11.幕間:とこしえの絆に寄せて

 オルシュファンは心底絶望していた。親友の命を救い、オルシュファンの心をも救い、友になったあの人はあれから度々この地を訪れている。それ自体は大変喜ばしいことだ。
 ――その時に限ってオルシュファンが不在であったということを除けば。
「何故……何故だ……ヤエル……コランティオ……」
「うーん異端者の動きが何やら活発ですし……」
「邪竜の眷属も本格的な活動期の兆候ありという話ですし……会議や呼び出しが増えるのも仕方のないことかと……」
「どうせお偉方の意見だけで殆ど終わるのだ、私が出向く必要もないはずなのだがな !?」
 自身の役職とその責務を誇りに思い、真摯に働くオルシュファンではあるが、こうも友とのすれ違いが続くと機嫌を損ねるものらしい。唸りながらも書類には目を通しているのだから、真面目なものだが。
「オルシュファン様、軽食をお持ちしましたよ」
「あぁ……ありがとうメドグイスティル……」
「あらあら……随分落ち込んじゃってますね……」
「そうなのよ……メグ、後で温かい飲み物でもお願い」
「それもいいですけど……ふふふ、私すごいもの持ってきたんです! 見てください!」
 じゃーん、と声に出しながら、メドグイスティルは一本のワインを見せた。
「それは……聖ダナフェンの美酒ですね?」
「そうです! これをどなたが持ってきたと思います?」
 目を丸くしたままのオルシュファンにそれを手渡すと、その指先はラベルをそっと撫でた。
(ははぁ……さてはオレールの心遣いね)
(あの方も相変わらず粋な計らいをする)
 イシュガルドの文化に詳しいわけではない『彼女』が自らこれを用意したとは考えにくい。となれば誰がこれを手配したのか、オルシュファンとてそれは既に気付いているだろう。
 それでも、『彼女』がこれを持ってきてくれたという事実は、彼にとって意味があった。
(あら……あらあら……)
 メドグイスティル達は、自分の主人の様子を見て大層驚き、そして微笑んだ。
 あの人から貰ったと言えば大興奮するだろう、というメドグイスティルの予想とは裏腹に、その反応は静かなものだった。それはあたかも聖ダナフェンの落涙のように。密やかに流れ出て、泉のように心を満たしているのだろう。
「オルシュファン様……今夜はそちらを開けますか?」
「いや、まだ保管庫に入れておいてくれ」
 あいつが来た時開けるとしよう。そう言って彼は、年若い少年のように笑った。

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