「俺も姫始めしてえな〜!」
「お前はまず嫁を作れよ!」
「色街にでも行ってろ!」
エオルゼアではまだ星芒祭の余韻が残る頃、間も無く新たな主神が選ばれる降神祭が始まる。そんな年の暮れ、ドマ町人地のコザクラの伝手で頼まれていた道具を納品した帰り道。
(姫始め……)
万市場で酒を酌み交わし盛り上がっている男性達の会話が聞こえたハルドメルははて、と首を傾げ、記憶の書棚をひっくり返す。
姫始めという言葉には聞き覚えがあった。子供の頃に読んだ東方の本だったか、何かの折に聞いたのだったか。記憶を探るうちに思い当たり、あ、と声が漏れる。
(お米だ)
諸説あるらしいが、ハルドメルが覚えていたのは『姫飯』という、新年最初に炊く柔らかいお米を食べる内容だ。新年の二日目に行う縁起の良い行事であるからには、異国の文化を教えると喜んでくれる恋人に是非振る舞わねばと早速ミツバの元へ向かう。
「ミツバさんこんにちは! お米が欲しいんですけどいいですか?」
「おやハルドメル! もちろんだ、ナマイ村にだって負けないつもりだよ!」
小さな米袋にドマ町人地で採れた白米を入れてもらう。その時後ろから聞き慣れた柔らかな声に名前を呼ばれた。
「ハルドメル殿、いらしていたのだな。また物資の支援をしていただいたのだろうか? 年の瀬だというのに御足労痛み入る」
「ユウギリさん! 私もやりたくてやらせてもらってるので! 他にも色々用事ありましたし……」
いつものように丁寧に、東方式のお辞儀で深々と頭を下げるユウギリに慌てて首を横に振る。
体勢を戻したユウギリは米袋を目にして微笑んだ。
「ああ、米まで買っていただいたのだな、ありがたい」
「あ、はい。新年だから『姫始め』をしてみようと思って……」
ぴしり、と二人の女性が固まる。
「そうそう、だからお水の量とかをミツバさんに聞きたくて……?」
ハルドメルは二人の様子がおかしいことに気付き首を傾げる。何かおかしなことを言っただろうかーーハルドメルがそう思っている間にミツバとユウギリの二人は今の会話を聞いた者がいないか素早く視線を巡らせた。どうやらその心配はなさそうだと内心胸を撫で下ろすと互いに目配せする。
「あー……あー、姫飯のことだね、うんうん。難しいものじゃないけど書にしたためておくから、……ユウギリ、頼む」
「ハルドメル殿、少々こちらへ……」
「あ、ありがとうございます……?」
様子が変わった二人に戸惑いながらも、ハルドメルは促されるまま賑わいから外れた人気のない場所へ移動する。
「……というわけで、その……ハルドメル殿の言うことももちろん間違っていないのだ。いないのだが……」
「…………」
その後、これ以上ないくらいに肌を真っ赤にしたハルドメルが、ユウギリの申し訳なさそうな視線から逃げるように両手で顔を覆っていた。
冒険者ギルドに年の終わり最後の挨拶にと顔を出したオルシュファンは、石の家に戻る途中エーテライトの側でエーテルの揺らぎを感じた。誰かがテレポで出現する時に感じるそれは特段珍しいものではない。が、あらゆる場所へ飛び回り、冒険と、困った人への手助けをしている恋人を待つ身では気にするなという方が無理な話である。
ぱっと振り返るが、少し離れた場所に出現したのはハルドメルの冒険者仲間だった。軽く嘆息し、再び石の家に向かおうとしたところで、もう一つ揺らぎが起こる。
だが今し方だけでなく、ここ数日幾度も期待が外れてきたオルシュファンは小さく肩を落とし、そのことに気付かなかった。
「シュファン!」
扉を開ける寸前、待ちわびた声にハッとして振り返ると、視界に愛しい姿を捉えてオルシュファンは表情を輝かせた。
「ハル! おかえりハル! 年越しに間に合わないのではないかと思ったぞ!」
「ただいまシュファン! いつも心配かけてごめんね」
人目を憚ることなく抱き合う二人の姿には最早皆慣れっこで、微笑ましく、時には軽く囃し立てられながら見守られている。
「いつも言っているだろう、無事に帰ってきてくれるのが一番なのだぞ。今宵も旅の話をたくさん聞かせてくれるな?」
「もちろん!」
互いの温かな体温を感じてほっとしながら笑いあう。
