「イシュガルドへ? 俺達が?」
「はいでっす! 南ザナラーンに行かれたアルフィノ様達が、蛮神召喚の前にクリスタルを回収されまっした。イシュガルドから流れたものらしくて、サンクレッドさんを代表として返還に行くのでっすが……」
「その護衛をってことか。まあいつかみたいに、また道中で強奪されちゃ困るもんな……」
「その通りでっす、よろしくお願いしまっす!」
イシュガルド――長い間ドラゴン族と戦争を続け、エオルゼア都市軍事同盟からも離脱していた国。蛮神シヴァへの対策の時も、一時的に訪れたことはあるのだが。
「……豪雪地帯だからなぁ……寒いのは苦手だ……」
「大丈夫でっす! シヴァの時は間に合わせの品しかお渡しできませんでっしたが、今回の防寒対策はばっちりでっす! 資金繰りが厳しくとも、そういうところもきちんとしていきまっす!」
「……逃亡中の資金とか尋問受けた時の慰労金とか……」
「ぼ、ボーナスはもうちょっと後でっす!」
あわあわと慌てふためくタタルに苦笑いしつつ、ウ・ザルとアレンヴァルドは暖かそうなコートを受け取った。
「さっっっっっっっむ !!」
「このコートなかったらやばかったな……」
「お前ら大丈夫か? 集団に来られたらさすがに俺も対処しきれないからな、頼んだぜ。特にウ・ザルは目がいいんだ、怪しい奴を見逃してくれるなよ」
「了解……」
砂漠生まれのウ・ザルにとって、万年雪が積もるクルザスの気候はかなり堪える。小柄な身体をさらに縮こまらせた友人に、アレンヴァルドは出発前タタルが持たせてくれた温かいコーヒーを手渡した。入れ物はガーロンド・アイアンワークスの社員が趣味で作った水筒らしく、小さな穴からファイアシャードを一粒入れればしばらくの間温かさを保ってくれるという優れものだ。
「あったけぇ……」
「ギラバニアも陽射しが強くて夜は寒かったけど……雪の寒さとは比べ物にならないな」
「寒すぎて最悪だ……」
『おいお前ら、ちゃんと仕事しろよ』
前を行く幌付きのチョコボキャリッジに乗っているサンクレッドからリンクパール通信が入る。地獄耳め、と思いつつ、二人も幌に覆われた荷台の中で前後に分かれて見張りをした。
クリスタルの殆どは、前を行くキャリッジに積まれている。後列であるウ・ザル達のキャリッジは移動の間必要になる最低限のものがあるだけで、二人が乗っても余裕があった。
モードゥナからキャンプ・ドラゴンヘッド、そしてイシュガルドへと続く道は見晴らしは悪くないが、雪に覆われ急勾配だ。高低差がある故に、身を潜められる林や崖の上に見張りでもいれば、こちらの動きは丸わかりだろう。
何を積んでいるかまでは悟られないものの、金目のものなら何でもいいような野盗や、物資を求めるイクサル族がいつ現れてもおかしくはない。
ちりりとした感覚が項を走る。ウ・ザルの視線がすいと進行方向の右手、林の奥に向いた。寒さを忘れて目を凝らす。
「……いる」
『右か?』
「イクサル族……一体だ。多分、仲間に合図を送ってる」
『ウ・ザルはそいつを頼む。アレンヴァルド、出られるな。さっき北西の林で動きがあった。俺の合図でいつでも前に出られるようにしとけ』
「は、はい!」
手狭な幌の中でも扱えるよう中型の弓を持ってきていたウ・ザルは、矢をつがえた。
「御者さん、ちょっと矢撃ちますけどびっくりしないでくださいね」
「はいはい、大丈夫だよ」
チョコボキャリッジを操る御者の男にそう告げると、慣れた様子で返事をする。友人と同じ黒肌のルガディンの男は、大らかそうに見えて荒事に慣れているらしかった。
ウ・ザルが弓を引き絞る。ひゅ、と風を切る音と共に、サンクレッドの指示でアレンヴァルドが外に飛び出た。
「――よし」
一発。見張りのイクサル族が倒れたのを確認し、視線を巡らす。前方、そして荷台の後方からも他に見張りがいないことを確かめると、前方のキャリッジを護り戦う二人の元へ急いだ。寒さで手がかじかむのを耐えながら、アレンヴァルドをボウガンで狙うイクサル族に矢を放つ。
