ッ!!」
それでもう限界だった。フリオニールの呻き声が聞こえて、吐き出された白濁が鏡にぶつかり伝い落ちるのをぼんやりと見ながら、ずるずると床にへたり込む。
大丈夫か、と心配そうにフリオニールが体を支えるように抱いてくる。その優しい手が嬉しくて、思わず頬が緩むのだった。
――――――
「ん……ぁ……?」
目を覚ますとベッドの上だった。天井には相変わらずあの鏡があって、顔をしかめる自分が映る。何だか憎らしくてべ、と舌を出した。
声の擦れた喉をさすりながら気だるげに首を動かして時計を見ると朝の七時を少し回った所だ。チェックアウトまではまだ時間がある。
あの後、中のものをかき出して、体を拭いて、ベッドを適当に整えて――なんとかそこまで記憶があった。といってもやっていたのはほとんどフリオニールだったのだが。
フリオニールはと言うと、隣ですやすやと寝息を立てている。幸せそうな寝顔をつついてもむにゃむにゃと寝言を言うだけで起きる気配はない。
(まぁいっか)
またそのうち来てみたい――ただし、鏡のない部屋に――と思いながら、眠るフリオニールの鼻先にキスをした。