今回二人の年越しは、フォルタン家で過ごすことにしていた。イシュガルドでは年末年始は家族でささやかなホームパーティーを行うことが多い。フォルタン家も例に漏れず、いつもはワインを出すところを祝祭用のシャンパンに変え、これまた祝祭用のガレット・デ・ロワも食卓に並ぶ。
「いつも我らに対して寛大なご配慮いただき、感謝の念に絶えません。ありがとうございます旦那様」
「今年も皆よく働いてくれた。僅かな間ではあるが、ゆっくりと年越しを過ごしてくれ」
四大名家と呼ばれる程の地位でありながら、フォルタン家とアインハルト家は使用人や配下の騎士達にも大らかな配慮をすることで知られていた。
年越しであるこの日も、食事を用意した後は使用人達にも彼らの部屋でパーティーをすること、あるいは家族の元へ帰ることを許している。特に年若い子らはこういった祝い事を楽しみにしているが、これは主人であるフォルタン家の計らいのおかげであるのだということも、よくよく言い聞かされていた。
「いいですね、皆楽しそうで!」
「同じ部屋でもいいのだが、さすがに主と同じ部屋では気兼ねするからな。あちらはあちらで穏やかに過ごしてもらっている」
屋敷内の明るい雰囲気を感じ取り、笑顔を見せるハルドメルにアルトアレールも頷く。伯爵位を継いだ彼も、父の配慮を受け継いだ。
「よう相棒! オルシュファン! 親父もお待ちかねだぜ! 旅の話を聞かせてくれよな!」
イシュガルドの近況からハルドメルの旅先の話まで、飽きることなく話は弾んだ。そうして皆で迎える年越しは、今までにない特別な夜だった。
「母さん達といた頃は、旅先の酒場で皆でカウントダウンしたりもあったなあ」
「ドラゴンヘッドにいた時はそれと近かったな! もちろん羽目を外すことはできないが……メドグイスティルに料理を作ってもらって皆で乾杯したものだ」
新年を迎えた最初の日は家族、そして友人達に挨拶をして回った。当然フランセルの元へも訪れ、変わらぬ友愛に胸が温かくなる。
『蒼天街の復興が進んだおかげで、沢山の人が温かい家の中で新年を迎えることができたんだ。すごく感慨深くてね』
大きな事業を成し遂げた親友を、ハルドメルは心から尊敬している。脅威を退けることよりも、その後に続く人の営みを守り育てるほうが、余程大変なことだと感じているからだ。
穏やかながらあちこちと動き回った一日目が終わり、二日目の夕方にはモードゥナの石の家へ二人で戻ってくる。姫飯はもちろん、フォルタン家の皆にも振る舞ってきた。
「あの姫飯というもの……柔らかく炊きあげられ実にイイものだったな! その年の最初に食べる縁起物というのも頷ける!」
「あはは……喜んでもらえてよかった!」
「名前に『姫』とあるのもイイ。大切に育てた米を、これまた大事に、その年の初めに調理する……まさに姫のように丁重に扱うといったところか!」
「う、うん……」
姫、という言葉にどうしても『姫始め』のことを思い出してしまい、ハルドメルは動揺を隠すように視線を逸らした。とんでもない勘違い……というわけでもないのだが、俗説としてのその意味を知らずとんだ恥をかくところだったのだ。耳にしたのがあの二人だけで本当に良かったと思わずにはいられない。
降神祭は明日行こうと予定を立てながら、夕食はいつも通り。シャワーを浴びた後は、オルシュファンの個室にあるソファに並んで腰掛け、地図を見ながら足を運んだ場所の位置を話す。
「こうして見ると本当に東方は遠いな。ふふふ、テレポがなければ気軽に行かせられないな」
冗談めかして言いながら、オルシュファンはハルドメルの腰に手を回し、ぴとりと身体を密着させてくる。視線は地図のままなので、本当に無意識ーーというか、ハルドメルと過ごせることが嬉しいのだと伝わってくる。
意識してしまうのは、姫始めなんていう言葉を知ってしまったからだ。オルシュファンはそんなもの知らないはずで、別に今日床を共にすると決まったわけでもないのに、一人勝手にどきどきしているのが恥ずかしい。ハルドメルは熱くなる頬を誤魔化すように一つ息をついた。
「でも用事であちこちテレポしちゃったから、しばらくはここにいるよ」
