FF14 はるしゅふぁん(オル光) 短編

おませなレディは恋をする

 部屋主が戻るまでの間に掃除でもしておこうと思ったハルドメルの視界に、『それ』は飛び込んできた。
「……?」
 赤やピンクが使われたかわいらしい紙に包まれ、銀のリボンが結ばれた小さな箱。
 部屋主――オルシュファンからのプレゼントかと一瞬思うものの、誕生日はまだ先であるし、彼自身のそれもまた然り。
 今エオルゼア各地で催されているヴァレンティオンの贈り物はつい先日、お互いに渡しあったばかり。と、そこまで考えて、ハルドメルははたと気付く。
 店にあるようなものではなく、手作り感のあるその包装。ただの知り合いに渡すにしては手の込んだものに見える。
 これは――これはもしかして――。
「本命用……?!」
 口をついて出た言葉に自身でも少し動揺する。
 ヴァレンティオンは恋人のみならず、家族や友人にも『愛』を伝えるイベントだ。プレゼントを贈るのは何も不思議なことではない。だがイベントの内容上、友愛の意味合いであっても、異性相手だと恋愛事に結びつけられがちだ。
 そのために、恋愛対象に渡すわけではないという意味で『義理』のプレゼント、相手を恋愛対象に見ている、想いを告白するという目的で渡されるものを『本命』のプレゼント、と言い分けられていることも多い。

 ――オルシュファンは、正直モテる。優しく快活で、弱きを助けることのできる人だ。筋肉のこととなると少々饒舌にもなるが――それも含めて魅力的な人であると、共に過ごす程その想いはますます強くなっていく。
 ハルドメル自身、これは恋人としての惚気に他ならないと思ってはいるが、モテないわけがない人なのだ。
 まだ親友としてだけの付き合いであった頃は暢気なものだったが、今はそうもいかない。一体誰から? そもそも本当に『本命』のプレゼントなのか? もしかしたら親しい――それこそタタルや冒険者仲間達の誰かがくれたものかも?
 掃除のことなどすっかり忘れて、ハルドメルはその箱を見つめながら思案する。
 以前であれば自分に女としての魅力やかわいらしさがないのだと、勝手に自信をなくしていたハルドメルであるが、オルシュファンの度重なる言葉や行動――で、どれだけ彼が大切に想ってくれているかを今は理解している。理解したからこそ、こんなにも一つの箱を気にしてしまうのだ。

「ハル! もう戻っていたのか! 随分早い……」
 扉が開き、元気な声がして思わずハルドメルは肩を震わせた。同時に、彼女が何を見ていたかに気付いて、オルシュファンもまた思わず言葉が止まる。
「お、おかえり、シュファン!」
「あ、あぁ、ただいまハル!」
 お互い少しぎくしゃくするものの、後ろめたいことは何もないと言うように、オルシュファンは一つ息をついて微笑んだ。
「すまない、それが気になったか?」
「…………うん」
 隠し事は苦手なことを自分でも理解しているので、ハルドメルは素直に頷いた。
 オルシュファンは少し照れくさそうに微笑んでハルドメルに歩み寄る。
「驚かせてすまない。これはだな――」
「わっ!?」
 急なめまいと軽い頭痛のような感覚。よく知ったそれは抗えるものではなく、オルシュファンの心配する声が遠ざかる。意識は、彼が想起したであろう過去へ引っ張られていく。

* * *

「いつもありがとうございます!」
「なんの! 子供達のイイ笑顔が見られますからな! 私も、ここに来るのが楽しみなのだ」
 モードゥナにほど近い、黒衣森の隅にある孤児院は、今日も子供達の元気な声が響いている。
 タタルの工房も軌道に乗り、時折余剰分や端材で作ったものを、こうやって孤児院等に寄付するようになったのだ。
 すっかり顔なじみになったオルシュファンの元へ、気付いた子供達が駆け寄ってくる。
「おーしゅふぁんだ!」
「オルシュファン剣教えてよ~!」
 特に男の子達は、元騎士であるオルシュファンに剣の稽古をよくねだった。オルシュファン自身その誘いは嬉しく、時間があればもちろん相手をするのだが、今日はあいにく次の場所に向かわなければならなかった。
「こーら! オルシュファンはおしごとあるんだから、邪魔しちゃだめよぅ!」
 断りを入れる前にそう言ったのは、幼年組のお姉さん的な存在である女の子だ。少々『おませ』なところがある子供で、最近ではマニキュアに興味津々らしく、オルシュファンも絵筆を爪にあててごっこ遊びをしている微笑ましい一面を見たことがある。
「すみませんオルシュファンさん、後は大丈夫ですから! ほらほら皆、今日は導師様もいらっしゃるから準備しましょう!」
 そう言いながら、院長は子供達を連れて行った。手を振る子供達に応え、一息吐いて次の目的地に行こうかとしたところで、ちょんちょんと服を引かれた。
 振り返れば先程の少女が、少し頬を赤らめた様子で立っていた。
「どうした、皆と行かなくていいのか?」
「んー、オルシュファンに渡すものがあって!」
 小さな両手が差し出したのは、かわいらしい赤やピンクの包み紙に、銀のリボンが結ばれた箱。驚きつつもそれを受け取ると、オルシュファンは微笑んだ。
「おお、ありがとう。いつもの礼、ということ……」
「ちがうわ!」
 言葉を遮られたオルシュファンは、きらきらした少女の瞳を見た。
「これはヴァレンティオンの……『ホンメイ』のプレゼントよ! わたし、オルシュファンが好きなの!」

