「部屋で遊んでいるから、昼までは邪魔をしてくれるな」
従者にそう言うと、ハンゾーはゲンジを連れて自室へと入る。最近定番になりつつある流れで、従者もすぐ頭を下げて仕事に戻っていった。
シマダ城に入ることを許されるようになったゲンジは、こうして連れてくるたびに興味深げにきょろきょろとあちこちを見てまわる。だがこうして部屋に連れてくれば、今度はそわそわと視線をさ迷わせる。そうさせたのは紛れもなくハンゾーで、そんな仕草がたまらなく愛おしかった。
「……兄者、今日も『ないしょ』するの?」
「……ゲンジは嫌か?」
途端、ぶんぶんと首を横に振る。あぁ、堪らない。今すぐ理性をかなぐり捨てて、その全てを食らいつくしてしまいたいほど。
「おいで」
手を広げて呼べば、胸に飛び込んでくる小さな体。同年代と比べても小柄なその体を抱きしめ、柔らかな日向の匂いを胸いっぱいに取り込む。
しばらくそうして堪能した後、少し離れて目を見つめる。微かに潤んだ瞳は男を誘う魔性の目だ。意図的でないにしろ、そんな目を自分以外に向けてくれるなと独占欲が顔を出す。
この小雀は、自分だけのもの。世界で一番自分が愛し、大事にしている存在。そんなゲンジを、少しずつ、確実に自分の色に染め上げる。ハンゾーにはそれが楽しくてならなかった。
「ゲンジ、口を」
言われて、微かに開いた唇に吸い付いた。『ないしょ』という名の秘め事は、これで何度目になるのだろうか。
「ん、んん……ふ」
柔らかな唇を啄み、隙間から舌を差し込んだ。人より少し体温が低いゲンジは、ハンゾーの熱い舌に舐られるのがたまらないのか逃げるように身を捩った。
それを許さないと言わんばかりにきつく抱き、頭に手を添えて固定し、その口内を舐めつくす。つい夢中になりすぎて、最初はゲンジを酸欠にしてしまいそうになるほどだった。
「ぁ、にじゃ……っ」
用意していた布団の上に押し倒し、馬乗りになる。顔中にちゅ、ちゅ、と口づけながら、着物の帯に手をかけた。敏感な体は既に反応を示し始め、ぷくりと勃ち上がった小さな突起を、尖らせた舌先で舐る。
「あっ……あ……っ、ん、んん」
まだ声変わりをしていない少年の声が耳を擽る。下着を引きずり下ろし、まだ精通も迎えていない性器を手で優しく擦りあげれば、より一層声が甘くなった。
「ひ、っ……あ、ぁ、にじゃぁ……ッ……き……もち、い……」
素直な弟は教え込んだ快楽にも従順で、兄に与えられるものを全て受け入れる。例え大人達に事が露見し、説得され引き離されたとしても、ゲンジはハンゾーを信じるだろう。そんな自信がハンゾーにはあった。閉じ込められ、世間を知らぬまま育った弟。愚かで、何よりも愛おしい存在。自分が間違っているなどとハンゾーは思ったことがない。弟を愛することに、一体何の問題があろうか。
「んっ、んっ」
必死に声を耐えようとする弟に口づけ、擦りあげる手の動きを速めれば、あっという間に高みへと導かれる。まだ精通すら迎えていない弟は、快楽に体を震わせながら兄にしがみつく。
「ゲンジ、兄のことも、気持ちよくしてくれるか?」
「……ん、うん……兄者……おれもする……っ」
まだ快楽の余韻が後を引いているだろうに、ゲンジは震える体を起こしてハンゾーの着物を寛げると、迷うことなく勃起した雄に口づけた。小さな唇で、舌で、手で、拙いながらも教えられたことをこなそうと、必死に奉仕する。その姿を見るだけで達してしまいそうなほどだ。
教えられた通りに、カリや裏筋をそうっと撫で、亀頭を口いっぱいに頬張る。愛する弟に愛撫される喜びと快楽とが混ざり合い、ぞくぞくと背筋を這い上がる。