エーテルの扱いに長けた冒険者は、交感したエーテライトであればテレポでどこにでも移動することができる。が、やはり身体をエーテルの奔流に流すという魔法は負荷もかかるため、長距離、頻回な移動は避けるべきなのだ。
「そうか! それは嬉しい話だな。もっと長くいてくれても……」
言いかけて、オルシュファンは苦笑して緩く首を振った。
「駄目だな……自由に飛び回るお前を愛しているのに、ついついもっと共に過ごしたいとも思ってしまう」
「……駄目じゃないよシュファン」
ごめんね、とつい言いそうになる唇をオルシュファンが己のそれでそっと塞ぐ。柔らかく啄むだけのそれが少しずつ深いものに変わり、ハルドメルは思わず部屋着の裾をぎゅっと握った。
「すまない、こんなことを言ってもお前を困らせるだけだというのに」
「……シュファンも謝らないでよ」
はふ、と熱い吐息をこぼすとオルシュファンが笑う。そのまま頬にも唇を寄せられ、腰を抱く腕に少し力がこもった。
ーーただそれだけで、心臓が跳ね上がる。
「……、……?」
すり、と甘えるように目を閉じて顔を寄せたオルシュファンは一旦止まる。妙に熱く感じる身体に気付いてその顔を見た。ーーりんごのように真っ赤だった。
「……ハル?」
びく、と跳ねた肩には、もしや期待しているのだろうかという考えよりも驚きが勝った。恥ずかしがることの多いハルドメルではあるが、ここまであからさまなのは、まるで初めて肌を重ねた日のようだった。
視線を逸らしたままの彼女にもう一度声をかけると、上擦った声で「何でもない」と答える。ーー何でもないわけがない。
「ハル……」
「何でもない、てば」
明らかに意識しているのはわかるが、普段そういった気配をほとんど感じないハルドメルだからこそオルシュファンは理由が気になった。何より誘うのはいつも自分からであるため、恥じらう姿にむくむくと悪戯心が湧き上がってしまう。
拒否する様子がないのをいいことに、オルシュファンは腰に回した腕はそのままに反対の手も伸ばし緩く抱きしめるようにした。
「ハル……まさかとは思うが……」
「……」
「……私のために……いやらしい下着でも着けてきているのか……?」
「違うよっ!」
殊更赤くなって否定するハルドメルが逃げないようにしっかりとホールドしつつ、にやけそうになるのを耐えつつ、オルシュファンはそっと耳元に吹き込むように喋る。
「……では」
「っ、」
すすす、と指先が降りていき、閉じられた脚の隙間に伸びていく。
「自分で準備をしてきた、とか……」
「ち、ちが……ぅ……っ」
触れるか触れないかというぎりぎりのところで止まる。ぎゅ、と閉じられた脚を、その奥にあるものを暴いてしまいたいと、欲望に火が灯る。それに気付かれないように熱の籠った吐息をそっと吐き出して、オルシュファンは言葉をかける。
「……もしやハルが何か準備してくれているのに気付かないから、がっかりさせたかとも思ったのだが」
すっかり大人しくなってしまった彼女にオルシュファンは目を細めた。
「ハルが期待してくれているのなら私は嬉しいのだぞ? いつも私から誘うばかりだから……」
「ぅ……」
「そこまで赤くなる理由があるなら、教えて欲しい……」
「……」
悪戯な指先が、服の上から胸の先を引っ掻く。
「あっ……」
腕の中で震えた身体にぞくりと背筋を走るものがある。やわい力で不規則に責めれば、か細い声が喉の奥から溢れる。閉じられた脚が無意識に擦り合わされて、堪らず黒肌の首筋に唇を寄せて吸い付いた。
「んッ……ぁ……待っ……」
「…………」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて触れる唇も、もどかしい力で触れる指先も堪らなくて、ハルドメルは観念したように声を上げた。
「わた、しが……っ……ひとりで、勝手に……」
年の終わりに知った姫始めのこと。複数の説があり、その一つが『男女がその年に初めて行う秘め事』であるということ。それを行うのが新年の二日目であること。
「今日のシュファン、は……そんな気ないのに……私が、馬鹿みたいに一人で意識して……恥ずかしいだけ……」