サンクレッドが敵の間を縫うように走り、仕留めていく。混戦の中、アレンヴァルドやサンクレッドに決して当たらない絶妙な距離感で、ウ・ザルの矢が後方の敵を貫いていった。
「腕を上げたな」
「ども」
「アレンヴァルドも」
「俺は、敵を引き付けるのだけで手一杯で……」
「それが盾役の仕事ってもんだ。その調子で頼むぞ」
戦闘において暁の中でも抜きんでているサンクレッドにそう言われ、少々照れくささがある。止まっていたキャリッジに乗り込むと、御者の男は朗らかに笑いながら二人を迎えた。
「いやぁ強いねお兄さん達」
「……御者さんも場慣れしてますね。こんな道なのに揺れなかったんで助かりました」
「おじさんはしがない行商人だよ。まぁ、昔はやんちゃもしたもんだけどね」
御者ではなく、行商人が荷運びの手伝いをしてくれているのだろうか? ウ・ザルとアレンヴァルドは怪訝そうに顔を見合わせた。その様子に男は肩を揺らして笑う。曰く、行商人はしばらく休んでいた。再開のため元手の商品を買い付ける前に古い伝手に頼られ、この仕事を引き受けたのだと。
「娘が独り立ちしてね。手が離れてしまって寂しいが、なんだかんだでずっと働き詰めだったから、妻としばらくラザハンでのんびりしていたんだよ」
「へぇ、いいですね旅行」
「ラザハンは暖かい地方だっけ……行くならそういうとこがいいな」
「うんうん、良いところだったよラザハンは。もうしばらくいてもよかったんだが、イシュガルドの竜詩戦争が終わったという話が飛び込んできたんでね。私達の仕事は小さいが、復興の一助にもなれる。そういうタイミングなんだと思って戻って来たのさ」
「……儲けのためじゃなく?」
「一挙両得ってことだよ」
わっはっはと笑う御者に、二人もなんだかつられて笑う。どことなく雰囲気が友人に似ている不思議な人だった。
「世話になったな」
サンクレッドが御者へ代金を引き渡しているのを横目に、イシュガルドの神殿騎士団と共に荷を下ろしていく。騎士達がそれを次々と備蓄庫へ運んでいった。目録と荷の確認をしてもらった後、自分達も御者へ挨拶しようと戻ると。
「あなたばっかりあの子達と話してずるいよ。私も話を聞いてみたかったのに」
「わはは、そっちは色男と一緒だったじゃないか」
「でも手紙にあったより随分大人し……あ」
前のキャリッジに乗っていた女性がぱっと顔を輝かせて近づいてきた。緩くウェーブがかかった群青色の髪は、これまた友人を思わせる。石膏像のように滑らかな美しい白肌は、もう一人の御者――夫と正反対だった。
「あなた達、『暁』の人なんでしょう? 『英雄』とはよく話す?」
「えっと、まぁ、最近はあんまり会えてなかったですけど」
「……友達です」
二人の言葉を聞いて、女性はなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「そっかそっか、うんうん、友達がいるのはいいことだ。腕っぷしもいいみたいだし、私達も安心して商売できるってものだね」
またも怪訝そうに顔を見合わせることになったアレンヴァルドとウ・ザルに、女性はふわっと軽くハグをした。
(うわでっか)
(柔っ)
「エオルゼアと英雄のことは頼んだよ、暁の青年達!」
からからと満足そうに笑うと、女性は軽やかに夫の元へ戻っていった。
神殿騎士団本部の周りには、いつのまにか人だかりができている。戦争が終わり、政治が変わり――物流や各国からの支援も安定してきたこともあり、炊き出しが頻繁に行われるようになったのだという。
ぼんやりとしていた二人は慌てて邪魔にならないように、人の波から離れる。
「バルドバルさんじゃないか !? いやぁ何年ぶりだ、霊災直後は世話になったな!」
後方から聞こえた声に、二人は同時に振り返る。その大きな後ろ姿は目立つものの、既に人だかりの奥へと行ってしまっていた。顔を見合わせる。この親にしてこの子あり――そんな言葉が脳裏を過り、肩を竦めて笑った。
「俺は用事があるからすぐに戻るが、今急ぎの案件はないからな。たまにはお前らも息抜きしてこい。……あぁ、テレポ代はタタルに言ってくれよ」