堪らずに口淫を中断させ、再びその体を押し倒した。口づけながら、ゲンジの小さな性器に自分の猛ったものを擦りつけるように腰を振った。乱暴とも言える力強さでゲンジもさすがに怯えが混じったようだったが、それもすぐに快楽に流されてしまう。
「んんっ、んっ……あッあに、じゃ……ぁッ」
「ゲンジ……ゲンジ……っ」
疑似的なセックスだった。息を荒げ、蹂躙するように腰を押し付ける。先走りでぬめりを帯びたそこがこすれ合い、快楽に思考がかき乱される。
ハンゾーはその滑りを指に絡め、まだ触れたことのない場所へ、とうとう手を伸ばした。閉じられたそこをぬるりと撫でれば、さすがに驚いたゲンジが身を捩った。
「ぁ、ん、あ……っ……? や、何……あにじゃ……ッ」
何故そんなところを触るのかと不安に塗れた目で見上げられ、ハンゾーはそっと口づけを落とす。
「大丈夫だゲンジ、兄を信じろ。ここを触ると、もっと気持ちよくなれる」
「……っで、でも……ぁ……きたな……ぃ……んんっ」
つ、と指先を侵入させる。降り積もった雪原に初めて足跡をつける時のように、真っ白な紙に絵の具を落とすように。真っ新な美しいものを自分が一番最初に穢してしまう悦びは、筆舌に尽くしがたい。
「いた……ッ……あ……」
いやいやと首を振るゲンジをなだめすかしながら、ゆっくりと指を奥へ進める。温かく柔らかい肉壁が、異物の痛みできゅうきゅうと締め付けてくる。今すぐここに押し入りたい欲望をねじ伏せ、優しく、少しずつ広げるように指を動かした。
性器を擦りながらそれを続けていると、次第にゲンジの反応が変わってくる。指を銜えこむ肉輪がひくりと震えたかと思えば、ゲンジの声に甘さが乗った。
「……ゲンジ」
「……っぁ……あ、や……なに……っ……ん」
ある一か所を指が過ぎる度、ゲンジが戸惑いの表情を浮かべ体を震わせた。ハンゾーはそれを正確に捉え、ゆっくりと、ゆっくりと責め始める。
「ひ……ッ……やッ……ぁ……!! なに……あ……やだっ!」
「嫌か、ゲンジ」
「あにじゃ、ぁ……ッ……こわ……こわ、いッ……っんんん……!! ぞく、ぞく……する……っ」
初めて味わう未知の快楽が怖いと泣く弟に支配欲が満たされていく。電流のように背筋を駆ける快楽を感じながら、腰の動きを激しくした。
「あッ……! ぁ、あっ、ん、あ……にじゃぁッ……ひっ」
「ゲンジ……ッ……!!」
互いの性器を擦り合わせながら、指で快楽の源泉を押しつぶす。びくびくと魚のように跳ねる体を押さえつけ、ハンゾーはその体を頂点へと導いた。
「ぁにじゃ、あにじゃ……ぁッ! あ……あっ……ああぁあ―――ッ!!」
「……ぐ、うッ……!!」
ゲンジの腹にねっとりとした白濁が飛び散る。それを塗り広げるように肌を撫でると、初めての、強烈すぎる快楽に囚われたままの体がびくんと跳ねた。
「ゲンジ……大丈夫か?」
ぼおっとしたまま動かないゲンジに口づけを落とし、優しく頭を撫でる。うつろな目がゆっくりとハンゾーへと焦点を合わせ、こくりと頷いた。
「……すまないゲンジ。酷くしてしまったな……嫌だったか?」
押さえつけた手首は少しだけ赤みを帯びていた。そこにも唇を落とすと、ゲンジは首を横に振り、無自覚に、妖艶に微笑んだ。
「あにじゃ……だいすき」
――ああ、本当に。
我が弟ながら末恐ろしい。今度こそ本当に犯してやろうかという凶悪な感情をねじ伏せ、ハンゾーは優しくその体を抱きしめた。
大丈夫。まだまだこれからだ。いずれ全てを食らうその日までは、じっくりとその実を熟させよう。
その瞬間を夢想しながら、ハンゾーは目を閉じた。