正直に話して、情けなくて泣きそうになるハルドメルをオルシュファンは力強く抱きしめる。その顔はハルドメル程ではなくても紅潮し、喜びを宿している。肝心のハルドメルはその表情を見ていないのだが。
「私は今とても嬉しいぞ。お前はあまり性に積極的ではないと思っていたからな」
受け入れてはくれても、自分から求めることのないハルドメル。オルシュファンにとってはそうして受け入れてくれることも彼女の愛で、幸せに感じていた。だがたまには求められてみたいと思っていたのも事実で。
「……」
ハルドメルの両腕が、オルシュファンの背に縋るように回される。その力が思いの外強くて、オルシュファンは瞠目した。消え入りそうな掠れた声が、長い耳を擽る。
「……うん……私……やらしい人、だったみたい」
「ハ……」
「今年の『初めて』がいつになるのかって……きっとあの日から……期待、してる……」
抱きしめるほど、柔らかな二つの膨らみが身体に押し付けられる。
煮えたぎる湯のような熱で、思考すらも沸騰する。
「ならば……今日がその日でも……?」
ふと気を抜けば理性無き獣に成り下がりそうな自身を叱咤しながら問えば、腕の中に閉じ込めた恋人が小さく頷いた。
膝裏に手を入れて横抱きにした身体を、壊れ物を扱うような慎重さでベッドに寝かせる。オルシュファンとしてはベッドまでの短い移動ですらももどかしいところではあったが。
「『姫始め』だったか……狭いソファの上で、『姫』に窮屈な思いをさせてはいけないからな」
「っ……そ、んなガラじゃないよ……」
過酷な戦いを潜り抜けてきた、鍛えあげられた身体を隠すようにハルドメルは両腕で自身をかき抱いてそっぽを向いてしまう。そんないじらしさもまた魅力なのだと、相変わらず彼女自身は気付かない。
「フフフ、お前がそう思っても私にとっては強く美しく、一国の姫のように大切にしたい、大事な人だ」
「……ッもう……ん、」
ふっくらとした唇の感触を味わうようなバードキス。下肢の寝巻きと腹の隙間に指を侵入させ、もどかしいくらいにゆっくりと下着ごとずり下げていく。ーーと。
「……すごいなハル、もう、こんなに……」
「〜〜ッ……」
下着は既にぐっしょりと濡れており、ハルドメルがどれ程『期待』していたのかが如実に分かってしまう。糸を引いた愛液を隠すようにハルドメルは脚をぎゅうっと閉じた。だがオルシュファンにとってはその『期待』が何よりも嬉しく、かと言って欲に負けて焦らぬようにと気をつけながら今度は上半身のボタンを一つ一つ外していく。
「ん、ぅ……」
口付けはいつしか深くなり、おずおずと伸ばされた舌を愛する。口蓋が弱いことも知っているので、擽るように舌で擦ればくぐもった声が溢れた。
ボタンを全て外した寝巻きを開いて、寒さを防ぐようにとプレゼントしたインナーをたくし上げる。豊かに実る二つの膨らみを包むのは、まだ誰にも足跡を付けられていない新雪のような白。薄らと銀色を帯びた糸の刺繍とレースであしらったそれは、新年らしい清らかさを帯びている。
「……いつも、脱がせてしまうのが勿体無いほどだ」
「じ、じっくり見なくていいからっ」
「何を! 見られてもいいように選んできてくれているのだろう!」
「……」
実際その通りであるので、素直なハルドメルはつい反論できずに固まってしまう。素直すぎるのが時に心配になる程だが、オルシュファンは構わずその双丘を下着ごと手のひらで包む。
「ん、ん……っ」
身体をどれだけ鍛えていても、胸や性器は繊細な部分だ。下から支えるようにしながらゆっくりと、丁寧に揉み、撫でさする。
その柔らかさに触れることを許されている事実だけでも、充足感や支配欲を刺激される。その上相手が身悶えするほど感じてくれているのなら尚更だ。まだ下着に隠された突起には触れず、外側からじわじわと追い詰めるように刺激していく。
「ぁ、……はっ……あっん……ん」
シーツを握りしめて震える姿に興奮しない男などいるのだろうかと思いながら、オルシュファンは何度もその肌に唇を落としては赤い花を咲かせていく。
「ハル、自分ばかり期待して恥ずかしいと言ったな」
「え……あ、」