サンクレッドはそう言うと、さっさと歩いて行ってしまった。
「……うん? 歩き?」
「寄り道でもするのかな」
すぐに戻ると言った割にテレポを使わなかったサンクレッドの背を不思議そうに見送る。彼がエーテルを上手く扱えなくなったと二人が知るのは、石の家に戻った後のことになる。
イシュガルドについて何も知らないに等しい二人だったが、それなりに長く身を隠しながら戦う日々が続いていたことに加え、年相応の好奇心が勝り、街中をぶらつくことにした。
「どうする?」
「んー……とりあえず」
飯! 二人の声が綺麗に重なった。
下層から上層の商店街まで続く道の間にも、小さな店がいくつか並んで食欲をそそる匂いを漂わせている。
二人とも出で立ちは一般的な冒険者といったところで、高そうな店には――そもそも場違いであると気が引けて入ろうとも思えないのだが――入れそうもなく、庶民的な金額の看板が出ている店を選んだ。中に入れば室内はしっかりと暖かく、漸く二人は、特にウ・ザルはほっと一息ついた。
寒い地域らしく、煮込み料理が盛んだというイシュガルドでは、定番のクリムゾンスープや、オニオングラタンスープがおすすめだと店員が言った。
その他にもオーブンでじっくり焼き上げたというフリカデレ、ライ麦を使ったナイツブレッド、食後のイシュガルドティー……と次々注文する。移動と戦闘とで疲れている上、二人はまだまだ食欲旺盛な若者だ。店主も作り甲斐があるよ、と笑っていた。
「あっっつ……でも美味い……」
「具だくさんのスープっていいなぁ」
ウルダハの騒動以降暁の嫌疑が晴れるまではまともな活動資金を稼げない――そもそも表立って歩きにくい状況でもあったため、食事が質素になりがちなのは仕方のないことだった。ここしばらくは改善されてきたものの、久方ぶりの豪勢と言える食事に二人は心ゆくまで舌鼓を打った。
一通り食事を終え、ウ・ザルには少々甘すぎるイシュガルドティーで一息ついていると、ふと壁に貼られているチラシに目が留まった。
「どうしたウ・ザル?」
「んー……下層の復興事業だって。総監……フランセル・ド・アインハルト……」
「……あ、もしかして飛空艇の時の?」
アレンヴァルドは元々字が読めなかった。今でこそウ・ザルやタタルに教えてもらい読めるようにはなったものの、まだスラスラとまではいかない。こういったチラシやポスターを見た時、ウ・ザルが読み、話をしながらアレンヴァルドも目を通すのが通例になりつつある。
「そうそう、報告書にあった名前。竜詩戦争の報告書だと、もう一人の騎士の方がよく出てたけど」
復興事業を知らせるチラシには、魔物の素材を採って来られる冒険者や採集業、製作業、とにかく人手が必要であることが書かれている。もちろん報酬も出るとあるが、実質義勇兵みたいなものだろう。まだ計画が立ち上がったばかりのそれは実際の作業は先になるようで、早いうちから宣伝を打つのは当然のことであった。
「うーん、冒険者ギルドでもまだ聞いてないよなこの話……すみません店長さん、このチラシ他にもありますか?」
「おや、どこかに持って行ってくれるのかい? フランセル坊ちゃんも喜ぶわぁ」
「……ギルドに持ってくのか?」
「せっかく近いんだし、それこそ片手間に職人やってる奴も結構いるし……な」
「ふーん?」
それだけじゃないだろ、とウ・ザルは友人としての直感でアレンヴァルドを見る。彼もそれをわかっているのだろう、チラシにゆっくりと目を通しながら、何と言ったものかと考えを巡らせているようだった。
少しの間を置いて、アレンヴァルドは自分の考えを言葉にしていく。
「……俺はさ、イシュガルドのことは全然知らないけど、貴族と平民って階級があって、下の奴らは苦労してって話を聞いて……アラミゴのことを思い出して少し苦手だったんだよ」
他の国でも貧富の差というのは当然ある。だが帝国の圧政下に置かれ階級を定められるアラミゴと、古くからある貴族制のイシュガルドとでは毛色が違うものの、階級による差別があるという共通点が、アレンヴァルドの心に重苦しいものを齎していた。
