朝、目が覚めると、腕の中にあなたがいる。
それがどれ程幸せなことか、あなたはわかっているのだろうか。
「……」
まだ夜が明けて間もない時間帯。少しずつ明るくなっていく窓の外。その光が、腕の中で眠るひとの姿を見せてくれる。
石膏のように滑らかな黒肌。夜明けの海のような紺と朱の入り混じる、波打った髪。ぽってりとした柔らかい唇。海色に輝く瞳はーー今は瞼に隠されている。
毛布の下の身体は何処もかしこも鍛え上げられていて、目を見張るほど美しい。一つ一つの傷跡すらも、誰かを、何かを守るために戦った証だ。だから、強くて美しいんだ。そう褒めれば、彼女は女性らしくないよと、眉尻を下げて笑う。そんな自信のなさも好きだと言えば、少女のように頬を赤らめる。そんなところも、また。
眠りを妨げないように、そうっとその頬に触れる。戦う時の勇ましく、キリリとした強い眼差しからも、夜、ベッドの上でだけ見せる淫らな一面からも想像できないほど、その表情はどこかあどけない。安心しきったその寝顔は、自分と共にあるからだと、自惚れてもいいものだろうか。
「ん……」
瞼が震えて、ゆっくりと持ち上がる。海色の瞳が窓から入る光を取り込んで、波打つ水面のように煌めいた。
「……」
じんわりと赤くなる肌に、いつまでも初々しい反応だと思わず頬が緩む。
「おはようハル」
「……おはよ……シュファン……」
少し掠れた声。毛布を引き上げ半分程隠れてしまった顔を惜しいと思いながら、溢れる愛しさのままその体を抱きしめる。腕の中で少しだけ身じろぎしたものの、ハルドメルもまたオルシュファンの背に腕を回して、ほぅ、と安心したように息を吐いた。
一つ一つの仕草すらも愛おしくて、その身体に手を滑らせる。リップ音をさせながら、髪に額に耳元にとキスしていたら、恥ずかしそうに首を縮こめた。
「シュファン……手つきがやらしい……」
「やらしいとは失礼な……嫌か?」
「嫌じゃ、ない、けど……」
ハルドメルはもごもごと言いにくそうにしている。オルシュファンが僅かに首を傾げると、腕の中から、小さな声。
「……た……たりない……?」
「え」
「わ、私じゃ……満足……できてない……?」
その問いに、オルシュファンは思わず脱力する。自信がないのも困りものだと苦笑を浮かべながら。
「……あぁ、足りない」
「うぅ……、え、あっ」
「何度抱いても、もっと欲しくなるぞ」
「シュ、ファ……ぁ」
身体を起こして馬乗りになる。朝の光で露わになった彼女の姿は、夜の暗闇の中とはまた違って美しい。口付けて、その柔肌に手を滑らせた。
(したいこと、いろいろ、あったのに)
ハルドメルの身体を知ったその手は、優しく的確に熱を引き出していく。好きだ、愛してる。何度も囁かれる言葉までもが、思考を蕩けさせる。甘やかな痺れに抑えきれない声を漏らして。
(まぁ、いっか)
愛しいひとに求められる喜びを全身で感じながら、ハルドメルはうっとりとその身を委ねた。