オルシュファンは、寝巻きを窮屈そうに押し上げている欲が、ハルドメルの脚に触れる。今の状態ではわかりにくいか、と下着と一緒に脱ぎ捨てれば、ぶるんと揺れて姿を見せた怒張にハルドメルが赤面する。天を向くように聳り立つそれは既に先走りが滲み、愛しい人と一つになるのを待ち侘びている。
「私とてお前が期待して、自ら求めてくれていると知ってからずっとこんな調子だ。確かに照れはあるが……お前も同じ気持ちでいてくれて嬉しいんだ」
「そ……なんだ……」
視線を彷徨わせながらもハルドメルは少し納得した。同じ気持ちでいるならば、確かにそれは嬉しいのだ。
「し、シュファン……あの……私大丈夫だよ……すっごい濡れちゃってる、し……」
その状態で耐えるのは辛いのではと、先に進んでもいいことを伝えるが、オルシュファンはからりと笑ってとんでもないと首を横に振る。
「いつも丁寧に愛しているつもりだが、今日は姫始めなのだろう? 殊更じっくりと、姫を扱うように丁寧に愛でなければ!」
「姫始めってそういう意味じゃ……っ!」
あくまでも『新年最初の秘め事』というだけのはずなのだが、オルシュファンの中では『新年最初の秘め事で姫のような扱いをする』に変換されてしまったようだ。訂正しようとした言葉は口付けで止められる。
濡れた先端が閉じられた脚をノックするように擦り付けられ腰が浮いた。ねだっているようで恥ずかしいとハルドメルは身を捩る。オルシュファンの手は再び胸へと添えられ、いよいよ綺麗に結ばれたリボンを解いた。プレゼントの包みを開くようなこの瞬間をオルシュファンは少しーーいやかなり気に入っている。
何もかも全て取り去って、オルシュファン自身も全て脱ぎ去る。肌が触れ合うところから熱が生まれ、とくんとくんと心臓が早まっていく。
「あッ……んん!」
丁寧に愛で、焦らしに焦らされた胸の突起へようやく触れられ、堪らず歓喜の声が上がる。最初はちゅ、ちゅ、と唇で触れるだけだったのに、ちろりと舌先で舐られただけでじっとしていられない程の快感が走る。もどかしげに擦り合わされる膝。閉じられた場所では滴る程の愛液が溢れているのだろうかと思うと、オルシュファンのいきり立つものもまた期待に粘液を滲ませた。
「は、ぁ……っ! あ、あっ、ッ」
「ハル……気持ちよさそうだな……」
「っ……! ぁ、ん……、っん……きもち、い……」
とろんと熱に浮かされた瞳が、言葉が、どうしようもなくオルシュファンの雄の本能を駆り立てた。ぞくぞくと背筋を走る快楽を感じながら、オルシュファンは片方を舌で舐り、片方を指先で摘み上げるように捏ねる。
「ッ、あ! ん、んんっ……あっ、あ、待っ、まって……ッ!」
高められた身体は敏感に快楽を拾い上げ震える。静止の声を聞かず、オルシュファンはそれを吸い上げ、押しつぶす。そうして少しだけ強い力で、圧迫するように乳房を掴んだ。
「あ、ッーー」
言葉にならない悲鳴をあげ、ハルドメルの身体が仰け反った。
「んーっ! んーっ……!」
続く余韻から逃げるようにくねる身体をやんわりと体重で抑え付け、オルシュファンは己が興奮を隠すことなく、荒い息のまま丸く可愛らしい耳を唇で喰んだ。
「胸だけで……イけたな、ハル……」
「んん、ん……っ」
びくびくと可哀想な程に震える身体を抱きしめ、悪戯に胸を揉みながらも、右手を閉じられた脚へ滑らせる。無理やり開くことはせず、内股を撫でるように行き来させ、登って下腹部も辿る。綺麗に鍛えられた腹筋の凹凸を感じながら、臍より下をそっと撫で、じわりと圧をかける。
「ぁ、は……っあ……!」
汗でしっとりとした肌が手に吸い付くようだ。少しずつ慣らし、最近感じるようになってきたらしいその場所を揺するように責めれば、上擦った甘い声が次々と上がる。
「っ、は……あ、しゅ、ふぁ……っ」
息も絶え絶えなハルドメルに名前を呼ばれ、顔にキスの雨を降らせる。震える手が肩に触れて、潤んだ瞳から涙が一つ転がり落ちる。
「……さわって……っ、おく……!」
「……っ」
閉じられていた脚が恐々と開かれる。堪らず噛み付くような口付けをしながら、長い指を秘められた場所へ。
びしょびしょだと形容してもいいくらい、そこはいくつも雫を溢す程に濡れている。入り口を撫でればひくひくと誘うように震え、泥濘んだそこは容易く指を受け入れる。
