山の都イシュガルドを臨む丘の上で、彼女は慰霊碑の前に佇んでいた。
「ハル!」
その後ろ姿に声をかけた親友フランセルは、少し息を切らせていた。余程急いできたのだろうことが伺えるが、あちこち飛び回っている冒険者の親友相手だと、会える機会を逃してなるかと焦るのは無理からぬことだろう。
「フランセル! シュファンに会いに来たの?」
ハル。ハルドメル・バルドバルウィン。エオルゼアの英雄、竜詩戦争を終結させた者、紅蓮の解放者……人によって呼び方はまちまちだが、彼女が一番喜ぶのは、親しみを込めたその名だった。
「復興用資材の検閲の件でドラゴンヘッドに立ち寄ったら、キミが来たって聞いたから。もちろんオルシュファンにも会いたかったし」
「そっか。行く前に会えてよかった。蒼天街のことで忙しそうだから、会うかちょっと迷って」
「遠慮なんかしないでよ。僕も彼も、いつもキミに会えるのを楽しみにしてるんだから」
いつものように、二人は互いにハグを交わす。
慰霊碑の前でフランセルは膝をついて、先に添えられていたローズマリーの横にニメーヤリリーの花を置いた。
祈るように、少し目を閉じる。視界に入る砕けた盾が、今も胸中に残る傷を抉るのかもしれない。
やがてフランセルは立ち上がる。わずかな沈黙の後、ゆっくりと彼女に案じるような視線を向けて。
「また、行ってしまうんだね」
「うん……シュファンにも話してたところ」
「……ついこの前、戦場で倒れてイシュガルドに運ばれたって聞いたのに」
「う……」
「その時も、面会しようと思ったらもういないって院長に言われるし」
「うぅ……ごめん……」
呆れたような、拗ねたような視線を受けた彼女がしゅんと項垂れる。それを見てフランセルは笑った。彼女がいつも、目の前の出来事に最善を尽くそうと、より良き道になるようにとしているのを知っているから。
いつも通りの――親友の身を案じ、無事を喜び、……失ったことを許さないと言ってくれた友の微笑みを受け、彼女は眉尻を下げて微笑み返した。
しばらくまた慰霊碑を見つめていたが、やがてそこに刻まれた文字を見ながら呟く。
「……私、ひとりじゃ何もできない……って話を、シュファンにしてたんだ」
「……」
今、かの帝国との和平交渉は決裂し、いよいよ全面戦争もかくやという状態。帝国側も一枚岩でなく、内乱の動きがあるために膠着状態を保てているというのは、不幸中の幸いだろう。
彼女もまたエオルゼア同盟軍側として、暁の一員として先の戦いに身を投じたという。その中で『謎の声』による呼びかけにより気を失ったのだというから、誰もが肝を冷やしただろう。
「今、暁の皆も意識を失って……戻らなくて……」
彼らを助けるために行くのだと、彼女は言った。
暁の細かい事情までは、彼女に聞くまでは知ることは難しい。それでも、彼女の行き先が険しい道のりであることも、簡単には解決しないこともわかる。――だが、信じている。
「……ハル、僕にできることはきっと……キミの無事を祈ること……キミを信じて待つことくらいしか、ないだろう。でも、僕はそうする。オルシュファンもきっと、そうするだろう」
かすかに彼女の肩が揺れた。
誰かに手を差し伸べられる人。信じてくれた人に応えようとする人。迷っても、悩んでも、きっと前に進める人。親友であるフランセルも、それをよく知っている。大丈夫だ、と背中を押せる。
ひとりじゃ何もできない、ではない。誰かがいるからこそ、彼女は強いのだ。
やがて一つ息を吐き、顔を上げた彼女の目は、真っ直ぐ前を見据えていた。
「……いつもありがとう、フランセル」
「……気をつけて、ハル。帰ったらたっぷり、お土産話を僕達に聞かせて」
「うん。……いってきます!」
最後にもう一度ハグを交わして、彼女は健脚の黒チョコボ、フリニーフェダルに跨がって坂道を下っていく。
残されたフランセルは、祈るように眼を閉じた。
いかなる困難も、決して彼女を挫かせることはできない。立ちはだかる壁があっても、必ず誰かが手を差し伸べる。
どんな場所であっても、どんな困難であっても、その身が築いた、あるいは、これから築く信頼が、どこへだって彼女を運んでいくだろう。
――そう、いつだって、信じている。
その旅路が、最良のものであるように、祈っている。
彼女は、かけがえのない親友だから。