 ――一瞬、時が止まる。
 微笑む少女を前に固まっていたオルシュファンは、さわさわと木々が風で揺れる音ではっと我に返った。かわいらしい、小さな想いを受け取って、ついつい表情が綻ぶ。
「本命……そうか、本命か……」
 女の子は、男の子に比べて早熟だとか、ませたところがあるというのは知っている。とは言え、実家は男兄弟。剣の修行に明け暮れ、歳の近い女の子と言えばラニエットくらい。確かに彼女も大人っぽいところはあったが、それは貴族としての振るまいの一つであり、こういった恋愛事には縁がなかった。
 そんな少年期を送ったオルシュファンにとっては正直なところ未知の領域であるこの年頃の――十にもならない女の子から『本命』なプレゼントと告白を受けることがあるなど思いもしなかったのだ。ほんの少しの動揺と、微笑ましさが混じり合う。
 そして向き合う。幼くとも確かに自分の気持ちを伝えた彼女に、礼を欠かぬように。

「素敵なレディ。あなたの気持ちはとても美しく、それを向けられるのはとても光栄だ。だが私は、あなたの気持ちに応えることはできない」
 跪き、視線を合わせる。きらきらした、恋をする女の子の瞳は綺麗だった。
「私には、命をかけても守りたいと思う、大切な人がいる。だから……」
「……そう……そうなの……わたし、フラれちゃうのね……」
 はぁ、と憂鬱そうにため息を吐く彼女に申し訳なく思っていたが、彼女が俯く顔を上げると、そこにある表情は晴れやかと言えそうなものでオルシュファンは面食らった。
「そう……これが『シツレン』ってやつなのね……! わたし、わかったわ!」
「え……んん……?」
 うふふ、とかわいらしく微笑む少女は、戸惑うオルシュファンなどお構いなしだ。
「ごめんなさいっ、わたし、ヴァレンティオンに告白するのやってみたかったの! あ、オルシュファンが好きなのはほんとうよ?」
 くるりとご機嫌な様子で回ってみせる少女のスカートがふわりと広がる。
「ハルとつきあってるの、知ってるから、フラれちゃうのはわかってて……でもでも! やってみたかったの。だって女の子は、たくさん恋をしてきれいになるんでしょ?」
 シツレンだってだいじだわ! そう言って笑う少女は、少なくともフラれて傷ついてはいないようだとほっとしつつも、自分が思う以上に『おませ』な彼女にしてやられたな、とオルシュファンは苦笑した。
「フフ、そうだな。きっとあなたはこれからもっと、イイ女性になっていくのだろう」
「そうよ、あとから好きになってもおそいんだから!」

* * *

「……ル、ハル、大丈夫か?」
 意識が『今』に戻ってくる。心配そうに顔を覗きこむ空の瞳を見て――先程『視た』光景を思い出して、ハルドメルはぼっと顔を赤くした。
「だ、大丈夫!」
 顔を見られたくなくて、思わず抱きつく。驚いたオルシュファンだが、その両腕はすぐハルドメルの身体を包み込んだ。
「……『視た』んだな」
「……うん」
「ち、ちなみにどこまで……」
「え、と……あの子が、あとから好きになっても遅いよって……」
 笑い混じりのため息が聞こえ、ハルドメルはただただ恥ずかしさに小さくなる。
「ほぼ全部、だな……ふふ、そういうことだ」
「うぅ……」
 少女が送り主と知った途端、そわそわあれこれ考えて、妬いた自分がハルドメルは恥ずかしくてたまらない。一方でオルシュファンは嬉しそうに、抱いたその背を軽く叩く。
 ハルドメルも、駆け出しクラフターの頃からあの孤児院には縁があり、度々依頼物を納品しに行っていた。恋人の話はしたことはなくとも、耳聡い子らはどこかから聞きつけているのだろう。次に訪れた時は恋バナを強請られるだろうことは想像に難くない。
「ちなみに中には二つチョコレートが入っている。彼女から、『仲良く食べてね』とのことだ」
「……もう、おませさんだなぁ」
「フフ、あの様子だともう次の恋が始まっているかもしれんな」
 一つ息を吐き、ようやくハルドメルが力を抜いて笑った。

 ――お互い抱き合っていてよかったなとオルシュファンは思う。恋人のささやかなやきもちに、きっと今の自分はだらしない顔をしているだろうから。

* * *

「あ、プレゼントはちゃんと受け取ってほしいわ! 二つチョコを入れたから、ハルと仲良く食べて!」
「フフフ、ありがとう。そうさせていただこう」
「あとあと! ハルがやきもちしてたら、お話聞かせてね!」
「何……!?」
「わたしをフったんだから、そのくらいいいでしょ~!」
「むむむ……」
「男のひとってやきもちされるの好きなんでしょ?」
「……」
「きゃーったのしみー!」

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