「は、ぁ、あっ」
待ちわびた感覚に安堵とも満足とも取れるようなため息が漏れる。だがそれは最初だけのことで、物欲しげにきゅうきゅうと指を締め付ける内壁は、どこまでもオルシュファンを誘惑してくる。
「ぁッ……ん! んん……ん、は……!」
無意識なのかどうか、腰を揺らして快楽を得ようとする淫らな恋人の姿に何度も『もういいだろう?』と白旗を上げようとする欲望を抑え、オルシュファンは徐々に指を増やした。慣らすようにじっくりと、蜜が滴るその場所を愛撫する。腹側にある場所を優しく触れれば、身体を震わせ何度も浅く達していく。
「んんーーッ!」
戦慄く秘部から指を引き抜くと名残惜しそうに愛液が糸を引く。ひくひくと誘うように震えるそこに、限界まで張り詰めたものの先端をあてがった。
「ぁ、あ……」
「ハル……いくぞ」
こくこくと何度も頷かれ、その手に指を絡めて握り締めながら腰を押し進める。奥まで突き進み、とん、と腰がぶつかるとそれだけでまた浅く達した。
「ーーッしゅふぁ、……あっ!」
「くっ……ぅ!」
背を仰け反らせ、精を搾り尽くすように痙攣し締め付けてくる内壁。すぐに射精してしまっては男が廃ると耐え、ゆっくりと律動を始める。
「ひゃ、ぅ……っ……ぁあッ、あ!」
「っ……ハル……、すごい、な……はぁッ……すぐ、イかされてしまいそうだ……!」
「……っ、だっ、て……ぁ、ああっ……!」
オルシュファンの言った通り、高貴な姫を扱うように大切に丁寧に愛された身体は、どんな小さな刺激も拾い上げてしまうほど敏感になっている。
動くたびに耳に届くはしたない水音が、自身の愛液のせいだと思うとハルドメルは恥ずかしくて堪らない。だがそれもまた興奮を煽る一つの材料にすぎなかった。
「あ、あっシュファンっ……しゅふぁん……っ!」
縋るように抱きつく身体。耳朶を打つ、自分の名を呼ぶ声。柔らかな双丘と硬くなった胸の突起が胸板に押し付けられ、息を荒げながらオルシュファンは最奥を穿つ。
姫始めだろうとなんだろうと、彼女にこんなことを許されるのは、彼女が自ら求めてくれるのは自分だけなのだ。そんな自惚れと独占欲に塗れながら、呼吸すら奪うような口付けをして。
「あ……ーーッ!!」
「ぐ、ッ……ぅう……!」
ぐりぐりと最奥まで犯し、快楽の芽を押しつぶすように腰を密着させれば、一際高い悲鳴と激しい締め付けに耐えきれない。
「ふーっ……!」
「ぁ、……あっ……」
息荒く、全て出しきるように身体を揺さぶる。オルシュファンのものが抜ければ、たっぷりと注がれたそれが溢れ出して肌を伝った。
くたりと力の抜けた身体を抱きしめ、汗で額に張り付いた髪を払えば、ハルドメルは少女のように微笑んだ。
「シュファンやらしい」
「何ぃ!?」
朝、全身を支配する気怠さを感じながら、ハルドメルはじとりとした視線をオルシュファンに向けた。あの後も何度も高みへ導かれ、身体はすっかりくたくただ。
「し、新年からこんなにするなんて……」
「くっ……だがそれはハルがそれ程魅力的で……!」
毛布を引き上げ半分顔を隠しながら頬を赤らめるハルドメルに、オルシュファンは抗議の声をあげる。
「ハルが期待して、求めてくれたから、嬉しくなって……」
だが言葉は徐々に勢いを失い、止まってしまう。神妙な顔つきになったオルシュファンに今度はハルドメルが焦った。
「すまん、確かに調子に乗りすぎたところがある。浮かれていたと言うべきか……」
「ま、待って……! ごめん、私……」
恥ずかしくて、ついいつも「やらしい」なんて言ってしまう。けれど今回の件で分かったのだ。自分だって「やらしい」期待をしてしまうことを。
「私が……私の方がや、やらしい期待したから、シュファンは応えてくれたんだよね……、ごめん」
「……正直ものすごく嬉しかったぞ。だから……うん、張り切ってしまったな」
ベッドの縁に腰掛けるオルシュファンが、照れたように笑う。伸ばされた手のひらが頬に触れて、ハルドメルは自分の手を重ねて微笑んだ。
「降神祭、明日でもいい……?」
「もちろんだ! 今日は全力で尽くす騎士となろう!」
「もう、姫はお腹いっぱいだってば!」
くすくす笑えば、額にそっと唇が落とされた。