「けど……ウ・ザルもさっき見ただろ? 下層の人達……笑ってる人が多かった……政治も庶民院っていうのができたらしいし……戦争が終わって、国も少しずつでも変われるんだなって思って。そしたらこのチラシだろ。たくさんの人が国を良くしようと頑張ってる……なんか他人事に思えないっていうかさ」
「……アラミゴはきな臭いことになってるもんな」
アレンヴァルドは頷く。今回のクリスタルを回収するきっかけとなったのは、鉄仮面なるアラミゴ解放軍で台頭してきた男が企てた策によるものだという。
よりにもよって故郷を苦しめてきたアマルジャ族にクリスタルを渡し、見返りに傭兵として使おうとしていたなどと言うのだ。ウ・ザルがその話を聞いた時には思わず尻尾の毛が逆立つほど憤ったものだった。
急進派と見られるその鉄仮面が力を得るために蛮神召喚に手を染めようものなら、アラミゴに残された市民たちがどうなるか。あまり考えたくもないが、彼らが下手を打てばアラミゴだけでなく、エオルゼアにも戦渦が広がることになるだろうというのは、ウ・ザルやアレンヴァルドにもわかる。
だが、悲願である故国奪還を目指す人々の熱は確かに本物なのだ。
「……もし……もし暁がアラミゴに関わることになったら、俺は真っ先に手を挙げようと思ってるんだ」
「……故郷のため?」
チラシから顔を上げたアレンヴァルドは、苦笑した。
「そりゃ、いい思い出なんて何もないよ。差別はされたし、親にも捨てられるし……仮に平和になっても、住むことはない、と思う……だけど……俺には確かにアラミゴ人の血が流れていて、生まれ育った場所だから……やっぱり放っておけないし、俺みたいな奴が生まれない、何にも怯えず暮らせる場所になればいいって思う。イシュガルドみたいに変わっていけたらって……変か? こういうの」
「……いや、わかるよ」
アレンヴァルドが、イシュガルドのことを他人事と思えないと言ったように。彼の話を聞いて、ウ・ザルもまた、どこか他人事とは思えない感情を抱いた。
「俺がオアシスを出たのだって、碌なことがなかったからだよ。……でも、だからってあいつらが酷い目に会えばいいとか、なくなっちまえばいいなんて、思わない。普通に――暮らしてれば、それでいいって思う」
「……そうか」
少し、安心したような友人に、ウ・ザルもどこか安堵を覚えた。
――故郷。冒険者になった今でも、それは変わらない。
たとえ帰りたいと思うことはなくとも、良い思い出がなくても、確かに自分はあそこで生まれ、あそこで育った。たったそれだけのことなのに、他の土地とは比べられない、特別な場所。そう感じるのが自分だけではないのだと知って。
「……ま、暁が給料さえちゃんと払ってくれたら、アラミゴでもどこでも行くけどさ」
「ウ・ザルも協力してくれるのか?」
「……危なっかしい友達が二人もいるとなぁ」
「ははっ、頼りにしてるぜ親友」
「……最近ちょっとハルに似てきたな、お前……」
上層の荘厳な大聖堂や、下層にある大規模なチョコボ厩舎など、二人で当てもなく観光するのは思いのほか楽しいものだった。
「あそこは何だろうな?」
「……なーんか知ってる雰囲気な気が」
機械油の臭いと、金属の音。暁にもよく関わっているガーロンド・アイアンワークス社。その作業場とよく似た空気を纏った建物が、聖大厩舎の側にある。二人で近づき窓から覗けば、予想通り機械類に囲まれた部屋で、数人が作業をしていた。
「……スカイ、スチール、きこうぼう……と……? き、こうし、募集中?」
「リムサ・ロミンサの銃術士みたいなもんか。銃が輸入物だから一般には解放されてなかったと思うけど……ここでは作ってるんだな」
ゆっくりと看板を読み上げるアレンヴァルドの横で、ウ・ザルはふむとクリスタル移送中のことを思い出す。
弓という武器は威力や飛距離を求めると、サイズが大きくなりがちだ。そして射るためには腕力を、狙った場所に真っ直ぐ飛ばすには技術もいる。
その点、銃という武器は、引き金さえ引ければたとえ子供であっても簡単に人を殺傷し得る力を秘めている。モノにもよるのだろうが、弓のように大きすぎず、弓引くための空間も必要ない。つまり、狭い場所でも弓より扱いやすい。音が軽い分気付かれにくいというのは、弓に軍配が上がるのだが。
(……とはいえ……)
弓は、矢にエーテルを乗せることで多彩な攻撃ができる。そして――ウ・ザルとしてはあまりやりたくはないのだが――弦を爪弾き、戦歌という特殊な歌を歌うことによって、仲間の力を増幅させる術もウ・ザルは獲得している。
銃はどうだろうか。人の力を必要としない分、余計な力を与えようとすれば暴発するのではないか。そしてもちろん戦歌は使えない。
(……銃だけじゃ駄目だな)
幌を張ったチョコボキャリッジから敵を狙った今日、もし持っているのが銃であったなら、より集中して挑めたようにも思える。だが弓と比べた時、総合的にはやはり銃のみでは劣る。惜しいとは思うが、懐に収まるような小型の銃でもあれば役に立つのでは、と考えていたところに、後ろから明るい声が聞こえた。
「その風格、その出で立ち……俺の計測器が君にビビっときたよ。気になるんだろう? 機工士のことが!」
「……どちら様?」
「俺はステファニヴィアン・ド・アインハルト。この機工房のギルドマスターさ! 君は銃の有用性に気付いている……俺の計測器はそう告げてるね! さあさあ中へ! 懇切丁寧に教えるよ!」
おいおい、と思う暇もなくアレンヴァルドと共に背を押されて中へ連れていかれる。そこで聞かされた説明は、今まさにウ・ザルが考えていた、『銃のみでは戦力不足』ということに対する回答であった。
「機工士は銃を主として戦うけれど、この『機工兵装』でエーテルを雷属性に変換して、様々な『機工兵器』を操るのが特徴だ。例えばコレ!」
丸みを帯びた機械をステファニヴィアンが放ると、羽を回して宙に浮き、周囲に雷属性の攻撃を発生させた。
「へぇ……」
「銃で戦いながらエーテルを変換させるのか? うーん、俺はそこまで器用にできないな」
「兵器は他にも色々あるぞ! 銃だって、アタッチメントを取り付けて貫通力を高めたり、気付かれないよう音を小さくしたり……特殊な弾を使い分けて戦うこともできる。整備の手間はあるが、なぁに、他の武器も似たようなもんだろう?」
に、と笑ったギルドマスターはウ・ザルのことを見ている。騎士のように訓練を受けていない平民でも戦えるようになる――彼の先見の明は下層の自警団という存在が証明した。ウ・ザルを見つめるその目は多分もう気付いているのだろうし、ウ・ザルも静かに心を決めた。
「アレンヴァルド、悪いけど先に帰っててくれ。それと、緊急なら戻るけど、タタルさんに一週間帰らないって伝えて」
「……やるのか?」
ウ・ザルは耳をぱたんと動かして、少し意外そうな顔をしている友人に告げる。
「もしアラミゴに行くことになったら、相手は帝国だろ。……魔導兵器にも応用できそうだし……多分、役に立つぞ、これ」
「――あぁ、わかった。ありがとな!」
自分の故郷の戦争に、友人が関わる。そのことを心苦しく思いながらも、――素直には言ってくれないが、力になろうとしてくれているウ・ザルに、アレンヴァルドは笑顔を見せた。
「うーん、いい目をしてるね。しかし、一週間でよかったのかい? 冒険者なら戦う術はすぐ身に着けてしまうだろうが、メンテナンスができないと機工士の戦力は半分になってしまうからね。やりやすいように作ってはいるけど、簡単ではないよ?」
ウ・ザルの希望で早々に銃の試し撃ちをさせながら、ステファニヴィアンが訊ねた。弾を込める、エーテルを充填させつつ、狙いを定めて引き金を引く。雷属性に変換したエーテルを、兵器に流し込む。一つ一つの動作を確認しながら、ウ・ザルは先ほどステファニヴィアンがそうしたように、にっと笑って見せた。
「扱える武器は多いに越したことはないですし……まぁ、色々あったんで、器用さには自信ありますよ、俺」
「……いいね、ますます気に入った!」
そうして、新たな戦い方を獲得し、アラミゴ解放戦争を駆け抜けることになる彼は、やがて『死神』の二つ名を得ることになる。